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『99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』「仮説」はAI時代に必要なスキル(環境研究)

 飛行機が飛ぶ理由はよくわかっていないというキャッチに引っかかって読んでしまった本。ベルヌーイ定理によって翼上部の空気の方が下部より早いため揚力が生まれるということは本当らしいが、翼の上下の空気が同時に合流することは間違いのようだ。このように科学はすべて仮説でできあがっていて、科学は常に反証できるものなんだと。

 いくらデータを集めてもムダで、データが仮説をくつがえすわけではなく、データは理論を変えることはない。仮説を倒すことができるのは、仮説しかない。なぜなら、仮説はひとつの枠組みで、その枠組から外れたデータは、データとして機能しないからだ。つまり、まったく違う枠組み(仮説)が必要になるので、帰納法で考えるベーコン主義では仮説は壊せないのである。

 ここまで読んで、AI時代に人間に必要なものは、演繹法(仮説)であって、帰納法(データ)ではないという展開にまで至るのかと思いきや、本書はそこまで至っていない。2006年に発売された本なので仕方がないと思うが、近作を期待したい。しかし、本質的には仮説を倒すことができるのは仮説だけなので、そこさえ押さえておけば、AIは有能なパートナーになる。

 仮説は科学だけのものではなく、1980年代のバブルのときも、土地の値段は絶対に下がらないと誰もが口にしていたとあるが、確かに当時この仮説は巷に満ち溢れていた。現在では、ロボトミー手術は人格を破壊する手術だという仮説があるが、それを最初に実践したエガス・モニスはノーベル生理学賞を受賞している。彼のロボトミー手術を行うと攻撃性が押さえられるという、たった1匹のチンパンジーへの手術から導き出された仮説は、アメリカだけでも1万人もの手術が行われ、日本でも戦後、広瀬貞雄医師だけで500件以上の手術が行われてしまったのだ。

 カール・ポパーは、科学は反証できるものであるという反証可能性を定義とした。100万回の理論を支持するような実験結果が出たとしても、1回でも否定的な結果が出れば、その時点でその理論は通用しなくなるのが科学なんだと。つまり、すべてが仮説なのだ。
 すばらしくわかりやすく、科学とは何か、AI時代に必要なスキルとは何かを教えてくれる名著だと思う。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。