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『ブームが来る』自らの死をも1年半前に予測していたハーマン・カーン(環境研究、未来予測)

 ハーマン・カーンは1983年に61歳で亡くなっているので、1982年に発売されたこの本は、彼の遺作となる。対象は当時スタグフレーションにあるアメリカで、民主党のカーター政権から共和党のレーガン政権が保守連合を打ち出した時代に出版された。当時、インフレを抑えるために、マネタリストは通貨供給量の規制を主張していたようだが、インフレが収束するなら米国はすさまじい勢いで「再活性」化できるとしている。

 1990年代から21世紀初頭に実現可能性の高いエネルギー源が重要性の低い順に列挙している。

1)核融合エネルギー
2)地熱エネルギー(熱水発電、高温岩体発電)
3)太陽エネルギー(建物の冷暖房、太陽熱発電、光電池発電、ソーラーサテライトパワー、風力発電、海洋温度差発電、生物的転換、、水の光分解)
4)核分裂エネルギー(在来炉、半増殖炉、増殖炉)
5)在来資源からの石油と合成液体燃料
6)在来資源および未開発資源からの天然ガス

 本書には、ハーマン・カーンの本音がいくつか表されている。例えば、シナリオ・ライティング法についての考え方を「われわれはシナリオが未来について信頼できる予想をするとか、シナリオにすべての可能性が含まれているなどと信じているわけではない。そもそも「シナリオ」という言葉を選んだのは、そうした「未来への寓話」を控えめなかたちで展開するためだった。(結局、それは一つのシナリオにすぎず、ハリウッドの脚本家ですら考えつきそうなことなのだ)」としている。

 さらに個人的な立場をはっきりさせるとし、以下のように書いている。

「この何年間か、わたしはさまざまなかたちで、不人情で冷酷な戦争挑発者だと(『戦略核兵器について』を発表したあと)言われ、情報を誤って受けとった天真爛漫な楽観主義者だとも(『これからの二000年』を発表したあと)言われてきた。わたし自身の評価をもってすれば、わたしはかなり現実的な観察者であり、想像力と論理を駆使して、耳慣れない(ときには突拍子とも見える)結論と推測を導き出すことが多い。わtあしは核戦争に生き残ることを考えるのがつむじ曲がりだとは思わない。むしろ、考えないほうが危険だし愚かなことだと思う。」

 この本の最後にもゲーテのファウストが登場し、「われわれはファウスト的な取引をして魂を売り渡してしまったが、マーロウのファウストよりゲーテのファウストになりそうである。つまり、永遠の罰を言い渡されるのではなく、意気揚々と天に昇っていきそうである」と結んでいる。

 「あとがき」によると、この本の原稿が出版社に送られたのは、1981年11月中旬で、日本で発売されたのは1982年9月10日、カーンが亡くなったのが1983年7月7日だ。ハーマン・カーンは、シナリオ・ライティング法という未来予測分野を確立し、ゲーテの描くファウストのように天に昇っていった。前述のように、そのことを1年半前(1981年)に予測しているのが、この本ということになる。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。