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[決算][Solventum]2024年第2四半期

2024年8月8日(木)のニューヨーク市場CLOSE後に、Solventum Corporation の24年第2四半期決算が発表されました。4月1日に3M Company からスピンオフして上場したばかりの新会社で、1Qの決算期間(1~3月)はまだ3M Company傘下にあったので、今回が3M Company から完全に独立した状態での初めての経営成績となります。

前回、上場して最初の決算は株式市場が開く前に発表されていたので、まだいろいろ試行錯誤中なのでしょう。はやく投資家が行動を予測できる会社になってもらいたいです。投資家の予測を裏切るのは、すばらしい製品、サービス、業績を発表するくらいでじゅうぶんです。


Financial Results

売上高と営業利益率

2022年からの3カ月ごとの売上高と営業利益率の推移は以下のグラフに示すとおりです。左縦軸の単位は100万ドル。3カ月の売上高は、21億ドル(1ドル=150円換算で3,150億円)前後で安定しています。

営業利益率は、1年前から低下し続けています。

GAAP and adjusted operating income margin declined due to lower gross margins and an increase in operating expenses related to public company and functional stand-up costs.

と言っているので、粗利益率の低下と、3Mから独立するためのコストが原因で利益率が下がっています。

売上高、営業利益率の推移

Non-GAAPの営業利益率が20.7%、GAAPの営業利益率が15.2%(上のグラフにあるのはこちら)なので、この差、約5%が3Mから独立したこと(しかも上場したこと)でかかるようになった費用と考えてよいでしょう。売上の5%、だいたい1億ドル(150億円)くらい。いくらかは減るでしょうけど永久に削れないコスト(例えば上場維持コスト)もあるでしょうから、今後どこまでNon-GAAPとGAAPの営業利益率の差が縮まるか、見ていく必要がありそうです。


セグメント別売上高

第2四半期の、4つのセグメント(+その他)の売上比率は以下の円グラフのとおりでした。

売上の過半をMedSurg、つまり外科医療部門で稼ぎ出しています。創傷治療や外科手術に使われる医療器具や消耗品を製造、販売している部門です。

部門別売上高の比率


セグメント別の営業利益

一方で、部門別の営業利益の分布は以下の円グラフのようになっており、MedSurg、Dental、HIS、P&Fの利益率はそれぞれ18.4%、27.2%、33.8%、8.0%でした。情報システムの利益率の高さが際立っています。

でも前年はMedSurgの利益率は22%、P&Fは16%くらいありました。情報システムほどではないものの、それなりに高い利益率です。またP&Fは前期(24年1~3月)にも16%弱の利益率があったので、今期急速に利益率が悪化しています。これがこのまま低下し続けるのか回復するのか、次の決算で要確認です。

部門別営業利益の比率


2024年通期見通し

2024年通期の業績予想は上方修正されました。

  • Organic sales growth(基調的な売上成長)は0.0%~+1.0%

    • マイナス2.0%~0.0%から上方修正

  • 調整後一株利益は$6.3~$6.5

    • $6.1~$6.4から上方修正

  • フリーキャッシュフローは7億ドル~8億ドル

    • 見通しに変化なし


Balance sheet

2024年6月30日時点でのバランスシートの主な項目は、

  • 総資産145.78億ドル

  • 株主資本28.67億ドル(自己資本比率19.67%

  • 流動資産33.63億ドル、流動負債25.71億ドル(流動比率130.8%

  • のれん64.47億ドル、無形資産27.24億ドル(資産の6割が目に見えない!)

となっています。


キャッシュフロー

2024年のキャッシュフローは以下のグラフに示す通りです。タテ軸の単位は100万ドルですので、現金・預金など現金同等物は10億ドルほど持っていることになります。3か月間の営業経費が15億~20億ドルくらいなので、運転資金2ヶ月分くらいを持っていることになります。

営業活動で得た利益の一部を投資に回すという、経営のお手本のようなキャッシュフローです。ちなみにこの6カ月に行った投資活動は設備投資です。


今回着目すべきは財務キャッシュフロー。1Qに長期借入金83億ドルを借り入れています。が、このうちの大部分、78.5億ドルが3M Company(親会社)に移転されています。財務キャッシュフローに表れているのはその差額の4.5億ドル。2Qも4億ドル弱を3M Companyに移転しています。それで2Qは財務キャッシュフローが大幅にマイナスになっています。長期借入したお金の大半が 3M Company に流れていることは分かります。おそらくは、ヘルスケア部門の長期借入債務を、3M Company から Solventum Corporation に移転する措置ではないかと思います。Solventum がお金を銀行から借りて 3M Company に渡し、3M はそれで自身の借入金を返済する。これで事実上、3M はヘルスケア部門の負債がなくなり、Solventum がその負債全部を負うことになります。

2023年末時点で、3M Company の長期負債は130.88億ドルあります。このうちヘルスケア部門の長期負債がどれだけあったかは不明ですが、少なくとも83億ドルはあったのでしょう。83億ドルだったら、この半年で3M への資金移転はこれで終わりです。でももしもっとあったなら、来期以降も財務キャッシュの流出が続きます。3Qの財務キャッシュフローがどうなるか、要確認です。3Mへの資金移転がなくなれば、負債は83億ドルだったということになるし、もしまだ続くとしたら、今後最大で合計130.88億ドルの資金流出があることになります。

2024年上半期のキャッシュフロー


CEOのコメント

"As we continue to execute a complex transformation, we're encouraged by our first financial results as an independent company and early ability to maintain business continuity," said Bryan Hanson, chief executive officer, Solventum. "We are starting from a solid foundation and remain focused on addressing historical underperformance and spin-related topics to unlock significant value creation over time."

CEOによると、今は歴史的な低パフォーマンスを示している状態なのだそう。米国企業のCEOは、少なくとも決算発表の場などの公式の場では strong performance とか solid results とか、経営数字はともかく定性的にはポジティブなことを言うことが多い印象なので、こういうネガティブなことを言うということは、けっこうひどいのかも😅。

当面(少なくとも2年)は配当しない、と宣言している理由は、前項で述べた 3M Company への資金移転(によって発生した負債の返済)だけでなく、経営者が業績に自信満々ではない、ということもありそうです。 


参考


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