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本についての所感

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2020年12月の記事一覧

特別な物語:ディーリア・オーエンズ著『ザリガニの鳴くところ』を読んで

 この時期になると、一年の振り返りをしたくなります。

 特に振り返りたくなることが多い一年でしたが、それはさておくとして、読書のほうでも今年読んだ本のなかで印象に残ったものを読み返すようにしています。

 今回読み返したのは、ディーリア・オーエンズ氏の『ザリガニの鳴くところ』です。

 本作は帯にあるとおり2019年にアメリカで最も売れた本であり、読んだことはなくとも名前は知っている、という方も

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狭間にあるもの:梨木香歩著『炉辺の風おと』を読んで

 仕事で遠出しなくてはならず、吹雪のなかを片道四時間もかけて車で走ってきました。ホワイトアウトのなかを走るのは初めてではありませんが、緊張のために胃が痛くなります。眼前に雪の幕が下ろされ、一寸先も覗くことができないおそろしさ。とても慣れるものではありません。
 幸い事故もなく帰ってくることができ、日課となっている読書をしながら、こうやって穏やかな気持ちで本を読めることのいかに素晴らしいことかを噛み

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封鎖されたのは:張愛玲著『傾城の恋 / 封鎖』を読んで

 北国に住んでいるのですが、今年はいつもと違う冬です。

 雪の多い地域では根雪という言葉がよく使われます。降ってすぐ融ける雪とは違って、春まで融け残る雪のことなのですが、いつもは十一月のうちに根雪を見るはずが、今年は十二月に入っても舗道のアスファルトが露わになったままでした。
 コロナウイルスのことを考えると寒くならないほうがよいのでしょうか。しかしながら雪のない十二月というのもしっくりきません

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