劇団こふく劇場「ロマンス」舞台感想
はじめに
今回は宮崎県を拠点に活動されている劇団こふく劇場 第17回公演「ロマンス」の舞台感想をお届けします!いやぁ、感動した!
初日の北九州公演を観劇してのレビューです。まだ、広島公演と沖縄公演もありますので、ネタバレを避けたい方は「※ネタバレ注意」のパートを飛ばしてご覧ください。
劇団こふく劇場
さて、今回の作品を上演した劇団こふく劇場さんですが、観劇は初めてです。職場の同僚に「近々どこか面白い芝居やらないですかね?」と尋ねたところ「劇団こふく劇場って知ってる?」という紹介を受けてチケットをとりました。
ちょっと脱線しますが、私、初めての劇団の観劇ってドキドキするんですよね。演劇を何本かご覧になった方はよく分かると思うのですが、上演が始まって「あぁ、これ合わないわ」と思ったら最後、終幕まで苦しい時間が延々と続くわけです。「チケット代払ってるし…」「途中退席は失礼だし…」と一度開幕した演劇は最後まで観るしかないのです。これは、演劇文化がいまいち世間に広がらない理由の1つだと思います。大袈裟かな?
というわけで、今回も実はとてもドキドキしながら劇場に向かいました。しかも、会場入り口の看板に書いてある上演時間を見るとなんと130分!!
…初めての劇団で、2時間超。大丈夫だろうか。そんな不安が頭をよぎりながら観劇に臨みました。
130分後。涙腺崩壊。最高の終幕を迎えていました。何と私は失礼な想像をしていたんだろうかと、上演前の自分をひっぱたいてやりたい気分です。本当に素晴らしい芝居でした。舞台を観てボロボロなくことはあまりないのですが、今回は完全にやられました。会場全体でもすすり泣く声は聞こえていたのですが、確かにどの年代のどの層にも刺さる作品だと思います。
後述しますが、少し独特な演出をする作品のため、万人にオススメできるかというと難しいかもしれませんが、内容的には生きとし生けるすべての人を包み込む温かな言葉が散りばめられた作品でした。
脚本(※ネタバレ注意)
まずはストーリーから。端的に言うと、「少し不幸な人たちが少し前を向く一年間の物語」です。少し不幸、というと語弊があるかもしれませんが、登場人物たちは等身大の不幸を背負い、それでも周囲の力を借りながら少し力を振り絞って生きていきます。終幕のラジオ体操はきっと、全員が前向きに明日を生きた証なんだろうと印象的でした。
登場人物は5人。1人は明確な人格を持たず、様々な役を演じるアンサンブル的な役割を担います。他の4人は、例えば若い男性は引きこもり気味で世の中への不満を抱き続けていたり、中年の女性は結婚を意識しながらもチャンスを逃し続け、今は寂しさを抱えながら一人でスナックを経営していたりとそれぞれの事情を抱えています。
登場人物たちは基本的には一緒にいません。それぞれが、それぞれの生活を送っており、たまに顔を合わせ言葉を交わします。だから、登場人物どうしに大きな対立があるだとか、互いの主張をぶつけ合うだとか、そういった場面はありません。
でも、それがいいのです。私たちの多くは世界を救う勇者でもなければ、金銀財宝を狙う大盗賊ではありません。毎朝同じ時間に起き、同じ道で出社し、同じ業務をこなして、同じ道で帰宅する。その繰り返しで命を費やし、やがて死んでいく。そういうルーティンの中で生きている人が、舞台上にいる人物たちに自分を投影できる、そんな作品がこの「ロマンス」です。作中の言葉はすべて宮﨑弁で語られます。開演前に演出・脚本を担当された永山さんが「ちょっと分かりにくいかもしれませんが…」とおっしゃっていましたが、あえて方言にしたことで私たちの日常により深く食い込んできたように思います。
そして、特徴的なのは登場人物たちの台詞以外がかなり多くあることです。台本で言うとト書きに近いと思うのですが、誰かの台詞の後「と言った後、○○は屈託のない笑みを浮かべた。(うろ覚えイメージです…)」という情景描写を舞台上の誰かが語るというシステムをとっていました。
このシステムを最初に見たときは、文学的で小説みたいだなと思いましたが、作中ではとてもうまく効果を発揮していたと思います。舞台セットが質素(すのこ?が4セット、段違いにおかれており、上手前に蛇口、下手奥に白い布が吊るされている)であり、置かれている状況がイメージしにくい中、このシステムは観客の脳内イメージをより鮮明にする効果があったように思います。リアルな演劇で、イメージの解像度が低いのは致命的なので、そこを補完する役割をもたせたのかなと推測します。
それから、歌が多いという特徴もあります。別にミュージカルとか音楽劇というわけではありません。例えば、亡くなった娘が幼いころに歌っていた歌を父が歌うなど、あくまでやりとりの中で始まります。これが、観客の心に刺さりまくります。まず、役者全員歌が上手く、歌声が染み入ります。さらに歌にのせた思いや心情を言葉にせずとも感じられ、観客の涙を誘うのです。年老いた母に娘が「誕生日プレゼント何がいい?」と尋ねるシーンがあるのですが、その言葉に母は「お手伝い券」と答えます。「お金も物もあの世には持っていけないから、思い出が欲しい。小さいころにあなたからもらったお手伝い券が一番のプレゼント」と母は言うのです。その母に対して娘は突然「浜辺の歌」を歌い出します。前半を娘が歌い、後半を母が歌う。そこに言葉はありませんでしたが、母と娘の思い出が新たに生まれた温かさと老いていく母とそれを見つめ続ける娘の侘しさがありありと描かれていました。私も遠く離れて暮らす母のことを思い出しました。今度電話でもしてみようかな。
演出
前述しましたが、これは少し独特です。まず、決して向き合って会話をさせません。横に並んで会話するか、遠くで話をします。それに、脚本上、主要人物と主要人物以外(役名のない人物)が話すという構図が多く、4人の主要人物のターンが順繰りに回っているという印象です。主要人物の独白のようであり、役者さんは大変だっただろうなぁと勝手に感心していました。また、情景描写の語りは数人で声を合わすことが多く、これもかなり練習量に裏打ちされた表現だと感じます。
それから、照明のこだわりも強く感じました。基本的に舞台上は薄暗いのですが、舞台下手に設置されている照明(ソースフォー?)が細い光の線を生み出し、人が通るたびに光が揺れるという美しい表現がありました。また、フェードアウトにもかなりのこだわりを感じました。舞台後半で「ゆっくりと目を閉じる」と言いながら登場人物たちが眠りにつくシーンがあるのですが、そのときの暗転は瞼が閉じられるようなスピードの暗転で、舞台上の感覚と客席の感覚のリンクを生み出していました。
「わびさび」と言っても良いような印象の演出でしたが、私が理解しきれなかったところもあります。1つは役者の移動です。前半、すり足で全員が移動しており場転のたびに小休止があった印象を受けたのですが、その意図は分かりませんでした。また、上手にある蛇口の存在も異質ではありましたが、具体的に活用されることはなく「縁側の表現か…?」という程度で確信を得られる答えは見つかりませんでした。
キャスト(※ネタバレ注意)
これはもう文句のつけようがありません。5人共に個性が埋没することなく、かつ主張しすぎることもない素晴らしいバランスでした。中でも若い男性の方に私はドハマりしたのですが、内弁慶で能弁な部分と人見知りで訥弁な部分を上手く演じ分けており、彼が母親のことについて祖父と話をするシーンは本当にグッと来ました。気持ちを吐き出しすぎないところもリアルで、涙をこぼす姿も自然そのものでした。
余談ですが、私はあまり舞台上で泣く演技を見たくありません。何というか、「ここで泣く!」というスイッチ的なものを感じてしまい、一気に興冷めしてしまいます。泣こうと思って泣いたんだなぁと思った瞬間、前のめりで見ていた芝居が急に遠くに行ってしまったように感じるのです。ただ、今回の芝居含め、「泣いてしまった」という演技にはむしろもらい泣きしてしまうほど共感します。若い男性の方だけでなく、他の演者の方も「涙があふれてきた」という感じの涙の流し方であり、私もたくさん泣いてしまいました。そりゃこんなの見せられたら泣いちゃうよ。
全編宮﨑弁であり、文語調の台詞も多くかなり演じるのは難しい脚本だったように思いますが、見事作品の世界観を描き切っていたように思います。単なる技術だけではない、役の心に寄り添う繊細さを持った演技でした。
まとめ
全体を通して、本当にすごい作品に出会えたなぁという印象です。扱っている内容はそれほど奇抜なものではありませんが、舞台上で語られる言葉であったり、表現方法であったりは劇団こふく劇場ならではの手法だったと思います。きっと固定ファンがたくさんいるでしょうし、何なら私も今回からファンになりました(笑)
他の作品になっても同様の演出をするのでしょうか?脚本の毛色は変わるのでしょうか?いろいろと興味が湧いてきたので、次回公演に期待したいと思っています。
この記事を読まれて興味を持たれた方は、まだ公演が残っていますのでぜひご覧になってください。絶対に観て損はありません!
最後までご覧いただきありがとうございました。
そして、素敵な言葉と温かい時間をくれた劇団こふく劇場さん、ありがとうございました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?