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【1分読書】『うつろい』

『うつろい』
 風呂に入る。猫が風呂場を覗きに来た。
「今日も怒られたわ」
 おじいさんがいなくなってから、私は何のために日々生きているかわからなくなっていた。それでも、おじいさんがこの世に残してくれた思い出を頼りに生きている。これから前に進まなくては、と何度立ち止まったことだろうか。
「黒」
 黒はすっと身を引き風呂場を去ってゆく。
 明日は墓参りだ。布団に入り、常夜灯だけ付けておくと、隣におじいさんの気配を感じた。横を見る。誰もいない。廊下の方で黒が餌をかじる音がする。そっと眠りにつくが、やはりいつになっても一人きりの晩は耐えきれなくなるほど寂しいものだ。墓参りの前日の夢には決まっておじいさんが現れてくれる。今日も夢の中で仲良く過ごしてやってくださいな。

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