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新進気鋭のオルタナ系ボカロP いのり 最新曲 『パステル』 5,000文字 セルフインタビュー


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インターネットで活躍する新進気鋭のボカロP、「いのり」。動画サイトでの総再生数は約7,500回ほどと弱小の部類だが、Twitterでの自由極まりない発言と繊細なソングライティングのギャップにより、極々一部からの人気が高まっている。今日はそんないのりの最新曲、『パステル』について語りつくす。

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●4月24日、ボカコレ2021春。ついに開催されましたね。非常に多くのボカロPが曲を公開してますが、今日はいのりさんの新曲『パステル』について色々聞いていきたいなと思っています。よろしくお願いします。

いのり「はい。よろしくお願いします。」

●タイトル通り、非常に淡いサウンドというか、それでいてロックバラードとして成立している不思議な曲だなと思ったんですが。普段のツイートからするとだいぶギャップがありますね。

「そうかもしれないですね。ギャップはよく言われます」

●どういったところから着想を得たんでしょうか。

「この曲は、僕の敬愛するバンドの、大好きな曲を100%意識して作りました。その曲も淡い雰囲気があって、何かをずっと後悔してて……めちゃくちゃ個人的なことを歌ってるんですけど、どこか共感できる部分があるんですよね。その部分を自分なりに拡大解釈……って言うとなんか悪いですけど……して、自分の体験に落とし込んだような歌詞を書きました」

●なるほど。100%意識っていうのは、メロディとかサウンドも?

「そうですね。コード進行もほぼまるパクリですし、アレンジもかなり寄せています。あ、100%意識って言ったんですけど、それは嘘でした。その曲だけじゃなくて、他の(同一のバンドの)曲からもちょくちょく引っ張ってきてます」

●ほほう。つまり、いのりさんからそのバンドへのラブソングというか、リスペクト100%な曲ってわけですね。

「それいいですね(笑)。リスペクト100%、使わせてもらいます。そう、だからあんまり自分の曲だって胸を張れないところもあったりするんですけど、でも良い曲であることに変わりないんで、みんなに聴いてもらいたくてこのボカコレっていう機会に発表しました」

●あれ?ちなみにこの曲が出来たのっていつ頃なんですか?

「けっこう前ですね。僕が学生の頃なんで……多分、4年から6年くらい前だと思います。2016年くらい?鮮度悪いですね(笑)」

●アハハ。いや、そんなの信じられないくらい色褪せてませんよ。

「ほんとですか?嬉しいです。まぁ形にしたのは初めてなんで、そうじゃないと困るんですけど……元々は弾き語りで完結してた曲なんですよ。僕自身ライブで演奏したりしてて」

●ライブされてたんですね!その話も聞いてみたいけど、脱線しちゃうから別の機会に……あ、っていうことは将来的にセルフカバーとか考えてる?

「そうなりますね。でも今までセルフカバーってあげたことなくて、あげたいとはずっと思ってるんですけど、自分の曲な分気合入れざるを得なくて、気合に気力が押し負けて歌えないっていう……ことを何回も繰り返してます(笑)。その時の気分次第ですね」

●生半可な気持ちじゃ歌えないってことですね。期待してます。

「裏切らないように頑張ります」

●歌詞の話になりますけど、冒頭の「テストの答えから宇宙の真理」を知っている、ってすごいですね。身近なところから一番遠いところまでって感じで、一瞬で引き込まれました。

「ありがとうございます。意識してたところなんで嬉しいです」

●テストってことは、主人公は学生?

「テストって学生に限った話ではないんですけど、この曲の場合は学生を想定しました。学生っていうより、大人になれない人みたいな。ずっとその季節や瞬間に囚われている、みたいな」

●意外と深いですね。

「そうですか?(笑)。歌詞ってその時々の気分で書き進めてるんですけど、自分では明確な意味を込めて作ったはずなのに、後から"これってこういう解釈もできるんじゃ?"って、どんどん世界が広がるんで面白いです。でも最近流行りの曲は、わりとそのまんまの意味〜みたいなのが多いんで、逆行しちゃってるんだけど」

●そのまんまの意味で捉えんな!俺の歌詞は深いんだ!って意味?

「そんな過激じゃないです!まずはそのままの意味で聴いて、自分なりに咀嚼してもらえればこんなに嬉しいことはないです」

●からかってみた(笑)。でもニュアンスは合っていると。

「ニュアンスは合ってますね……」

●アハハ。そんな色々と想像してしまう歌詞なんだけど、だいたい実体験に基づいてると考えて良いのかな?「白と水色の包装紙 渡せなかったプレゼントが」とか。

「実体験もありますけど、聴く人にはまったく関係ないし、そんな意識することはないです。僕自身の体験というより、こういう主人公が、人がいるんだよというか。固有名詞じゃなくて、匿名の人みたいな感じで受け取ってもらえたらいいなぁ」

●そう思う背景には、曲をより身近に感じてもらいたいとか、感情移入してもらいたいとか、そういうのがあるのかな。

「あぁ、それはありますね。妄想というか、架空の世界観を歌うよりは、生活に根ざしていたいなとは思ってます。ゆうてパステルは空想の世界から始まるんですけど」

●たしかにそうだ(笑)。歌詞は生活に根ざしてても、メロディやサウンドは、なんだか現実離れしてるというか……痛々しいですね。でもそれが生々しいとも言えるような……。

「めちゃくちゃ曖昧じゃないですか(笑)。でもそうですね、曖昧な曲にしたかったのかもしれないです。僕が今まで、胃もたれするくらい重たいな……って感じた曲は、だいたいそんな感じなんです。歌詞は生々しく現実を突きつけてきて、メロディやサウンドがそれを鋭利にする……みたいな。だって、直視したくないリアルの出来事って、だいたい非日常じゃないですか。自身の生活からすれば、現実離れしてるんですよ。だから普通じゃいけないんです。テレビや街中で流れていて、普段から耳にすることが多い音楽だと、表現できないというか……響かないんです。少なくとも僕には」

●それは考えたことなかったなぁ……一理あるかも。

「よく、好きだったバンドがメジャーになった瞬間に嫌いになる、みたいな現象あるじゃないですか。あれってこれも一因なんじゃないかなって」

●完全に腑に落ちた。それは絶対にあるね。

「ですよね!まぁ、勝手に好きになって勝手に嫌いになるっていうのは完全に自己中心的なんですけど……ちょっと脱線しちゃいましたかね」

●アハハ。じゃあパステルに戻ろうか。この曲、メロディと歌詞がマッチしてて、振れ幅や緩急が絶妙なのは流石だと思いました。

「感想文始まったかと思った。ありがとうございます。元々は自分が弾き語りで歌うのを前提に作ったので、気持ちを乗せやすいようにしたんだと思います。何年も前なんで他人事みたいですけど」

●切ない感情がダイレクトに伝わってきて、なんていうか……言っちゃ悪いかもですが、気持ちが沈んでいくような、重たい曲ですよね。

「嬉しいです、そこを目指してるので(笑)。決して明るく、前向きになれる曲じゃないんですよね。実際、主人公は最初から最後まで何も進歩してないし。正直聴いてて胸焼けがしてくることもあって、作業が苦痛でした。でも、自分が胸焼けがしない曲なんて他の誰が聴いても胸焼けしないだろうし、手応えはあります」

●胸焼けさせたいの?

「させたいです」

●ハハハハ。そうなると、意識的に流行りとは逆行してるってことになるね。そういう曲って、流れてないもん。

「そうなるのか……。当たり前ですけど、流行りに逆らいたくて曲を作ってるんじゃなくて、好きな曲を作ったらたまたま逆行してるっていう……なんか自分で言ってて悲しくなってきたな」

●じゃあ話題を変えようか。MVについてなんだけど、まさに淡い感じの仕上がりになってるよね。絵はご自分で?

「はい、全部描きました。もともと絵を描いていた……とかでは全然なくって、絵を描こうとしても自分の集中力のなさに挫折を繰り返してるんですけど。『パステル』っていうこの曲を、映像として形にするなら何が相応しいのか?っていうのを考えた結果がこれになりました」

●めちゃくちゃ安直だね。

「ハハハ。でも新しいことにチャレンジするのって嫌いじゃないんですよ。趣味として続くかどうかは別ですけど」

●それはちょっと意外かも。MVの絵はさ、多分20枚くらいあって……何を描いてるのかわかる絵もあれば、わからない絵もあるんだよね。これには明確とした意味がある?

「すべての絵に意味があります……って言えば、意味がなくてもあることになるんですよね。いや、でも意味はありますよ。適当に描いてて後から気づいたり」

●後から?

「うん。ちょっとくさいこと言いますよ。パステルアートって、やり直しができないんですよ。そんなの他にいくらでもあるんだけど、こういうアナログチックなのを触ることって最近ほとんどなかったから……なんか感動しちゃって。普段触ってるものって、だいたいCtrl+Zで元に戻せるから。それが新鮮で。失敗した部分を塗り潰そうとしても、色が混ざってどんどん濁って、描きたかった色から遠ざかってしまう。でも全体を見ると、それがかえって周りに良い影響を与えてたりして……なんかそれって、人生みてぇだなって」

●言いたいだけでしょ(笑)。

「言いたいだけです(笑)。まぁそんな感じで、後になってから意味に気づくことというか、本当の意味で言う真実がどうであれ、自分の中で解釈が変わっていったり、それで完結したりしなかったり……っていうことが人生いくらでもあると思うんですよ。でも全然悪いことじゃなくて、だって生きる意味とか理由がないと生きていけないじゃないですか。みんなそうやって器用に生きていけばいいんですよ。この歌の主人公は多分不器用だけど(笑)」

●アハハハ。つじつま合わせに生まれた僕等?

「つじつま合わせに生まれた僕等ですね(笑)。この世に生まれたのもきっと誰かの……そういうことなんですよ。」

●いのりさんの曲って、一見尖ってるように見えるけど、実はリスナーを全肯定するような懐の深さみたいなのあるよね。

「なんすかそれ(笑)。初めて言われたけど、そうかもしれませんね。べつに人を跳ね付けようと思って曲作ってないですからね」

●そりゃそうだ。どうしてそう思ったかなんだけど、いのりさんの歌詞の特徴として、具体的なようなんだけど、リスナーに解釈を任せるような余地があるんだよね。

「そうですね。論文みたいにガッチガチに固めた歌詞っていうのは、あんまり好きじゃなくて。押し付けがましいって思っちゃうところがあるので、ある程度突き放してほしいというか。曲の向こう側に、自分と同じ人間がいるっていうのがすごく伝わってきちゃって。そういうのが好きな人もいるだろうけど、僕はすごいしんどくなっちゃう」

●ちょっとわかるかもしれない。

「生々しさは必要だけど、そういう生々しさは求めてないんですよね。べつにあんたの個人的な話を聞きに来たんじゃない、俺は俺の目的があって曲を聴いてるだけで、あんたの事情に興味はない、みたいな。歌詞だけじゃなくて、歌の表現とかも、あんまり極端に声色を使い分けてたりすると胃もたれしちゃうんですよ。これ以上言うと悪口になっちゃうんですけど……そういう意味だと、僕にとって初音ミクのようなVOCALOIDの存在っていうのはかなり有難いですね。先入観を持たないで、純粋に曲を聴くことができるので」

●なるほどね。でもそれって、目の前に人がいないのに、その人の言葉や話し方だけで、感情とかその裏にあるドロっとしたものとか、そういうのを感じ取ってるってことだよね。めちゃくちゃ繊細じゃない?

「繊細ですね(笑)。まぁやってることは妄想ですけど。自分勝手な妄想です。そういう自分勝手な人に聴いてもらいたいですね。ウザがられそうだけど……」

●最初に話が戻るんだけど、この曲の元になった曲を教えてもらうことってできる?

「例のリスペクト100%のやつですね。教えてもいいんですけど……なんか恥ずかしいのでここではやめておきます。Twitterとかで聞いてもらえれば普通に答えますよ」

●わかりました。それじゃあこの曲が伸びるのを期待してます。4桁いくといいですね。

「ほんとですよ。いい加減広告なしで4桁いきたいですよ。どうすればいいですか?」

●Twitterでの振る舞いを見直してみるっていうのは?

「ないですね」

●ありがとうございました今日は。お疲れさまです。

「ありがとうございました。お疲れさまでした」



パステル / いのり feat.初音ミク(niconico)

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