待った結果が“命”だからね、(助産師って)いい仕事でしょ?~映画『1%の風景』~

男の、しかも一度も家庭を持ったことがない私が、この映画を観るのはおかしいだろうか?
いや、そんなこと決してはない。
映画はいつだって、“知らなかった”ことを教えてくれ、“見たことがない”モノを見せてくれ、“行ったことがない”場所に連れていってくれるのだから。

いや、出産経験の有無に拘わらず、女性であっても“知らなかった”、“見たことがない”という意味では私と同じだと言い切れる。
何故なら、映画『1%の風景』(吉田夕日監督、2023年。以下、本作)が示す”1%“とは、「助産所分娩率」で、それも2000年の数字で2020年の調査では0.5%というのだから。

助産師はただ出産の時に医師の代わりに立ち会うだけの存在ではない。
産前から医療機関と連携して産婦のケアをし、出来るだけ産婦が希望する形で出産できるよう配慮し、産後のケアもしっかりと行う。
基本は「人と人の対話」で成り立っている。

本作、とにかく観客の一体感が凄まじい。
助産所での食事(助産師の手作りで、ちゃんと家庭用の食器で出される)にゴクリと唾を飲み、出産シーンでは身を固くし無事産み無事生まれることを一心に祈り、元気な赤ちゃんの泣き声を聞いて安堵と脱力のため息をつき、その後の赤ちゃんの愛らしさに頬を緩ませる。

多くの出産に立ち会ってきた助産師さんたちの口からは、たくさんの名言が出てくる。
そのうちの一つが、本稿のタイトルだ。

「助産師は赤ちゃんがお腹から出てこようとするのを待つのが仕事」という彼女は、続けてこう言って微笑んだ。

私ね待つのが好きなの。待って待って待って……その結果が”命“だからね。いい仕事でしょ?

メモ

映画『1%の風景』
2023年11月18日。@ポレポレ東中野(アフタートークあり)

映画館を出て、その後のスケジュールをこなす。
土曜日の街には、たくさんの子どもたちがいた。
この子たちも、ああやって生まれてきたのか。
自然と頬が緩む。一人一人が幸せに包まれて大人になって欲しいと願った。
本当は気後れし、映画館に行くことに迷いもあった。
でもやっぱり観てよかった。
映画は、我々の知らないこと、見たことのないモノ、行ったことのない場所に開かれている。


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