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『兵役拒否』英霊と非国民は、1億対一人の図式を生み出す(日本の歴史)

 『アメリカの宗教』から良心的兵役拒否を描いた『ハクソー・リッジ』を観たため、兵役拒否についてまとめた本を読んでみた。
 アメリカやドイツなどのように兵役拒否を人権として容認している国々がある。その一方、長期かつ厳格な徴兵制を採用し、兵役拒否を処罰の対象とする韓国やイスラエルのような国々もある。

 イスラエルの場合、パレスチナに対する破壊と侵略を正当化してきたが、内部から兵役拒否を声高に宣言する人が現れて、無視できない状態にいたっている。韓国の場合は、2003年5月の段階で、刑務所には1,400人の良心的兵役拒否者が収監されている。

 良心的兵役拒否をする人を、英語では「Conscientious Objector」と呼ぶ。日本で最初の良心的兵役拒否者は矢部喜好だ。彼はハクソー・リッジの主人公と同じく、セブンスデー・アドベンティストの信者だ。彼は軽禁錮2ヶ月の刑を受け、その後、看護卒補充兵となり、戦後、除隊となった。その他、本書ではドイツの例、東ドイツの例、アメリカの例、イギリスの例、イタリアの例などが紹介されている。いずれもユダヤ・キリスト教の思想から制度化されているものだ。出エジプトのモーセの十戒「あなたは殺してはならない」、マタイによる福音書の「剣をとる者はみな、剣で滅びる」「敵を愛し、迫害する者のために祈れ」などから、国家への無条件の誓約、上官への服従は、神に対する絶対的服従の義務に抵触していると考えられたのである。
 しかし、良心的兵役拒否の制度はあるにしても、それが拒否される場合もある。不服の申立や再審査を求める機会は与えられてはいない。申請者に残されているのは、任務を拒否し続けて拘禁=処罰されるか、あるいは、通常裁判で訴えを起こして救済を求めるしかない。

 前述した日本の兵役拒否の例はキリスト教からのものだが、それ以外に「戸主および相続者ならびに家の継承者」が免役規定にあることを理由に、養子縁組をしたり、夏目漱石のように北海道に送籍(北海道と沖縄の徴兵制はタイミングが遅かった)するものもいた。その他、醤油を大量に飲んで心臓の鼓動を高くするものなどもいた。徴兵逃れの指南書も多く存在したようだ。

 日本は、戦死者を「英霊」、忌避者を「非国民」とすることで、徴兵制への問いを封印してきた。つまり、1億対一人の戦いが生まれる図式を生み出してきたのである。
 本書は最後に、医師であり、歴史家の松田道雄の次の言葉で終わっている。

 臆病であるがゆえに、戦争に加担せざるをえなかったという逆説を生んだ。戦争を防ごうとするのならば、みんながそうしなければならないというあきらめがすべてをつかむ前に、何かをしなければならない。それは画一主義への抵抗である。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。