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『マルワン・バルグーティと新実在論』(環境研究、ペアシステム)

 2019年6月27日は、日本イスラエル親善協会の代表理事副会長で中東政治の専門家である池田明史氏による「和平プロセスと日本の役割」と題したセミナーが広尾のシナゴークで開催されたので参加した。
 このセミナーでも話題になったが、トランプのDeal of Century(世紀の取引)をきっかけに中東和平(パレスチナ問題)を改めて考えることができたので、池田明史氏の意見をベースに自分なりの考えをまとめておく。

 イスラエルとパレスチナの解けない縺れた関係を理解するには、構造主義哲学が最も役立つ。

 パレスチナ問題を構造主義的に考察すると、パレスチナ人として生まれた人は、生まれたときから占領地で生活することになり、時には衝突で身内が迫害されたり、亡くなったりすることもある。同じようにイスラエルに生まれたイスラエル人も自爆テロやガザからのミサイルで被害を受けたりする。

 これらの環境に生まれた人が報復を誓うと、後付けで自分の行動や認識に意味を持たせるために脳が後付け再構築(Postdiction)を必要としてしまう。そのときに旧約聖書やクルアーンを後付け根拠にすると自己を正当化できることになる。

 こうして宗教は利用されていくが、問題の本質はこれらの「連鎖する構造」であり、宗教の違いが問題ではない。

 しかし、このように構造主義でパレスチナ問題を捉えることができたとしても、解決することはできない。そこで、パレスチナ問題をマルクス・ガブリエル氏の新実在論で考察してみよう。

 例えば、新実在論的に、イスラエルという「意味の場」からパレスチナをPerspectiveすると、交渉相手にガバナンス能力がないことが最大の問題になる。なぜなら、タフな交渉でお互いが実行すべきことを決めたとしても、パレスチナ側は行政実行を行うガバナンス能力が不足しているだからだ。

 パレスチナの「意味の場」からPerspectiveしてみると、このまま民族として移民のようにユダヤ人のための国家であるイスラエルに溶け込んで行くことが可能ならばその道もある。しかし、パレスチナ人にイスラエル人のような自由は与えられていない

 では、国家として自立し、ガバナンス能力と経済力をつける道もあるが、そのためにはイスラエル建国にダビット・ベングリオンというカリスマリーダーが存在したように、パレスチナにもカリスマリーダーが必要になる。
 そういう意味ではアラファトはカリスマリーダーだったが、残念ながら亡くなってしまった。アラファトの後を継いだアッバースにはリーダーシップがなく、国際社会からの支援に甘んじて緩いガバナンスを維持しているだけだ。

 ところが、その次の世代には、アラファトの方針に噛み付くPassionのあるマルワン・バルグーティ(1958年生まれ)という人がいる。

 バルグーティの名が注目されるようになったのは、1987年に始まった第一次インティファーダです。インティファーダに手を焼いたイスラエル政府は同年、指導者のバルグーティ氏を逮捕、隣国ヨルダンに追放しました。追放されても彼は活動を停止することなく、チュニスのPLO本部とパレスチナとの連絡調整役を行なっていました。93年のオスロ合意で自治区への“帰国”をイスラエルから許されると人権擁護問題を中心に草の根的な活動に進みます。と同時に、それまでの功績が認められ、アル・ファタハ(日本で言えば自民党)の西岸地区事務局長に任命されます。1996年の自治評議会(議会)選挙に立候補、楽々と当選し議員になりました。この頃の活動でイスラエルの市民活動家や左翼グループと知己を得ています。

 2000年9月、当時イスラエルの最大野党リクード党の党首であったシャロン氏がエルサレムのイスラーム教の聖地に“土足”で上がりこんだ事件は、イスラーム社会に強い衝撃を与えました。パレスチナ人の怒りが燃え上がりました。怒れる若者達からアラファトではなくバルグーティを求める声が高まりました。すると、その時すでに要職を得ていたにもかかわらず、バルグーティ氏は彼らのところに飛び込んで行ったのです。これが第二次インティファーダの誕生です。彼はアラファト「独裁」政権に対しても公然と挑戦、PLOや自治政府の民主的な構造改革を求めました。

『マルワン・バルグーティのプロフィール』

 残念ながら、マルワン・バルグーティは現在イスラエルの刑務所に終身刑で収監されているが、現在のリーダーであるアッバースの後任として獄中立候補する方法もある。
(南アフリカのリーダーになったネルソン・マンデラは27年間収監されていた)

 アメリカのユダヤロビーの「意味の場」からPerspectiveしたり、湾岸諸国の「意味の場」からPerspectiveしたり、Shia CrescentからPerspectiveしたり、カタールからPerspectiveしたり、あるいは中立的な日本のような国からPerspectiveしたり、と重なり合うそれぞれの世界からPerspectiveすることは、整理する意味では必要だ。

 しかし、見つけなければならないことはそれぞれの「意味の場」に共通する普遍的な事柄だ。その事柄のひとつが、パレスチナにカリスマリーダーが必要だということだ。
 つまり、マルワン・バルグーティの存在がパレスチナ問題のキーになるだろう、と私は予測している。

 講演後、池田明史氏にマルワン・バルグーティのことを質問してみた。彼の奥さんもご存知のようだが、これだけ長く収監(2000年からの第2次インティファーダーの首謀者として逮捕)されているマルワン・バルグーティのPassionが持続しているのかが疑問、イスラエルが彼を釈放したとしてもパレスチナ人がイスラエル寄りと判断するのではないか、彼はもう年齢的に無理ではないか、と諦めの心境を語っていた。

 しかし、刑務所の中でのハンストパレスチナの世論調査からも、彼はまだ諦めていないのではないかと推測している。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。