大人の優しく切ない童話~映画『ツユクサ』~

映画『ツユクサ』(平山秀幸監督、2022年。以下、本作)は、「大人による大人のための童話」である。

主人公の出自や周囲の環境など「外的要因」によって物語が発生・展開する子どもの童話と異なり、本作は、主人公だけでなく登場人物全員がそれぞれの人生の中で背負い込んで来た「過去」が駆動力になる。

各登場人物は、大人が抱えそうな類型的事例(実子の死、妻の死、再婚相手と実子の不仲、再婚など)を持つキャラクターに設定され、観客自身に経験はなくても共感できる。
しかも、物語自体が「ご都合主義的な大人の恋愛」で展開し、登場人物全員が類型的なキャラクターでありながら、作り物ではなくリアルに感じられるよう、それぞれの配置と背景がちゃんと作り込まれている(もちろん、素晴らしい俳優たちの演技があってこそだ)。

本作が童話なのは、物語が主人公が運転する車に隕石が衝突するというフィクション感満載の導入で始まり、主人公の『大の仲良し』とされる小学男子のナレーションで展開することで示される(小学男子の失恋や主人公との交流、転校などを通して成長する物語でもある)。

キャラクター設定、筋書き、俳優の演技、どれをとっても一級品で本当に良く出来ている。
若者は物語を「理解」できても「共感」は難しいかもしれない。
反対に、主人公たちと同世代以上であれば、「理解」なんて不要で、素直に「共感」できるだろう(若者は、最終盤の主人公と小学男子のハグで胸を絞めつけられるほど切なくなったりしないだろう)。
本作はまさに「大人の童話」であり「大人の娯楽」である。

10代の頃、大人の恋は「純愛」ではなく、ただの「不純」であり「気持ち悪い」ものだと思っていた。
それは、自身の世界が狭い上に、周りの大人が「自分と同じ人間」ではなく「親」「友だちの親」「教師」とカテゴリー(キャラクター)化して認識していたためではないか。
カテゴリー化したキャラクターの「恋愛」は想像できない。
しかし我々大人は、キャラクターの中には「一人の人間」が存在することを「(実感として)知っている」。

大人だって恋愛するし、自分が恋愛するだけでなく、本作のような物語でキュンとしたり、ドキドキしたり、切なくなったりするのだ。

本作が上質の童話だからこそ、童話の本を閉じて映画館を後にする我々は、日々の疲れが癒されて生きる気力を回復しているのである。

(2022年5月1日。@UPLINK京都)

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