人事制度立ち上げの次の山。組織変化に合わせた”人事制度アップデート”にどう向き合うか?
こんにちは、カミナシHRの井上です。
2021年6月に最初の人事制度をリリースしてから約2年。2023年7月にメジャーアップデートといえる規模の人事制度改定を行いました。
以前に公開した以下noteでは、人事制度の立ち上げタイミングで意識するべきことなどについてまとめていましたが、今回はいずれ訪れる次の山である「つくった制度のアップデート」にどう向き合ったか?を綴ってみたいと思います。
良ければ以下のnoteも併せてご覧ください。
さて、このnoteの前半(Part 1.)では、主に「組織成長の過程でどのような課題が発生してきたか?それをどのような制度改定で解決していったか」についてご紹介します。
直近で制度改定を予定していない方も「将来的にこんな課題が出てくるかもしれないのか〜」というサンプルとして読んでいただけると良いかもしれません。
そして後半(Part 2.)では、実際に制度改定をしていったプロセスや、その中で意識したこと、やってよかったことについて振り返り的にご紹介します。
こちらは直近で制度改定を控えている方にとっての、プロジェクトを進めるうえでの参考情報としていただければと思います。
比較的長文になってしまったので、前半・後半どちらかだけをつまみ読みいただいても良いかなと思います。
はじめに|カミナシ人事制度の概要と今回の改定方針
カミナシ人事制度のスタンス
はじめに前提情報として、カミナシ人事制度の大枠について簡単にご紹介します。
カミナシの人事制度は、大きく[等級制度][評価制度][報酬制度]の3つから構成されています。それぞれ以下のような目的を据えて、それを実現できるような制度設計をしています。
人事制度のアップデートは、これらの目的に対して発生しているギャップを解消するため、あるいは将来的に発生するギャップを予防するために行う、というスタンスです。
人事制度 初期バージョンの特徴
前述のようなスタンスをベースに立ち上げた人事制度の初期バージョンでは、過度に詳細化・具体化をせず、ミニマルにデザインすることを意識していました。
イメージとしては、プロダクトづくりにおけるMVP(Minimum Viable Product)の考え方と似ているかもしれません。完璧さや緻密さを目指すのではなく、最低限の重要な要素を組み入れてリリースし、利用される中で見えてきたり現場メンバーからフィードバックを受けた課題やニーズを段階的に制度に組み入れていくことで、やたら細かいだけで使えない制度に成り果てることを避ける意図があります。
つまり、抽象度や自由度の高い制度としてスタートしているので、改定においてはそれに対して段階的に具体性を持たせて一定の道筋を整えていくプロセス、とも言えそうです。
今回の改定方針
改定をこのタイミングで行った理由としては、運用でフィードバックを貰う中で「このタイミングで解決しておきたい」というものがいくつか存在していたことが主な要因ですが、その他にも組織が100名規模に到達することが見えてきたこともあり「ここから数年先までの運用に耐える設計にリフレッシュする」というタイミングとしてちょうどよかったという部分もあります。
このような前提の中で、今回は「300人規模の組織へのスケーラビリティを担保できる制度」をキーワードにアップデートを行いました。
今回、具体的には目標・評価制度と報酬制度に手を入れています。この先の具体的な部分の紹介の前に改定前の制度の全体像を図示しておきますので、読み進める上での前提として把握いただけると理解がしやすいかとも思います。
Part 1. 組織成長の中で発生した課題と対応
課題①:マネジャーごとの目標設定・評価の観点ブレを防ぐ
初期バージョンをリリースしてから数回の評価期を経る中で、ミニマルゆえに自由度の高い部分についてのマネジャーごとの観点ブレが一定発生していました。
元々の制度では「業務成果」と「自己成長やバリュー体現などの、業務成果”以外”」という2つの枠組みで目標設定をしていましたが、特に2つめの「自己成長やバリュー体現など業務成果以外の目標」という方の項目の自由度が結果として高くなっていました。
この自由さにより、マネジャーやメンバーの考え方によって目標の作り方・すり合わせの観点にブレが生まれやすいということが、制度を運用していく中でわかってきました。
例えば、「マネジャーのAさんは業務成果にフォーカスして目標設定や振り返りを行い、それを元に評価をしている」、「一方でマネジャーBさんは等級要件の1つになっているバリュー体現も非常に重視していて評価で考慮している」といった具合です。
カミナシの等級要件では、業務成果に関する期待に加え、「バリューの体現」や「採用への貢献」についての期待も要件として含めています。
制度の基本としても「この等級要件に対して期待通りのパフォーマンスを果たしているか?」という観点での評価になっているので、評価をするうえでは等級要件を網羅的に考慮することが望ましいです。
一方で制度フォーマットでは項目を細かく指定して目標設定や評価をするところまでは設計していなかったため、実態として重視の具合はマネジャーの裁量になっていました。
このような課題に対して、評価に対する観点を改めて検討し「業務成果」と「等級要件の役割発揮」という2つの観点に再整理しました。主に「成果以外」という自由度の高い状態にしていた項目を「等級要件の役割発揮」とスコープを明確にする変更をしています。
更にはカミナシの等級要件で示している3つの要件「業務遂行」「バリュー体現」「採用貢献」についてそれぞれ目線合わせをすることも制度上で明確にし、運用フォーマットなどでも項目化しています。
これにより、今後マネジャーやメンバーの人数が増えていったとしても、制度の枠組みに沿って目標・評価運用を行えば確実に必要な要素をすり合わせられ、観点の抜け漏れやブレを減らしていける状態をつくることができました。
課題②:性質の異なるいくつかのパフォーマンスに対し、それぞれをきちんと評価し、報いる
改定前の評価制度において、最終的な評価は「総合的な評価」として単一の評価スコアを決定する形式でした。この単一の総合評価形式では、いくつかのケースでスコアリングに対する課題がありました。具体的なイメージでご説明します。
いずれのケースでも、「納得感を持てるか?」や「正しく報いられているか?」という観点では課題を感じるシチュエーションで、それは「半期の間に結果として現れた成果」と「その人自身の役割発揮レベル、レベルの成長」を渾然一体にして評価をしなければならない仕組みになっていることに起因して生まれている課題でした。
そこで「課題①」で再設計した目標・評価の観点の分割が活きてくるのですが、この分割がそのまま評価スコアリングの単位としても利用される、つまりは「成果のパフォーマンス評価スコア」と「等級要件のパフォーマンス評価スコア」という2つの評価スコアを決定する方式に再設計をしました。
これによって上記ケースのAさんは成果の評価、Bさんは等級の評価において、それぞれ高い評価をつけてフィードバックすることができるようになります。
かつ報酬面においても、業務成果と等級要件の役割発揮、それぞれに処遇を対応させる(※詳細は後述)ことで、経済的にもきちんと報いることのできる制度になりました。
ちなみに文章構成の都合上、課題①への対応が結果的に課題②にうまくハマったような書き方になってしまっていますが、実際は当然2つを独立的に検討していたわけではなく、課題全体を俯瞰して捉え設計しています。
課題③:性質の異なるパフォーマンスへ適正な処遇を可能に
評価スコアリングを[成果]と[等級(役割発揮レベル)]の2つに分け処遇も対応させる、と前述しましたが、具体的な方法としては「成果給」という基本給とは別の枠組みの報酬をアドオンで設けました。
カミナシにおける成果給とは、一時金形式で半期ごとに一括支払いする形式の報酬で、半期の[成果評価スコア]に基づいて金額が決まり支払います。
この導入によって、成果に対しては成果給で、役割発揮レベルについては給与(昇給)で、それぞれのパフォーマンスに応じて個別に報酬を設定し報いることができるようになりました。
ちなみに、成果給とベース給与のウェイト比率を職種ごとに変えています。イメージとしては、売上目標を持つセールス系職種など、半期成果に対するコミットメントが大きい職種は成果給のウェイトが大きく、そうではない職種は給与昇給のウェイトが大きくなっています。
かつ、これまでのベース給与の水準は変更せず、現在の給与に対して成果給の金額分を完全アドオンで追加するかたちでの導入をしており、「評価次第では成果給の導入のせいで給与額が今より目減りする可能性がある」という不安を発生させない対応をとりました。こちらは社内インパクトもふまえてHR・経営とで意志を持って決定した部分です。
導入初期ということもあり、金額ボリュームは比較的小さくスタートしていますが、今後の業績や運用状況を見ながら、逐次見直しをしていきたいと考えています。
制度の改定内容検討を実施してみて思うこと
この章では、制度改定の内容や、その背景についてご紹介してきました。
実際の課題を把握したり、それに対する解決策を検討していく中で感じたことですが、やはりすべての課題を予見することは非常に困難なので、いかにタイムリーかつ的確に課題を拾い上げ、その解決策を適切に制度に組み込んでいけるか?が重要だと感じました。
よく「運用8割」という言葉も耳にしますが、まさに制度が形骸化せず生き続けるためには、継続的なカイゼンが運用の前提になっていることが肝だと思います。
Part 2. 人事制度改定を行う上での効果的なプロセス
ここからは、上記で紹介した人事制度改定をどのようなプロセスで進めていったか?についてご紹介します。
プロセスの全体像は以下のようになりますので、1つずつ概要をご紹介します。
ちなみに全体を通じては、以下のポイントを常に意識していきました。
マネジャーのチームマネジメントを支援できるものになっているか
マネジャーの課題を解決できているか
特定チームや職種での運用でクリティカルなボトルネックが生まれていないか
またプロセスを進める上の心構えとして、カミナシのバリューでもある「現場ドリブン」を重視し、現場のマネジャーからのヒアリングやフィードバックをもらい一次情報をしっかり確認するタイミングを設けたり、「全開オープン」というバリューの精神に沿い、しっかりと改定経緯やプロセス、更には捨てた選択肢なども含めて可能な限り現場に対する説明責任を果たすことも意識して取り組んでいます。
ステップ1:仮説を携え、マネジャーへのヒアリング・課題の抽出
様々なタイミングで個別に課題やニーズはもらっていましたが、改めて現場から課題を収集しきるところからスタートしました。
そのためにまず、事前に把握していた課題やニーズや、それと併せて「現状課題としては出てきていないが、これから出てくるであろう課題」についてもHRの視点から考慮すべきポイントとして追加しながら、以下のような要素について情報をまとめていきます。
現場で発生している&今後しそうな制度関連の課題(主に直接もらったフィードバックの情報や、一部HRでの仮説も含まれる)
それが発生する要因(仮説)
解決策のオプションイメージ
それを携えて経営陣・マネージャーにヒアリングを行い、仮説の検証や、把握できていなかった新たな現場課題の付け足しを行うことで、制度改定開始時点でのフレッシュな課題情報を整備していきました。
ヒアリングにおいてのポイントは、ある程度仮説を持って臨み、ヒアリングの中で示しながらその妥当性や派生して思いつく課題などを深掘りしていくという点です。逆に言えば「なにか課題は思いつきますか?」のようなオープンな質問1つで臨まないように意識しました。
ヒアリングにあたっては主要な職種を網羅できるよう多くのマネジャーに協力いただき、1人ずつ深く話を聞く時間を設けさせていただきました。こういったことに快く時間を割いていただけるマネジャー陣のサポーティブな姿勢や、組織関連の制度に関する当事者意識の高さには頭が上がりません。
ステップ2:ヒアリング情報をもとにした制度のβ版設計
ヒアリングを一通り終えたあとは、その課題の分析や重要度の判断を行いながら、改定を行う内容を検討していきます。HR内で議論や思考を重ねながら一歩ずつ形を作っていくプロセスはとてもタフでしたが、同時にエキサイティングでした。
ちなみに課題の分析で気をつけたことは「◯◯をしたい」というような具体的な手段(How)のニーズを伺っても、それをそのまま検討するのではなく、「なぜその手段が必要なのか?」という根本理由(Why)をしっかり押さえることでした。
実はWhyをふまえると他にもHowの選択肢がありもっと良いオプションに辿り着ける可能性がある、ということもありますし、あるいは2つの相反するHowのニーズを紐解くと実は共通の課題意識(Why)から来ていた、ということもあったりします。
ステップ3:スプレッドシートベースのモックアップによるマネジャー検証を実施
β版といえるレベルで制度を設計した段階で、マネジャーにβ版制度に対するフィードバックをもらうプロセスを設けました。
ヒアリングにあたっては文字だけで説明して理解してもらうのではなく、実際に擬似的に新制度ベースの評価プロセスを体験しながらイメージを膨らませてもらいたく、システムのUIに似せて作成したスプレッドシートベースでの評価シートを用意しながら、テストプレイ的に検証を実施してもらいました。
検証の結果として、例えば「イメージ通りに課題感が解決されている」であったり、逆に「ここのロジックは細かすぎて運用できるイメージが湧かない」という直接的なフィードバックコメントをいただいたり、あるいは触ってみてもらって手が止まる様子や、理解や記載に困っていそうな様子を確認しながら、間接的に「理解するコストの高さ」や「運用が回らないリスク」のフィードバックとして把握していくこともできました。
実際このプロセスを経て方向転換した要素も少なくなく、制度策定・改定において現場で実際に運用していくマネジャーからリリース前にフィードバックをもらうプロセスを入れるのはかなりおすすめです。
企画をしていると、複雑なロジックや設計にしすぎてしまう、ということをやってしまいがちだと思うのですが、今回の検証を経てフィードバックももらい見送っています。
私達の実例としては、「等級要件3つぞれぞれに対してスコアをつける」であったり、「目標ごとに重み付け(イメージ→ 目標A:80% 目標B:20%)をして、目標個別のスコアをつけた上で、成果の最終スコアを重み付けをもとにロジックで自動算出する」というような設計を当初は行っていたのですが、検証の結果「複雑すぎる」であったり「もう少し制度の変更のステップを小さく刻んでも良いのではないか?」という提案をもらい、もう少しシンプルな設計に落ち着いています。
ステップ4:制度のファイナライズ&説明会の実施
続いては、マネジャーからのフィードバックをふまえ、制度を最終的なかたちに整えていきます。
その後は、概要説明のドキュメントを作成しつつ、全社向けの説明会を実施しました。説明会ではスライドベースでプレゼンテーションを行いながら、質疑応答の時間も設けてしっかり理解をいただける機会をつくっています。
またメンバーから質問を受ける立場でもあるマネジャーには一足先の日程で先んじて説明会を実施し、質問をもらって疑問解消をしたり、制度の内容を咀嚼する時間を確保しておきました。これにより、全体説明会の時に特に丁寧な説明が必要な部分をイメージしたり、マネジャーがメンバー向けの説明会の直後にメンバーから質問されたとしてもしっかり回答できるような体制を現場側にもつくっていくことができます。
また非同期の質問受付フォームも用意し、説明会後に頂いた質問はFAQの形で誰でも閲覧できる場所に蓄積していくことも行いました。
ステップ5:制度リリース&運用状況のモニタリング(※現在進行中)
最後は現在進行中のプロセスですが、実際にリリースしたあと、現場でどれくらい想定どおりに運用がされているか?をモニタリングしています。
カミナシではHRBrainという目標・評価運用のツールを利用しているので、評価管理者が各メンバーの成果目標などの記載状況をツールから定期的に確認しながら、全社的に上手く使えていないところがないか?であったり、部門ごとに運用の成熟度や内容のレベルに差や特徴はないか?を確認しています。上手くいっていない特定部門がある場合などには個別にマネジャーをケアしにいくことも想定しているプロセスです。
こちらは現在進行系のステップですが、現在HRBP専任者が就き、HRからの直接的な部門支援体制が立ち上がりはじめているので、今後はHRBPとの連携も深めながら制度の実行強度を高めていくステージかなと感じています。
上記の改定プロセスを推進してみて感じたこと
制度設計と言うとどうしても理論・理屈が先行して頭でっかちになりがちになってしまいがちかと思いますが、グッと気をつけて現場の課題を一次情報として取りに行くことは、本当の意味で制度設計・制度改定を成功に導く必須アクションだなと思いました。
もちろん、理論・理屈も重要です(個人的にはむしろ大好きです)。制度設計の枠組みをスピーディーに作ったり、妥当な仮説をつくるうえで、先人の理論・理屈を使わない手はないので、要はバランスなのだと思います。
さいごに
しっかりと書き切ろうと思うと、思いのほか長文になってしまいました。。読み通して頂いた方、本当にありがとうございます。
この人事制度に限らず、カミナシでは「今よりもっと良く」という向上心とカイゼンマインドに溢れたメンバーが、日々お客様への提供価値を高める努力や、そのために自分たちが成長したり、生産性を高めたりすることに努力を惜しまず日々過ごしている、気持ちの良い環境です。
そして、仲間を大募集中でもあります。
この記事を読んで興味を持っていただいたHRの方はもちろんですが、全方位的に採用中ですので、幅広い方からのエントリーをお待ちしています!
言葉数は少ないですが、X(旧Twitter)もやっています。→ @INOUERAY
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