22世紀

 ドラえもんの誕生日は2112年9月3日だ。あと88年。22世紀はいつの間にかお爺さんを一人置けば届くような距離感になっていた。

 実家にはドラえもんが全巻ある。子供の頃から何度も読み返した。2年前上京する時に漫画は一冊も持ってこなかったが、もともと自分の中で読むという行為のはじめにあったのは漫画であった。

 なぜこんなにも今ドラえもんが読みたいのか、わからないままヨドバシのオンラインショップで漫画を探す。コミックスの表紙を見ただけで、自分が気に入っていた巻数が感覚的に思い出された。

 なぜ実家にある昔読んでいた漫画をもう一度買う気になったのか考えてみる。
 一つ目は、最近色々な新しいことを覚えようとしているため、脳みそが自分が大事だと考えている記憶をしっかりと保存しようとしている。
 二つ目は、東京で暮らしていくと無意識で決めたからこちらの住まいにも自分の大切なものを再構築しようとしている。

 この二つは両方当てはまっているかもしれない。東京の道端やそこらの建物に薄く積もっている黒い埃をみるたび、僕はこの空気をこのまま何十年も吸い続けていて肺は大丈夫なのだろうか、などと思う。そんな時には京都嵐山の奥の静かな水の波紋を思い浮かべながら、加湿器を激しく稼働させた自部屋で深い呼吸をする。


 という感じでいちいち理屈をつけたがる癖があるが、とにかくドラえもんは久々に読んでもやはり楽しかった。

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