世界を魅了した「少し不思議な話」~松田青子著『おばちゃんたちのいるところ』~

ここのところ、「少し不思議な話」に触れることが多くなっている。
松田青子著『おばちゃんたちのいるところ」』中公文庫、2019年。以下、本書)もその一冊なのだが、本書を読みながら、「きっとこういう”少し不思議な話”は昔から世界中にあったんだろうな」と思った。

そう思ったのは、本書が2021年に『世界幻想文学大賞(短編集部門)』を受賞したからでもある。

本書には、『疲れた現代人を救うワイルドな日本の幽霊たち』(本書帯より)が繰り広げる「少し不思議な短編」が17編収められている。

彼氏に振られて『絶対キレイになってやる』とバブル期の坂井真紀よろしくエステに通い始めた女性の元に死んだはずの叔母が現れてイヤミを言い始めたり、水商売のシングルマザーが夜仕事に出かけた後に飴を片手に子どもをあやしてくれる幽霊が現れたり…
そういえば、『ワイルド』とあるとおり、あまり上品な幽霊は出てなかった気がするが、かと言って決して下品ではなく、「威勢がいい」といった感じで、全く嫌な気がしない幽霊ばかりだった。

本書、全て独立した短編ではあるものの、謎の線香製造会社で働く汀(てい)さんという人(かどうかも怪しい)が、何となく裏で暗躍しているような気もする…のだが、汀さんが何者なのか、何が目的なのかは一切明かされない。

それ以外にも、前に出てきた話の続きがさりげなく別の話に出てきたり(随分後の話にさりげなく『とある研究所に保管されていた骨が行方不明というニュース(略)防犯カメラに映っていた謎の女の身元を警察が調査中』と書かれてあって、私は「繁美ちゃん、ひなちゃん奪還成功!」と嬉しくなってしまった)と、何となく繋がっているのかいないのか、これまた不思議な短編集なのだが、一つだけ確かに本書全体で通底しているのは、各短編が古典の歌舞伎や落語、民話をモチーフにしていることだ。

たとえば、先述したエステ通いの女性の話は歌舞伎の『娘道成寺』、飴を持ったおばあさんは民話の『子育て幽霊』。
他にも『八百屋お七』『四谷怪談』『皿屋敷』などの落語や、『座敷童』の伝承話など、馴染みのある話がモチーフになっていて物語に入りやすい。

どの話も10ページ程度であり、ちょっとした空き時間や寝る前に一話ずつ読み進めることができる。
そしてそれらの「少し不思議な話」は、『疲れた現代人』である私をほんのちょっと救ってくれた、というか、癒してくれたのである。


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