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「こころが動く瞬間を、大切にしたい」インスピラボ研究員 齋藤 由佳

インスピラボは、富士通のデザインセンターでサービスデザインに携わるデザイナーたちが、未来を発想するための「インスピレーション」を探索するために始動したプロジェクトです。 
 
「#好奇心をドライブしよう」をコンセプトに、発想のきっかけとなる情報や体験の機会を提供し(インプット)、未来に向けた提案をつくりだす力(アウトプット)につないでいます。 

この記事では、日々活動するインスピラボ研究員の齋藤 由佳(さいとう ゆか)さんを紹介します。

インスピラボ研究員 齋藤 由佳

<プロフィール>
どんなことでも自分なりの視点で楽しさを発見し、まず実践してみることを大切に人とビジネス、デザインの可能性を広げることを目指す。


「オリジナリティが足りない」と言われて拓けた新たな道


——— 齋藤さんは、元々はビジネスプロデューサー(* 以降BPと略)でしたよね。どういった経緯で、BPからデザイナーへと転向したのでしょうか。

*ビジネスプロデューサー:お客様との窓口として情報収集や企画提案などを手掛け、ものを売る、提供するだけではなく、プロデュース(提案)をする役割。

齋藤: 2022年4月にポスティング(社内公募)で、BPからデザイナーになりました。

ポスティングの少し前から、自分のキャリアを改めて考えていて。「自分の興味のあることってなんだろう」って問いを立てたんです。その時に「自分は植物に興味があるな」と気づいて。いろいろ調べていく中で、「ランドスケープデザイン」という分野に出会いました。

さらに調べると、通信制の美大でランドスケープデザインが学べることがわかり、BPをしながら2年間その大学に通いました。そこでランドスケープはもちろん、デザインそのものがすごくおもしろいなと感じ、「デザインを仕事にしたい」と思ってポスティングに応募しました。

ランドスケープデザイナーの先生が設計した公園に行き、
設計の視点を聞きながらフィールドワーク
卒業制作で描いたランドスケープ
お寺の中に図書館、オフィスとして使い様々な世代・仕事の人が交錯する場を描きました


——— 社会人で2年間大学に通うのは大変だったのではないかなと思いました。そんな齋藤さんが感じた、インスピラボでの印象深い活動ってどんなものでしょうか?

齋藤: 異動してすぐ実施した、宅配ビジネスの未来をテーマにしたワークショップですね。ここで先進事例や新たな価値観について話すことになったのですが、最初はどうやってやったらいいか何もわからなくて(笑)。とにかく思ったのは、「BPの時とは全然仕事が違うな」ということでした。

BPの時は、客観的な正解を求めて仕事をしていて。これは正しいのか、その正しさにはどういったエビデンスがあるのか、とか。

一方、デザインにおいては「発散と収束を繰り返しながら気付きを得る」ことが重要なんだな、と思いました。客観的な正解よりも、「自分はこう思った」、「自分はこれがおもしろいと思っている」、「自分はこれが新しいと思っている」といった、デザイナー個人の主観が大切にされているな、と。

そもそもの考え方とか、マインドセットがBPとは全然違うと感じましたね。


——— 別の職種からデザイナーへと転向すると、マインドセットのギャップに驚いたりしますよね。そうしたワークショップのインプットをまとめた時、どなたかからフィードバックはありましたか?

齋藤: お客様からは、「インプットがあることによって発想が広がった」というコメントを複数いただきましたね。改めて、インプットって大切なんだなと感じました。

一方社内からは、「(インプットの)オリジナリティが足りない」というフィードバックをもらいました。

ここで、「自分の視点についてオリジナリティを磨くことを今までそんなにやっていなかったな」と気づいて。自分の中で「これ新しいな」とか、「これおもしろいな」と思っても、「それって何の役立つのかな」と思ってしまうことが多かったんです。

——— 「オリジナリティが足りない」というフィードバックをふまえて、何か取り組んだことはありますか?

齋藤: 「自分の心が動くか」といったことを起点に、自分の視点を磨くため、新しいものをどんどん見に行くようになりました。

その後、今度はスポーツをテーマにワークショップのインプットをまとめることになったのですが、その時はまとめること自体を楽しめるようになりましたね。

スポーツについてわからないことも多かったので、ワークショップ前に実業団のスポーツ選手にインタビューしたりもしました。外にどんどん出たり異業種の人と話すことで、おもしろいものや新しいものに対する感度が上がったと思います。

ワークショップでも「これは新しいですよ」「これはおもしろいですよ」と自信をもって、自分自身も楽しみながら伝えられました。

幸せやウェルビーイングを軸に考えることの大切さ


——— 齋藤さんは2023年6月にインスピラボで発行した「幸せに働くためのインスピレーション」にも携わっていますよね。経緯や取組みについて教えていただけますか?

齋藤: 富士通ではWork Life Shiftというサービスがあって、インスピラボにはこのサービス開発にかかわっているメンバーが多かったんです。その中で、Work Life Shiftのインプットにしたいねという話から、このレポートを作成することになりました。

レポートには、「働く×幸せ」を起点に、日本と海外の働く価値観や、海外の働き方の先進事例、有識者へのインタビューを取り入れています。

——— 海外と日本の「働く×幸せ」を見比べてみて、これはおもしろいなとか、これは新しいなと思ったことはありますか?

齋藤: そうですね。私は学生時代から、北欧の人の働き方に対する価値観や、ウェルビーイングへの考え方に興味を持っていました。

私自身、美大に通って学び直しをしたり、BPからデザイナーへとキャリアチェンジしたわけですが、日本だと「リスキリング」と声高に言われたり、「キャリアを大きく変えるって意識高いね」と揶揄されてしまうこともあります。

ですが例えばデンマークだと、フォルケホイスコーレ(*)など、「自分を見つめなおす」といった人生の時間が、日常の延長線上にあるように思います。そういった場や時間が、もっと日本にあったら良いんじゃないかなと思いました。

*フォルケホイスコーレ:18歳以上を対象とする試験も成績もない全寮制の学校。コミュニティの中で自分を見つめ、社会を学ぶ生涯学習の場。

——— ありがとうございます。他にも海外のリサーチをする中で、日本にもっと必要なんじゃないかと思ったことって何かありますか?

齋藤: やっぱりウェルビーイングが働き方の軸にあるという点ですね。そもそも幸せが働き方や人生のベースにあるなと感じます。そしてライフスタイルにも「幸せ」がつながっているなと。

人生100年時代と言われたり、自分自身何歳まで働くのだろうと考えた時、幸せやウェルビーングを軸に考えるということはすごく大切な価値観だと思っています。

幸せな働き方=サステナブルな働き方というテーマで
社内でオンラインのデンマークツアーを開催
デンマークをガイドしてくださるYukieさんを加え、
日本在住経験があり現在はデンマークに住むデザイナーのJensも参加。
デンマークの良い点ばかりではなく、難しく感じる点も教えてもらいました

外に出ていくことで自分自身が揺さぶられ、軸ができていく

——— ここまでお聞きして、齋藤さんはしなやかに、無理なくご自身を変え続けているのかなと感じました。そんな齋藤さんが今後インスピラボでやってみたいことはどのようなことでしょうか?

齋藤: 自分の好奇心が動くことや「好き!」という素直な気持ちを大切にすること、ですね。

最近はフィンランドの人の価値観や教育に関心が出てきて、今年の夏にフィンランドに行ってきました。これが今後何につながるかはわかりませんが、「おもしろそう!」という直感で行ってみた感じです。

フィンランドの視察は、noteにまとめています

行ってみて、自分の日常とは全然違う価値観やカルチャーに触れ、新しい気づきがありました。

フィンランドのいいところはもちろんありますが、一方で「これは日本がいいな」ということにも気づくわけで。そうして自分自身が大きく揺さぶられることで、自分の軸ができていくのかなと感じています。

だからこそ、外に出ていくことはすごく大切にしたいなと思っています。

——— フィンランドの教育にも関心があるとのことでしたが、何か現地で発見したことはありますか?

齋藤: 私が素直に思ったのは、社会システムがすごくシンプルだということですね。

たとえば、学校の先生は服装や生活の指導はしないんですよね。

もし生徒に生活面での不安があったら、ソーシャルワーカーたちにつなぐ。
生活面でのメンタルケアはその分野の専門家に任せるという考え方なのかな、と。

先生は学業を教える役割。だからこそ子どもたちの相談相手になる時間ができ、生徒一人ひとりの個性に向き合うことができる。

ベースのシステムがシンプルだからこそ、心や時間に余白が生まれ生徒や先生のウェルビーイングにも向き合うことができるのかなと思いました。

OMNIA職業学校にて、フィンランドの職業教育を視察する様子


——— ありがとうございます。最後に今後の活動で、あらためて大切にしていきたいことがあれば教えてください。

齋藤: BPの時に感じていたことは、忘れないようにしたいですね。

今私はデザイナーとして働いていますが、「これをBPの時に読んだらどう感じるだろう、どう思うだろう」という視点を持っていたいな、と。

BPとデザイナー、複数の視点を持ちながら発信や活動をしていきたいなと思っています。

(インタビュー・執筆:小針美紀


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