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大学には受かっても入りたくないキモチ

30年くらい前の3月、私は高校を卒業した。

しかし、卒業式の時点でも、進路は決まっていなかった。国立大学は合格発表が遅いのだ。

高校は公立普通科の進学校。周囲は大学進学する人ばかりだったし、なんとなく大学進学することに決めていた。

就職はめんどうくさくて嫌だった。受験勉強とか入試はめんどうくさくなかった。

特にどこの学科に行きたいという希望もなかったので、とりあえず、私立理工学部とか私立医学部とか国立医学部を受けた。

そして、受験したすべての大学に合格したのだが、入学したくなかった。だから、
「入学は辞退して浪人する」
と親と担任に伝えた。浪人するといっても、何か合格目標があるわけではない。浪人は、大学に入らないための口実だった。

親は、自分が大学に入っても入らなくても、どっちでもいいと思っていたらしいのだが、高校の担任教師は
「国立医学部なんてそう簡単に受かるもんじゃない。君がもう一度受けて受けるかどうかわからない。入学すべきだ」
と助言した。常識的な意見だと思う。

しかし、自分は常識的な高校生ではなかった。

「自分は医師になるために医学部を受けたんじゃないんだから、そんなことはどうでもいいです」
と答えた。ひどい高校生だ。

「何もしたくない」から大学受験をしたので、合格しても入学したくないのである。

実家から遠く離れた土地に転居して、そこで新しい暮らしを始めるのは、ひどくめんどうくさく感じた(実家から通える範囲内に大学はなかった)。

大学進学コースの高校生で、大学入試に合格している、今回入学辞退して、来年受験しても、受かるかどうか微妙な難関学部である、国立医学部だから学費はごく安く(当時、入学金15万円、年間学費30万円)、実家の家計は裕福である。

この状況で、「大した理由もなしに、入学を辞退して浪人する」のはひどく抵抗があって、入学手続きをせざるをえなくなった。

親にワンルームマンションを借りてもらい、転居して、親と一緒に入学式に出た。

最初に入った地方国立医学部では、入学式に出たのみである。

時たま、大学に行ってみたが、見知らぬ土地で、友人知人はいないし、授業に出るわけでもない人間は、食堂で飯を食って帰るくらいしかすることもなくて、すぐ止めてしまった。

飯を食べて、街を散歩して、本屋で本を買ってきて、読んで、寝る暮らし、いわゆる晴耕雨読を3ヶ月くらい続けて飽きたので、ワンルームを引き払い、実家に戻った。まだ学籍はあったが、後期分学費支払いの督促状がかかってきたので、退学手続きをした。

私は、高校卒業時の希望のとおり、実家でうろうろしているだけのプーになったのである。今で言うニートである。

一度大学に入学して退学した時点で、学費入学金、家賃、交通費、生活費など、全部合わせて200万円くらいを親に払わせていたのだが、私はそれをちっとも「申し訳ない」「勿体ない」とか思わなかった。金の価値がわかっていなかった。

この後、紆余曲折があった。結局、大学に3回入学して2回卒業し、1回退学し、大学院に1回入り、学位取得前に退学した。

医師として就職するまで、高校卒業から20年かかった。親に使わせた金は、学費生活費合計5000万円である。

いくら国公立大学・大学院の学費が安いといっても、延々と20年も生活費を仕送りさせていたら、これくらいかかるのだ。

実家が裕福で、センター試験は常時9割で、学力的にはどこにでも合格できて、親の期待も希望もなく、進路選択に一切の制限がない高校生に、好きなように進路を選ばせると、こういう結末になることがある。

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