「AIとナレーション 後編:その未来」

【鼓動と呼吸】


「ディープフェイク」という技術をご存知だろうか。AIによって画像や動画を合成して任意の被写体を動画に登場させる技術のこと。非常に精巧であることから偽情報への悪用が多く、政治家に危険なことを喋らせたり、有名人のポルノ動画など。フェイクニュースの基になる危険を孕んだ技術である。
ところがIntelがその真偽を見抜く技術を開発した。AIが唯一「真似できない」ことを検知できるという。

それは「心臓の鼓動」による血流。

「鼓動」によって起きる血流は真似できないらしい。これこそが人間が生きている証ということになる。
ナレーションで言えばそれは「呼吸」なのかも知れない。これも”人間らしさ”の象徴。そう言えばNHK「呼びかけの見本」にはブレスが入っていない。これまではブレス音を極力排除してきた、アナウンサーやミキサーたちの仕事は、今後変わっていくことになるだろう。

【人間らしさの表現】


コンピュータと人間の問題、すなわちAIの研究はその創成期から始まっていた。それはコンピュータを開発したチューリングの名前を取って「チューリングテスト」と呼ばれている。テキストによる会話で、”もっとも人間らしい『コンピュータ』”が優勝するというもの。

ところがこの賞にはもう一つ賞がある。”もっとも人間らしい『人間』”に贈られる賞だ。
1994年はチャールズブラットが獲得した。彼は「不機嫌で、怒りっぽく、ケンカ腰」
おそらく人間らしさの所以とは、人間の欠点に他ならない。AI研究とはすなわち人間とは何かという問いかけである。

【未来のナレーション:美しさと複雑さ】


AIはランダムに咲く桜の山を見ても美しいとは感じない。ただ乱雑としか捉えられない。
ナレーションにまつわる『正しさ』すなわちアクセントや滑舌など。『正しさは』硬直しがちな概念であり、過去から来るものであり、人間的美とは言えない。何より硬直した『正しさは』AIが得意とする分野であろう。

「揺るがない美」に人は憧れる。しかし人間的な美しさの表現は”複雑なゆらぎ”にこそある。ナレーション表現の自由度の高さゆえ、表現力はAIより優位に立てるはず。

新しい言葉流行にAIはついて来れない。なぜならAIのデータはすべて過去に基づいているのだから。
これらのことから、ナレーションの未来については、やや楽観的に捉えている。

新しい言葉や流行が、人間が読むナレーションの価値となる未来が、まもなくやって来る。

2023年元旦 velvet,Birds,猪鹿蝶 義村透


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