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君の味方は、いつも僕で。僕の原点は、いつも君で。

あの春の日、君は期待に胸を踊らせていた。坂道を登るその足はいつもより軽やかで、まるでご機嫌な幼児のスキップだったろう。

坂を登り終えた君は人混みに目をやる。真新しいスーツに袖を通した大学1年生がキャンパスには溢れかえっている。

今と相変わらずバカな君は人混みの中で周囲を見渡す。「かわいい子がいっぱいいる」なんて思って内心にやけている。それを隠しながらキャンパスに一歩を踏み出す。その一歩一歩は歩き始めた子供のようでたどたどしいけど、未来への期待に溢れた確かな一歩だった。

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じめじめとした大気中の微細な水分が体にまとわりつく季節になった。空は憂鬱な鉛色をしている。ずっとご機嫌斜めだ。

水無月の曇天のもと、君もご機嫌斜めだ。スキップするようだった足取りは今はみる影もなく、亀の一歩のような愚鈍さで歩を進めている君がキャンパスにいた。ゆっくりと歩く、君の顔に目をやると梅雨の空みたいに曇っている。いつ日が差すのか不安になるような表情だ。

胸いっぱいに期待を詰め込んだ君。長い受験勉強で大学に憧れを募らせた君。春のあの日の君の姿はそこにはなくて、失望し途方にくれる君がいた。「学ぶ場としての大学」に憧れを募らせた君は「モラトリアムとしての大学」に軸足を置く人の多さに絶望し、辟易していた。
勝手に周囲に期待して、勝手に周囲に失望してしまっていた。

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途方にくれる君はもがいた。「どうなりたいか」と何度も自分に問いかけた。正解のない問いを考え続けることは並大抵のことじゃない。その問いかけの中で傷ついたり、だれかを傷つけたりしたこともあった。

正解のない問いを考え続けたその先に広がる景色は、あの頃の君にはまだ見えていなかっただろう。それなのに繰り返し考え続けた。

時には周囲の人の声、思考、姿。それらに振り回された。耳元で密かに誰かの指示が聞こえ、それに従ってしまうかのように惑わされったりもした。

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あの時、君が問い続けてくれた。傷つきながら何度も問い続けてくれた。だから、僕は今納得して自分の人生を生きているよ。暗中模索でも前に進もうとし続けてくれた君のおかげで、これからの僕は安心して未来に一歩を踏み出せる。
もし迷子になっても、限界を感じても、僕には君が紡いでくれた原点があるから。「どうありたいか」と原点に戻って来れるから。

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耳障りのいいことを書いてきた。残念ながら過去や経験を正当化したがるし、美化したがるのが人間だ。そうして、自分の人生に意味や価値を見出していく。過去の自分に感謝はしているけど、人間なんてそんなものだ。
ここまで読んで「クサいこと言ってんな。ぺっぺ!」的な感想の人もたくさんいるだろう。僕も自分で書きながらちょっと思ったぐらいだ。

でもさ、自分の過去や経験ぐらい肯定してあげてもいいんじゃなかな。もちろん美化しすぎて、誇張や虚偽になるのは良くない。だからと言って自分を受け止めることや肯定することをなおざりにしてると自分の最高の味方のはずの自分がいなくなっちゃうかもしれない。

僕はどんなことがあっても、どれだけ大学生活に絶望しても君の味方だ。どれだけ自分を責めることがあっても、どれだけ自分を嫌いになりそうになっても、ずっと君の味方だ。

そして、君はどんなことがあっても僕の原点だ。君の葛藤や試行錯誤の延長線上に僕はずっといる。君と僕の時間軸が交わることはないけれど、ずっと君が僕の原点だから。

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