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商人のDQ3【36】エーゲ海に船出して
「女王様が言うから、仕方なく売ってあげるんだからね」
ヴィンランドに街を建設するため、ソルフィンがパーティを抜けてから。シャルロッテ一行にとって、船の確保は長い間悩みでした。バイキングの街ノアニールで船大工を探しもしましたが、街が眠らされている間に大工道具が錆びてしまっていて。
その件をエルフの女王に相談すると、彼女から思わぬ返答がありました。
「では、ハティにボトルシップを作ってもらいましょう」
どうして、模型の船なんでしょうか。
エルフの道具屋ハティ。里の中でも人間嫌いで知られますが、彼女の作る魔法アイテムはどれも一級品。ロマリア防衛戦で活躍したシャルロッテ一行の新装備…ゾンビキラー、エルフの鎖かたびら、魔法のローブなどはみんな彼女の作品です。
そして、イシスへ渡る船が必要になったタイミングでちょうど。前々から頼んでいた船が完成したとの連絡が、ノアニールの復興に関わっていた冒険者を通してロマリアに入りました。
「代金は、エールとワインを20樽ずつね!人間のお金は受け取らないわよ」
「それなら、ノアニールにいい酒蔵がありまちゅ」
ハティはゴールドでの支払いを拒否したため、シャルロッテはノアニール の酒蔵「ヘイズルーン」を訪ねて、お金代わりのお酒を職人のエルルに発注しています。新しい装備はみんな、お酒と交換でした。もちろんいっぺんにではなく、何年もかけて少しずつ納入する約束で。
これはノアニールの街とエルフの隠れ里の交流を活発にし、さらにはソルフィンの両親がそうであったように人間とエルフが打ち解けるきっかけにもなるので、シャルロッテとしては大歓迎でした。ハティがいつデレるのかを楽しみにしながら。
「あ、シャルロッテさぁん!」
「いつも、美味しいお酒をありがとでち」
シャルロッテ一行が訪れると、酒蔵の娘エルルは満面の笑顔で迎えてくれました。この子、昼間から飲んでます。とゆ〜か、中世のヨーロッパで日本みたいに綺麗な水に恵まれない土地では、エールは水代わりです。アルコールが入ってるから比較的安全なの。
『ケルベロスブレイド』(C)イーノ/里麻りも子/トミーウォーカー
「エルル、ジパングで最近起きたことを聞かせてもらっていいかしら?」
「はいですぅ、マリカさぁん」
マリカが見込んだ通り、エルルの夢渡りの素質は驚異的で。1週間もしないうちに夢渡りをコントロールし、寝ている間にジパングへ渡って向こうで日本酒づくりを再びエンジョイするようになりました。もちろんジパング人に完璧な変身をして。ここまでの使い手は、フリウリ村でも少数。
なお時差の関係で、ノアニールが夜のときジパングは昼間です。
「ジパングではぁ、バテレン追放令が出て大変なんですぅ」
ジパングは古来より、八百万の神々のおわす国である。
その我が国に邪教を持ち込み、人心を惑わして侵略のきっかけを作ろうなど不届き千万!よって私、ジパング大公ヒデヨシが粛清しようというのだ!!
「ポルトガって、やっぱりワルモンでち!ぷんぷんでちゅよ」
エルルの語るジパングの話に、シャルロッテも可愛らしく怒ります。
「俺たちが無策でジパングに行ったら、即お縄だなこりゃ」
わーっ!ガイジンだあ!
異国から来る冒険者はみな侵略者か、とクワンダが表情を険しくします。この世界のジパングは、原作のサマンオサよりはるかに大変みたいです。
「となると、魔王軍のヒミコはジパングでどうやって権勢を!?」
アッシュ少年が不思議そうに首をかしげます。先日ロマリアに攻めてきたゾンビ軍団も、元はヒミコの指揮下。
「アマテラスの巫女ヒミコが命じる。バテレンを捕らえ、磔にせよ!!」
「ひぃいいい!!」
あるときエルルは、追っ手から逃れて疲れ果て行き倒れになっていた宣教師を助けました。バレたら同罪ですが、彼女は困った人を放っておけない優しい子。
「だいじょぶですかぁ?」
「おお、なんて優しいお嬢さん。私はイエズス会のフランシスコ・ザビエルと申します」
私この国に神の教え広めに来ました。
でも! オー! ここではヒミコ神様ね!
この神父さん、きっとザビエルがモデルですよね。
「あんた、悪いことは言わないからさっさと国に帰れ」
気が付くと、エルルの隣にかなり大柄な黒人の男がいて。ザビエルが何か悪さをしないか、こちらに警戒の視線を向けています。
「奴隷がなぜ、ここに!?」
「ヤスケさぁんはぁ、立派なおサムライ様ですぅ!!」
エルルが言うには、ジパングの言葉や礼儀作法などはヤスケから習ったとのこと。彼も海外から渡ってきたバテレンの従者で、ジパング大公ヒデヨシの主君だった今は亡きノブナガ公に気に入られ、身請けされて武士の身分を与えられたそうです。今は隠居しつつ、エルルの保護者を引き受けてくれているとか。
ジパングでの酒造りには、力の要る仕事もあります。体格に恵まれた弥助は、エルルの手伝いもしてくれました。ちなみに酒蔵が女人禁制だってのは江戸時代に入ってからの話ですから、まあOKですよね?
「オロチを操りイケニエを要求しているなど、ヒミコには胡散臭いウワサがありますが、大公ヒデヨシの信頼は厚く付け入るスキがありません。私も、ダーマ神殿に行って転職でもしましょうかね」
ヤスケの警告と、エルルの勧めもあって。ザビエルはジパングから脱出しダーマ神殿へ向かったようですが、その後の消息は不明だそうです。
「ありがとう、エルル」
「今のジパングで商売をしたり、オーブを探すのはかなり厳しいでちね」
話の最後に、エルルはヤスケへの感謝とこんなことを口にしました。
「ヤスケさぁんにもぉ、夢渡りを教えてあげられたら。故郷のテドンを見せてあげられると思いますぅ」
「テドンの街かの。あそこは…」
すでに魔王軍の手で滅ぼされている、と言えず。元魔王軍のアミダおばばは渋い表情を浮かべます。
(やはり、わしらが復活の儀式に関わったヒミコは一族の手で倒さねば)
※ ※ ※
「船を出すには、いい日でちね!」
ロマリアには、港も建設されています。まだ簡単な設備しかありませんが何隻か入港している船の姿も。新進気鋭の領主シャルロッテのウワサを聞きつけて、取引相手になるか確かめに来たのでしょう。
「コレ、ホントに使えるんでちかね?」
『第六猟兵』(C)イーノ/sio/トミーウォーカー
郷に入っては郷に従えとばかり、アラビア商人の格好をしたシャルロッテがエルフの道具屋ハティの作ったボトルシップのコルク栓を半信半疑で抜いてみると。中から飛び出した模型のバイキング船が着水するや否や…数倍、数十倍、いやもっと大きく膨らんでゆきます。なにこの魔法の船。
ボトルシップは、リメイク版のドラクエ5に登場するようですが「携帯できる乗り物」としては、これが初でしょうか。本物の船がボトルシップにされてしまうアイデアは、前例がありますけど。
「これは!古代アリアハンもびっくりの技術ですね」
見送り組のアッシュ少年も、目を丸くして驚きます。もしかすると、この世界のエルフは遺伝子改造された古代アリアハン人の末裔でしょうか?
「さあ、イシスへ船出するぞい!」
アントニオじいさんが張り切って、船に乗り込みます。続いてシャルロッテとクワンダが。
「おばば、この杖スーの村で拾ったんだけど。ライデインが使えるから絶対ゾンビ相手に有効よ」
マリカが、いかずちの杖をアミダおばばに預けます。この世界のデイン系呪文には「邪悪な魔力を断ち切る」チカラがあると、以前の戦いで判明しています。
「いいのかい、元魔王軍にこんなものを渡して」
「おばばさんは、僕たちの仲間じゃありませんか」
勇者アッシュも、アミダおばばに微笑みます。
「…まあこの中じゃ、一番ヒミコに詳しいのはわしじゃからの」
役目は果たすよ、とつぶやいて。イシスへ船出する全員が船に乗り込みました。魔法の船はひとりでにオールが漕ぎ出して、岸から離れてゆきます。
「みなしゃん、行ってきまちゅね!」
見送るアッシュ少年とマリカ、ロマリアの冒険者や住民たちに。冒険商人シャルロッテは、元気いっぱいに両手を振るのでした。
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