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映画『ぼくのお日さま』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず)

吃音を持つ主人公が見惚れるヒロインがきっと映画『ぼくのお日さま』(奥山大史ひろし監督、2024年。以下、本作)というタイトルの意味だと思っていて、彼女の表情のファーストカットに驚いた。
悩んでいるというか、不安がっているというか、不満があるというか、とにかく「陽」ではなく、明らかに「陰」だった。
それは、コーチも同じで、初めてアップになったその表情は「陰」だった。

雪が積もる田舎街に暮らす小学6年生のタクヤ(越山敬達)は、すこし吃音がある。タクヤが通う学校の男子は、夏は野球、冬はアイスホッケーの練習にいそがしい。
ある日、苦手なアイスホッケーでケガをしたタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女・さくら(中西希亜良)と出会う。「月の光」に合わせ氷の上を滑るさくらの姿に、心を奪われてしまうタクヤ。
一方、コーチ荒川(池松壮亮)のもと、熱心に練習をするさくらは、指導する荒川の目をまっすぐに見ることができない。コーチが元フュギュアスケート男子の選手だったことを友達づてに知る。
荒川は、選手の夢を諦め東京から恋人・五十嵐(若葉竜也)の住む街に越してきた。さくらの練習をみていたある日、リンクの端でアイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て、何度も転ぶタクヤを見つける。
タクヤのさくらへの想いに気づき、恋の応援をしたくなった荒川は、スケート靴を貸してあげ、タクヤの練習につきあうことに。 しばらくして荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習をはじめることになり……。

本作公式サイト「あらすじ」

「陰/陽」で観ると、タクヤには必ず光が当たっていて(夜の自室でも月の光らしきものが射し込んでいる)、さくらと荒川には光が当たらない。
2人に光が当たるのは、アイスダンスの練習でタクヤとさくらが初めて互いの身体に触れ、それをアイスホッケーの練習をしていた男子たちがからかった後だ(そのときの、さくらの表情にも驚いた)。
つまり、タクヤがさくらと荒川という「陰」を明るく照らし出す。そういった意味で、本作は『ぼく"が"お日さま』ということもできる。

それにしても、幼い頃は男の子同士でイチャイチャ(とあえて表現する)するもので女の子といると先のシーンのようにからかいの対象となってしまうのが、いつ、逆転してしまうのだろう。
タクヤとコウセイ(潤浩)の関係と、荒川と五十嵐(若葉竜也)の関係は、どこが違うのだろう?

「TVガイドWeb」2024年9月12日配信の『「ぼくのお日さま」 奥山大史監督が語る、日本映画のこれから』という記事によると、奥山監督は橋口亮輔監督の『ぐるりのこと』(2008年)をビデオで見て映画に興味を持ったという。
荒川と五十嵐の関係は『二十歳の微熱』(1993年)などで橋口監督が描き続けてきたことで、本作終盤の荒川とさくらの関係は、『恋人たち』(2015年)の四ノ宮を想起させる。

奥山作品を観ていると「映画とは何か」がわかる気がする。
奥山作品は、物語はラストシーンのためにある
一見単調で物語の起伏がなく、各々のエピソードも割と「ありがち」な感じに思えるが、それらは全てラストシーンのために奉仕している。
デビュー作『僕はイエス様が嫌い』(2019年)のシュールなイエス様は確かに魅力的だが、イエス様が現れるということも物語の展開(ここでも男の子同士の関係が描かれている)も、特に奇をてらっているわけではなく、どちらかというと「ありきたり」だ。
ラストシーンだって冷静になって考えれば「ありきたり」ではある。
しかし、私は障子に指で穴を開けて覗いたその先の光景に、訳もわからず号泣したのだ(家で見ていたから、気兼ねなく泣けた)。
今回、本稿を書くに当たって飛ばし飛ばし「時短視聴」で見直したのだが、期待していたラストでそれほど感動しなかった。これは一度見てオチを知っているからとかそういうことではなく、物語の全てがこのラストシーンのためにあるからだ。

本作はラストシーンではなく、その先の暗転にある。
またしても、訳もわからず泣きそうになった。
満員のお客さんがいるから何とか我慢しようとする私の耳に、エンディング曲が聞こえ、我慢できなくなった。

こみあげる気持ちで
ぼくの胸はもうつぶれそう
泣きたきゃ泣けばいいさ
そう歌がぼくに言う

ハンバートハンバート「ぼくのお日さま」
(作詞・作曲 佐藤良成)

本作はこの曲から着想を得たという。
そう、本作の物語はこのラストシーンのためにある。

メモ

映画『ぼくのお日さま』
2024年9月15日。@テアトル新宿(公開舞台挨拶あり)

本作ではアイスホッケーのゴーリーが「弱い者イジメ」「罰ゲーム」のように描かれているが、アイスホッケー(恐らくサッカーも)の花形はフォワード(ポイントゲッター)ではなくゴーリーだ(スケートが一番上手いのもゴーリー)。

本文で書いたとおり、奥山監督は橋口亮輔作品で映画に興味を持った。
2024年7月3日に渋谷・ユーロスペースで上映された橋口監督の『渚のシンドバッド』(1995年。ヒロインはアイドル時代の浜崎あゆみさん)で、橋口監督とともに奥山監督がトークショーに登壇した。
橋口監督は、『「ぼくのお日さま」には、ちゃんと痛みが描かれている』と語った。
物語が終わって暗転したとき私が泣きそうになったのは、言葉にできない痛みが身体に走ったからだ。



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