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【1分読書】『小人』

『小人』

 あそこに小人が居るなどと、かつての島住民が言った。私はそれを聞き流し、自分の見てくれを思い悩むことは無かった。私は身が小さい分、太陽の声を聞けたり、海の表情を読み取ったり出来るのだ。それは何にも代えがたいこと。

「聞かぬか」

 役人が島にきて私に言った。私はその時、役人に背を向けて、田を耕していった。私はとうに人の話を聞くのを止めている。役人の声はないも同然だった。

「聞かぬなら」

 そう言って、腰に携えた刀を抜こうと手をかけると、太陽が陽を強くした。役人はその陽に目を細め、私を見失った。

 そういった事が多くあった。そのうち、人々は私に見向きもしなくなった。



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