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『久米島の沖縄県海洋水研究所と海洋温度差発電』(旅をする)

 2013年5月9日から5月13日まで沖縄県海洋深層水研究所の見学と、2年ぶりのダイビングのため久米島に行って来た。

 久米島到着後、さっそく沖縄県海洋深層水研究所を訪問すると、研究所長に研究所についての説明と施設をご案内いただく。沖縄県海洋深層水研究所は機械棟などを除くと大きくは「取水ピット」「農業研究棟」「水産分野研究棟」などに分類される。写真はないが、隣の敷地は隣接する民間の海洋深層水を利用した養殖場だ。 沖縄県で海洋深層水の取水プラントを作る候補として3つほどの候補地があったが、久米島が選ばれた理由は、岸から比較的近い場所からDrop-offがあり、深層水が取水しやすかった(2.3km沖)ためだ。

 写真は直径60cmの取水パイプの断面だが、このプラントで取水される海洋深層水は全国シェアで28%(深層水13,000tは日本最大)になる。海洋深層水は深度200m以上の深さの海水を指すが、ここでは612mの深層水を取水している。久米島では表層水は冬は19℃、夏は30℃になるが、深層水の温度は安定しており年間を通じ10℃前後と低温安定性があるという。

 この研究所では表層水と深層水をブレンドして車エビの養殖に適する水温にして、車エビの母エビの養殖に成功し、民間移転された。さらに、海ぶどうも海洋深層水で民間で養殖され、「車エビの母エビは沖縄県の60%、海ぶどうは50%のシェア」を占めているそうだ。元々の久米島の産業はサトウキビの栽培だったが、TPPの影響をダイレクトに受け、ハワイなどの産地と価格競争がはじまる。 この母エビや海ぶどうはこの研究所(研究員4名)の研究成果から生まれた新産業だ。他にヒラメ、トラフグなども養殖され、海洋深層水をパイプで土に埋め冷やした土でホウレンソウを栽培する農業利用などの研究も行われている。
 事業の拡大などにより、久米島では海洋深層水そのものが不足し、このプラントを10倍に拡大しTPPに対抗しようとする試みもあるという。 

 拙著「あたらしい死海のほとり」に紹介したRedDeadプロジェクトのIBRD(International Bank for Reconstruction and Development)におけるフィジビリティー・スタディー(F/S)では、アカバ湾(Red Sea)から死海(Dead Sea)まで海水を運ぶ計画だが、アカバ湾の取水地の3つの候補地の内、もっとも有望なEast intakeは岸から80m、表面から20mの深度の海水を直径8mのトンネルで取水する計画となっている。
 これにより、死海の環境は保全される可能性があるが、アカバ湾の観点(珊瑚などの環境も含め)からも、①「海洋深層水の清浄性を利用し逆浸透圧膜の運用コスト節減」②「アカバ湾地区の新産業の創出による雇用増」をビルトインできる海洋深層水取水という「オルターナティブ」が必要ではないだろうか。 

 久米島の海洋深層水プラントは投資規模は100億円程度のものだが、海洋深層水を利用することによりRedDeadプロジェクトから、映画フォレスト・ガンプに出て来るバッハ・ガンプ・シュリンプのような新産業が生まれて来る可能性もある。(ちなみにイスラエルではユダヤ教のコーシェルでエビは食べない。イスラム教のハラールでは規定されていない)

 その後、沖縄県海洋深層水研究所の敷地に海洋温度差発電の実験プラントがあり、研究員の方にご案内いただいた。

 海洋温度差発電は深層水と表層水の温度差を利用して低沸騰媒体(アンモニア、代替フロン等)の蒸気でタービン発電機を駆動し発電する方法で、その温度差が20℃あると実用コストの電力が発電できる。1KW 10円の風力や30円の太陽光に比べて安定的に電力が供給でき、原子力発電の1KW 8.9円の発電コストに近くなれば商用化可能となる。日本では表層海水温度の高い南伊豆、小笠原、沖縄地域など、世界では赤道を挟む南北40度の範囲は海洋温度差発電に適しているという。 
 沖縄県海洋深層水研究所に併設される海洋温度差発電の現在の規模の実験プラントでは全研究所で利用する電力の1/10(50KW) は発電できる。

 インドでは海洋温度差発電で発電される電気を利用し、海水をフラッシュ(蒸発)させて淡水が作られている。海水を逆浸透圧膜で淡水化する場合、逆浸透圧膜がゴミなどですぐに詰まることがあり、石化燃料のない地域では海洋温度差発電による蒸留は有効な方法だ。 

 また、この実験プラントには狭い事務所(写真右)があり、その中で海洋深層水の流れるパイプからの冷気を扇風機で流していたが、これが想像以上に涼しく驚いた。海洋深層水を取水し、全室に冷水(10℃)をパイプで通し(寒冷地などでは温水を通す)、冷房として活用しているホテルもあるようだ。これは砂漠地域では有効だろう。(③「海洋深層水による冷風」)

 沖縄県海洋深層水研究所によるメリットを「コインの表」とすると、海洋温度差発電によるメリットは「コインの裏」で、このようにお互いを複合利用する「久米島モデル」は、世界各地にニーズがある。
 RedDeadプロジェクトによる発電と造水を「コインの表」とすると、「久米島モデル」をビルトインしたアカバ地域のさらなる発展は「コインの裏」となるのではないだろうか。

 翌日から2日間は曇り時々雨という天候だったが、晴れ間を狙って1日目は午前2ダイブ、2日目は午後2ダイブ行った。久米島は石垣島と比較すると魚の数が多く驚いた。

 宿泊したイーフビーチホテル周辺の街並みで見つけた地元のコンビニの写真。(那覇市や石垣市とは趣が違う)

 最後に、ホテル近くの地元の人たちが通う居酒屋「海坊主」の車エビの刺身。久米島名物は泡盛の久米仙という認識しかなかったが、まさか車エビが名産とは新発見だ。

 ブリプリの車エビ刺に大満足!!

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。