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イカレたゲーム哲学で世界を駆ける話【#ゲーマゲ 感想】

推しブログ『LWのサイゼリヤ』の筆者、LWさんによるWeb小説『ゲーミング自殺、16連射アルマゲドン』(通称ゲーマゲ)が面白かったので、感想を書く。

読んでない人向けにプロモーションしておくと、「プロゲーマーとして無双している最強美少女主人公が、異世界転生して色んな敵と戦っていく」話。異世界転生と言っても「バスに轢かれて死んだから女神様にスキルもらって~」みたいなやつじゃなくて、"異世界そのもの"・"転生そのもの"についての哲学的な話が展開される。ネタバレ回避して説明するのが難しいから、よくわからん説明になった。読んで確かめてみてくれ!

登場人物は全員美少女だし、全話にイラストAIによる美麗イラストがついてるので、小難しい理屈を読みながら萌え萌えになれるぞ。

あと前作皇白花スメラギハクカにはうじが憑いている』(通称すめうじ)も面白いぞ。こっちも美少女が小難しい話しながらバトルするぞ。残念ながらAIイラストはないけど。(つけてほしい)

という訳で以下ネタバレ


リアルタイムで追って楽しい展開

ゲーマゲは10月末に始まって実に2か月強の間毎日連載されていたが、一時期忙しすぎるとき以外は毎日読んでいた。一気読みするより連載をリアルタイムで追った方が楽しい作品を「連載がうまい」と言ったりするが、ゲーマゲもそれだった。ヒキと裏切りがうまい。

特にノリノリだな~と思ったのは、魔法学院世界の裏裏ボスのVAISの出落ち。彼方が自分に並ぶまでじっくり育てて待ちに待っていたVAISが、次の話で不意打ちで死ぬの、流石に理不尽すぎるだろ。良い意味で。しかもその次にVAISの過去回想が走馬灯みたいに始まるし。急展開に振り回されて酔ったわ。良い意味で。

また、徐々にメタ認知のレベルが上がっていく序盤の展開も気持ち良い。情報出す順番がうまいんだろうな~。作品全体で見れば所詮はローカルでしかないはずの基底世界がきっちり描かれることで、読者も基底世界に愛着が湧き、ちゃんと彼方に近い目線でメタ認知を始めることができる。


イカレた貫存在たち

登場人物がみんな個性的なのも良い。彼方は何でもゲームとして捉えてそれへの執着がすごいし、立夏は花への愛がおかしいし、VAISは暴力を信頼を越えて信仰している。そういった個性を支えるイカレた哲学が貫存在たる所以という構造になってるのも物語上納得感がある(立夏は貫存在じゃないけど)。

こういう「感情移入はできないけど、イカレた哲学を前提とすれば理解はできる」くらいのキャラクターは面白い。容易に共感できる奴らではなく、容易に共感できない奴らからしか得られない栄養素がある。そしてそれはフィクション作品特有のものだ。

特に好きだったのは、エルフ世界最後の立夏の独白。立夏一人が語るシーンではあるけど、彼方の恋愛観も看破しているので二人分の哲学が描かれる。そのどちらもイカレていて、お互いを知ったことで致命的に分かり合えないことが分かるの悲しい。

あと、せっかくなら趙や此岸が貫存在としての能力を手に入れるに至ったバックストーリーも見てみたかったな。貫存在になるには世界を変革する意志が必要なはずだから、こいつらもなんか一悶着やってそう。

ちなみに推しキャラはVAIS。オリジンストーリーが切ないのも良いけど、そこからめちゃくちゃな開き直り方するのが最高。能力も派手で、それを隠そうともしない振る舞いがかっこいい。そうやって理不尽な暴力を極めてたのに、最後は神威の不意打ちという理不尽な暴力であっけなく死ぬのも悲しくて好き。


彼方の扱いと彼方自身

彼方の扱いが各世界で全く異なるのもゲーマゲの魅力だろう。KSD世界では救世主、エルフ世界ではモブ、すめうじ世界では世界の敵(だけど実力的にはジュリエットへの挑戦者)、魔法学園世界では魔王兼教師…。異世界転生を繰り返して滅ぼしていくってストーリーだとワンパターンになりそうだと思ってたけど、そうはならなかった。彼方自身が一貫して変わらなくても、周囲からの扱いが変わることで色んな側面が描かれていた。

もちろん彼方も世界を越える過程で成長して変わっていく部分はある。しかし、それは目的を具体的に自覚したり目的の遂行手段が増えたりしているだけだった。根っこの「全力でゲームで遊んで勝ちたい」というのは変わらず、「他人を顧みないガキ」からは一向に成長しない。どの世界にも属さないから単一の世界のローカル道徳が適用されない。存在の足場が自分自身にしかないので、自分のやりたいことにまっすぐ。いかにも"貫"存在らしい。

ただ、彼方が露悪的に描写されすぎててどうやら不評らしい。確かに、普通のキャラなら、この極端な独善性からのギャップ萌えを狙うところな気がする。例えば不良が実は猫好きみたいなやつ。愛や趣味嗜好には基本的に理由づけが必要ないから、ギャップ萌えポイントとして設定しやすいんだろう。しかし、彼方の愛の対象はゲームの強者だ。あくまでゲームを求めるところが徹底して一貫しておりギャップがない。

同じ貫存在でも、神威は魔法少女世界にモブとして定住することを妥協として選択できる人間だった。しかし、彼方はその逃げ道を持たない。ゲーム以外で我慢ができない。それゆえにエルフ世界での立夏との定住も、魔法少女世界での神威との定住も切って捨てたのだった。数多の世界を越えてなお、彼方はあくまでゲーマーでしかなかった。悪く言えば成長がないが、良く言えば自分を曲げない爽快さがあった。


微妙だったポイント

あまり小説を読む方でも批評が得意な方でもないから、偉そうに指摘するのは憚られるけど、大反省会に拾われるの狙いで一応書いておく。

まず、エルフ世界編がかなり退屈だった。彼方が退屈してるし、退屈さが問題の世界だからある程度仕方ないところはあるが、読者だけでも楽しめるイベントが欲しかった(立夏ズも楽しんでるけど)。もしかして彼方が退屈すぎて気が狂いそうになってクスリに手を染めてるのが萌えポイントなのか…?

あと、此岸、要る? 急に出てきて世界便ばらまいただけの人。姉妹ゆえの無償の愛で特に理由なく手伝ってくれてそんだけだったから、掘り下げがあんまりない使い切り便利アイテムみたいなキャラだった。SUKIYAKI世界で彼方が死にかけてるときなりその後なりに出てきて、狼狽したり叱ったり、色んなお姉ちゃんムーブを見せてほしかったかも。

また、これは大反省会2でも触れられていたが、特に終盤の展開で置いてけぼりに感じた。基本的に全員頭がおかしいせいで読者目線が一人もいない上に、すめうじ世界攻略以降は描写が飛び飛びになって彼方と読者で情報が完全にズレてしまい、説明の機会が欠けたことが原因か。


文句(?)も書いたけど、全体としてかなり楽しめたし、この後書かれるであろうセルフ解説記事も楽しみ。好きな作品を好きなブロガーが解説してくれるのが確定してるの、お得やね。

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