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【1分読書】『話の忘れ物』

『話の忘れ物』
 貴方。私はこの髪が乾くまでに貴方と分かり合わなければならない。髪は少し水気を無くし、表面が少し明るくなっている。
「もういいだろう」
 彼が言う。私は悲しかった。そんなことしか言えない彼がとんでもなく惨めに思えた。
「なんか言えよ」
 彼は、私が怒っているか何かと勘違いしているのだろう。そうして行き違いがどんどん増えてしまう。しかし私は何も言えない。そう、彼と出会って私は言葉というものを失ったのだ。私は話したい。本当は貴方と言葉で向き合いたい。
 髪がどんどん乾いてくる。もう涙のようなしずくは落ちない。


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