原宿のリハビリテーション病院。高齢化社会では長期入院者が堆積してしまう。出口戦略としてリハビリテーション病院は間違いなく増える。

国内最大級のリハビリ病院

 入所が不可能と思われていた特養は、入ることはそれほど難しいことではない、と聞か されてホッとした読者も多いと思う。ただし、芳洋会では利用者に以下のように提案して いる。

「特養は居住の市町村でない地域であっても自由に申し込みができる制度であること」 「特養の前段階として、要介護1から入所できる老人保健施設(老健)を勧めます。老健 はリハビリを目的にした入所施設で、入所期間は原則三カ月と決まっているが西多摩では 半年、一年の場合もある」

 ここで整理しておきたいのは、医療費と介護費を削減するには医療と介護の重複したシステムをわかりやすい〝一貫生産システム〟に変えることだろう。

 まず医療。大きな病院、中小の病院、診療所などがあって必ずしも機能によって分類さ れてはいなかった。じつは病院・病床はあまっている。厚労省はどう病床を減らしたらよいか、圧力のかけ方を模索している。まず分類を明確にすることだ。ようやく「高度急性 期」「急性期」「回復期」「慢性期」と、機能別に病院・病床を分ける厚労省の指導が始まっている。

 高度急性期は、すでに触れた救急車で運ばれた周産期の妊婦を受け入れたりできる高度な医療設備や医師が常駐している病院であり、急性期はそれに準じたものと理解すればよい。

 急性期を経過した患者は回復期機能を備えた病院、集中的な医療とリハビリテーションを提供できる病院へ入り、在宅復帰をめざす。

 さらに慢性期。リハビリにより在宅復帰がなかなかできずにいる場合に長期にわたる入 院が必要になる(慢性期には筋ジストロフィー患者など難病患者も含まれる)。医療と介 護が接続または重複するのは、回復期と慢性期である。

 回復期のリハビリ病院とはどんなものか。

 冒頭に、僕は人間ドックで糖尿病の数値が少し高いと指摘されて以来、ランニングを始め、毎月五〇キロメートルを走破していると書いた。

 ランニングはクルマの少ない裏通りを主に走っている。ある夕方、原宿方面を走ってファッション街から道を一本入ったら、キリンビールのガラス張りのビルの看板が、いつの まにか「原宿リハビリテーション病院」と変えられていて驚いた。二〇一五年に開院して いたが気づかなかったのは明治通りに面していないせいだろう。四津良平院長は慶應病院 の心臓血管外科の名誉教授、定年後の職場としてリハビリ病院に迎えられた。副院長は理 学療法士の肩書で、さすがにリハビリ病院であると納得した。

 回復期リハビリテーション病院としては国内最大級でベッド数三三二床、患者を支える 医師は一五人、看護師一七〇人、理学療法士一四六人、作業療法士五四人、言語聴覚士二 三人など常勤スタッフ五〇〇人を超える体制が組まれている。

 発症(オペ)から入院まで二カ月以内(脳機能障害など。骨折は一カ月以内)の患者を 対象としてリハビリを行なう。

 一一階建てのビルは、一階が受付とゆったりとしたロビーでホテルの雰囲気、三階から一〇階が病床で最上階の一一階は代々木公園一帯を見渡せ、新宿の高層ビル街を遠望できるガラス窓の大きいレストランがある。二階のフロア全体がリハビリ室、ここにキリンビールの事務机がずらっと並んでいたのだろうが、すべて取り払われた空間は七五五平方メ ートル(二三〇坪)もあり体育館のような広さ、ユニホームを着た数えきれないほどの若 い男女の理学療法士・作業療法士がたくさんの患者にリハビリ療法を施している。

 リハビリ病院はかつて長嶋茂雄元監督が初台の施設にいたことが話題になったが、そのころはまだめずらしい存在で、規模もそれほどではなかった。この原宿リハビリテーション病院のグループ(巨樹の会)は、二〇〇一年に下関第一病院が下関リハビリテーション病院と改称したところからスタートして、短期間に福岡周辺と首都圏に三三もの病院を展開するまでに至った。時代のニーズをしっかりと掴んだからだろう。急性期病院と違うのは、最新機器への設備投資や高レベルの医師を多数確保するコストがかからないところ だ。
原宿は一等地で地価が高い。キリンビールから幾らで購入したのか、明確には語らない が土地代や改装代などで二〇〇億円以上の投資であったようだ。

 地価の高い都心にある意味を四津院長はこう解説した。

「伊豆高原では遠くてご家族がなかなか来られませんよね」

 だからすぐに満室になり、経営的に安定する。

 大勢の若い理学療法士、作業療法士たちの姿を見ていると、スポーツジムのような溌剌とした空気が漲っている。原宿の街を歩いている若者の一部が職業としてここに入り込んでいる。都心にあれば、人手不足のなかで求人についての苦労も要らない。

 高齢化社会では長期入院者が堆積してしまう。出口戦略としてリハビリテーション病院は間違いなく増える。それが未来の姿で、この原宿の風景は象徴的である。





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