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『香港動乱とアリババ香港上場』(世界の歴史)

 雑談で香港の今後の情勢を尋ねられることが多いため、必要に迫られ、自分なりの考えをまとめておくことにした。

 2019年の香港動乱がどのようなものかを改めてここでまとめることはしないが、「抗議活動は表面上、犯罪容疑者の中国本土への引き渡しを認める『逃亡犯条例』の改正案に反対するもの」であり、抗議活動は主に学生によって行われている。
 そして世界は、天安門事件を思い出し、中国共産党の武力圧力を懸念している。

 香港動乱を考えるとき、単なる政治的動乱と捉えるだけでなく、中国企業の動きを考察する必要がある。
  現在、IT業界は個人情報を蓄積することで社会的に大きな影響力を持つ存在になった。米国では、Google、Amazon、Facebookなど、中国では、百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)など、国家レベルの個人情報を蓄積している。

 さらに彼らは、絶えずリスクに対して挑戦し、失敗を繰り返し、他の既存業界のように過去の成功に安住しない。
 安定した成長を続けてきた自動車業界はCASE(Connected、Autonomous、Shared/Service、Electric)やMaaS(Mobolity as a Service)により、IT業界と融合し、そして競合しようとしている。
 そして堅実で慎重な銀行業界はBaaS(Bank as a Service)により、IT業界に駆逐(特にB to C)されつつある。

 そこで注目すべきは、IT業界のアリババの動向だ。
 アリババは、アリペイによりキャッシュレス社会を実現した。キャッシュレス社会を単純にQRコードによるキャッレスと捉えるのは危険で、アリババはもう少し巧妙にシステムを作り上げている。
 銀行の基本的な業務はユーザーに利息というモティベーションを与えお金を集め、それを貸し付けて利子をとり収益を上げるが、アリババのアリペイのユーザーは、給与が銀行口座に振り込まれると、すぐにある一定金額をキャッシュレス用のアリババの口座に資金移動する。なぜなら、アリババに移動された資金にはアリババが瞬時にAIで資金運用した利息が付くからだ。アリババは集まった膨大な資金を中国の銀行に貸付て利息(ex.7%)を取り、アリペイのユーザーに利息(ex.4%)を支払う。(差額は利益と経費)

 つまり、アリババはeコマースの会社であると同時に超巨大銀行の機能を有している訳だ。
 アリババに見習いGoogleもAmazonも2020年からは保有する顧客情報とAIテクノロジーをテコに銀行機能がビルトインされる。こうなると既存銀行は生きていくことが難しくなるから、それに対抗するためEUではPSD2という法律を施行し、銀行機能をAPI化して、他の企業のアプリに組み込むことで、銀行支店やATM以上の機能を持つあたらしいチャネルを経済圏化(NeoBank)しようとしている。

 このことは、以下に詳しく解説したので、ご参照いただければ幸いだが、問題はアリババの香港上場だ。

 キャッシュレス社会とPSD2経済圏 

 日本経済新聞の予想によると1元=15.1円換算で2019年の中国におけるスマホ決済は3,000兆円になる。英国の調査会社RBRによると、2017年の世界のクレジットカード決済は2,700兆円(25兆ドル)と、中国のスマホ決済が世界のカード決済金額の総合計を上回っている。
(ちなみに、日本におけるスマホ決済はICT総研によると2018年で1.1兆円)

 3,000兆円の90%以上はAliPayとWeChat Payが占め、政府系の中国人民銀行のUnion Payが登場してきた。これらのスマホアプリが個人の銀行口座と連動し支払いが行われ、銀行から支払いのためにAliPayに移動された資金はAIなどを活用し自動運用され(Ant Financialの「余額宝」など)、銀行預金より高い利息を与えてくれるため、できるだけお金をAliPayに移動しスマホ決済を行いたい、というモティベーションもビルトインされている。

 アリババは2019年11月26日、香港動乱の真っ只中に香港に上場した。
 ご存知のようにアリババの創業者であるジャック・マーは2019年9月10日にアリババを引退。あまりにも若い引退なので驚かれた人も多いと思うが、グローバルでは、ジャック・マーは「引退したのではなく、引退させられた」と捉えるのが普通だ。なぜなら、その後中国共産党員が10名単位でアリババの幹部となり、キャッシュレスのQRコード認証も顔認証決済に徐々にシフトし、アリババによる個人情報の把握からの信用ポイントは政治的影響力さえ持つ存在になろうとしている。

 アリババの香港上場が示すように、中国共産党の影響力の強い国営企業が、続々と香港に拠点を移す戦略を進め雇用を増やすことは、香港の動乱を鎮める長期的な戦略になる。
 香港の動乱を抑えるために中国共産党は「香港の雇用を支配する」という実に深淵な手段を用いている。

 中国当局、国有企業に香港投資強化を要求(2019年9月13日) 中国当局は約100社に上る大手国有企業の幹部に対し、投資強化を含め香港でより積極的な役割を果たすよう求めたと、事情に詳しい企業幹部3人を引用してロイター通信が報じた。幹部の名前は明示していない。

 ロイターによると、国有資産監督管理委員会(国資委)が今週、深圳で会合を開催。国有企業は単なる株式保有にとどまらず、企業を支配下に置くことを探り、意思決定の権限を持つよう求められたという。

日本の60年代安保

 社会の混乱の根底には、民族の怨念や抑圧、あるいは政治的信条に加えて、経済、雇用などの実利的な問題が横たわっている。

 今回の香港の動乱は「中国国営企業の香港進出スピードと数」(2018年2月16日の状況:中国企業の国際化の拠点として存在感を高める香港)という指標から中長期的な時間軸の予測を持つことも必要だ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。