『スティーブ・ジョブズと後付け再構築「Postdiction」』(垂直思考)
相対性理論では時間と空間は相互に関連したもの(時空)として捉えられているが、さらに、ブロック宇宙論では時間は過去、現在、未来と流れるのではなく同時に存在していると捉えられている。この考え方が正しいか否かは別にして、過去、現在、未来が同時に存在するならば、過去が未来に影響するのと同じように未来が過去に影響すると考える学者もいる。
そして、はじまりと終わりの中間には量子力学的なレベルを含め未来の選択が不確定性を引き起こしている。はじめと終わりは決まっていたとしても中間に不確定性があるが故に自由意志が存在する余地があるとも言われている。
あるいは、脳科学的には0.2秒だけ自由意志が存在するという研究結果もある。
因果律的な考え方には時間が過去から現在に流れるという大前提があり、その大前提があった上で「過去の原因が現在の結果を生む=因果応報(因果律)」と考える。ヒンズー教的には「善をなすものは善生をうけ、悪をなすものは悪生をうくべし。浄行によって浄たるべく。汚れたる行によって、汚れをうくべし」と捉え、旧約聖書におけるヨブと友人は神が出現する前は「因果応報を、ヨブはよい行いをしてきた者にはよい報い、ヨブの友人は悪い行いをしてきた者には悪い報いを受ける」と捉えていた。
イスラーム的には、審判の日に(天の)帳簿が開かれるが、その帳簿にはその人の行為が詳細に記録されている。記録したのは天の経理担当者ではなく、現世の各人の右肩と左肩にいる天使で、右肩の天使が善行を、左肩の天使が悪行を詳細に記録する。そしてこの帳簿は、審判の日に右手に渡されたものは天国へ、背中に渡された人は地獄へ送られる と因果応報が現世と来世にまたがっている。
しかし、キリスト教は因果律でなく「人が救われるのは、人間の意志や能力によるのではなく、全く神の自由な恩恵に基づくという聖書の教理」という予定説(Predestination)になる。ユダヤ教的には因果律という考え方は存在しない。
(ユダヤ教的にはヨブ記において、因果律に対する疑問は示されたが、それは確立しなかった)。
因果律の逆に、未来が過去に影響を与える(逆因果関係)ことがあるとしたら、自分の未来を知るためには過去を振り返ることが重要になってくる。ユダヤ教のタルムードには未来を拓く方法として「後ろ向きに座って櫓を漕ぐ」という格言がある。また、スティーブ・ジョブズは有名なスタンフォード大学での講演でこのことを強調している。
では、スティーブ・ジョブズの生涯でこのことを考察してみよう。 スティーブ・ジョブズの代表的なイノベーションのひとつはスタンフォード大学の講演でも述べている美しいフォントだ。
このジョブズの言葉に「科学ではとらえきれない伝統的な文字の世界」とあるが、文字を神への芸術にまで高めたものとしてアラビア書道がある。
そして、もうひとつのイノベーションはスマートフォンだ。スティーブ・ジョブズそのものがスマートフォンを発明した訳ではないが、現在使われているスマートフォンの基本的な機能や形を定義し普及させたのは彼だ。そして現在、スマートフォンはシリア難民などの必須ツールになっている。 (「難民はなぜスマホを持っているの?」)
2011年3月に起きたシリアの内戦から多くのシリア人が難民となった。
よく知られたことだが、スティーブ・ジョブズの実の父親はアラビア語を話すシリア人だ。そして、美しいフォントのイノベーションはアラビア書道の影響からとも考えられ、シリア難民の手助けをしているのがスマートフォンとも考えられる。
未来が過去に影響を与えるとしたら、ジョブズの生涯は次のように捉えることができる。
「シリア難民の出現にジョブズの生涯が間に合った」
(偶然にもスティーブ・ジョブズが亡くなったのはシリア難民が出現した年である2011年10月)
そしてもし、はじめと終わりが決まっているならば、ジョブズの生涯は宇宙の法則通りだった(不確定性状態における自由意志でNeXTを創業した)、と捉えることができるのではないだろうか。
Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。