21世紀版『7days War』~映画『ラストサマーウォーズ』~

映画『ラストサマーウォーズ』(宮岡太郎監督、2022年。以下、本作)というタイトルから『よろしくおねがいしまぁす!』のアニメ映画をイメージしたが、そうではなく、完全に「7days War」(『ぼくらの七日間戦争』(菅原比呂志監督、1988年)。ただし本作は、物語発動のきっかけが「ヒロインの転校」である点を含め、2019年公開のアニメ映画版(村野佑太監督)の方が近い)だった。
そういう点において本作は、この34年の社会の変遷をくっきり浮かび上がらせた作品ではないだろうか。
それは良し悪しの問題ではないし、きっと34年前も子どもたちの「リアル」は、きっと本作側にあっただろうとも思う。

この34年の間に、世界的には東西冷戦が事実上終結し「イデオロギー」というものの存在が薄くなった(とは言え、また2022年に新たな冷戦が始まろうとしているが……)。日本に関して言えば、21世紀に入ってから「新自由主義」が浸透し、今では誰もが「日本古来の伝統」だと信じてしまうくらい、一般的な考えになった。

『七日間戦争』で子どもたちが戦う相手は「体制」であり、「イデオロギー」だった。
しかし、イデオロギーが崩壊し、新自由主義がデフォルトとなった21世紀において、大きくて分かりやすい「体制」というものは無く、全ては個人と、その個人の周辺の「小さな世界」の存在しかなくなった。

だから本作においても、戦いはあくまでも個人的問題に回収され、集団における葛藤は存在せず、敵は目の前の親や学校という具体的なものになっている。

80分というコンパクト(とは言え、主人公たちと同世代の子どもにとっては適切な長さだろう)な物語は、全ては主人公の成長のためにあり、ヒロインを含めた仲間たちは最初からキャラ付けされた「アベンジャーズ」的存在として描かれ、その役割に徹するという点において、集団における葛藤はおろか、自身の内面への葛藤もない。
『七日間戦争』で印象的なシーンに陣中見舞いに来た女子3人が催したパーティーで仲間割れが起こり、大雨の中去ろうとする安永を止めようとした中尾が「僕はガリ勉なんかじゃない!」とキャラを否定する場面があるが(個人的に大好きなシーンで、TM NETWORKの「Girl Friend」を聴くと必ずこのシーンを思い出す)、本作にはそういった葛藤はない。
「アベンジャーズ」的な仲間たちは、終盤において、共闘ではなく、あくまでも個人の自己犠牲で戦う(まさに、「ここは俺に任せろ!」「俺にかまわず、早く行け!」)。

対する大人たちもイデオロギーなき時代、個人的なトラウマによって子どもたちの「壁」となる。
それは、子どもたちの味方となる担任教師(井上小百合)も同様で、『七日間戦争』では「体制におもねらない」ことで子どもたちの味方となった西脇先生(賀来千香子)とは違い、個人的なトラウマが動機となっている。

本稿は、本作を批判していると思うかもしれない。
それは独身・子なし・オヤジの私の個人的な感想によるもので、作品自体が悪いわけではない。
舞台挨拶に登壇した井上小百合は、母親が本作を観て3回泣いたと証言しており、子どもを持つ人なら大きく感情を揺さぶる作品になっているのであろう(もちろん、ターゲット層の子どもたちも)。

本稿は、単に1988年を神格化し「あの頃は良かった」と回顧しているだけに思うかもしれない。
だが、「あの頃は良かった」のではなく「あの頃があったからこそ今がある」のである。

それは、クライマックスの「鬼ゾンビ」のシーンに象徴される。
「鬼ゾンビ」たちを含め、主人公の親や祖父/祖母の立場にある観客たちは34年前、大人たちに「戦争」を仕掛けた側の子どもたちだったし、それに喝采した子どもたちだった。
「あの頃があったからこそ今がある」
アニメ映画版では、かつて「戦争」を仕掛けた中山ひとみ(宮沢りえ。声も本人)が、それを体現している。

34年前、大人たちに「勝利」した記憶や気持ちを、「大人」になった今も忘れず持ち続けている。
だからこそ、無意味で不条理な「体制」が崩壊したのである。
多くの「鬼ゾンビ」たちが、34年前に起こしたたった7日間の「戦争」の記憶を語り継いでいるようで、そのことが純粋に嬉しかった。


メモ

映画『ラストサマーウォーズ』
2022年7月2日。@UPLINK吉祥寺。舞台挨拶あり

本作はきっと『ぼくらの七日間戦争』のオマージュだ。
宮岡監督自身、舞台挨拶で、ヒロインの高梨明日香を演じた飯尾夢奏ゆめなを、『「七日間戦争」の宮沢りえをイメージした』と紹介していた。

本作、埼玉県入間いるま市を舞台とした所謂「ご当地映画」で、同市にある「ユナイテッド・シネマ入間」で先行上映されていた。
本作で主人公が自転車で疾走するシーンで建物がチラッと映る。何度か映画館に行ったことがあるのを思い出し、懐かしくなった。


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