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エトセノオンガク 5

2020年3月29日 自宅。

3月23日にレコーディングしたetc.(エトセトラ)Weekend Heroesの音源編集に取り掛かる。

音源編集の流れはエンジニアによってそれぞれだが、自分の場合、①タイミングがずれている箇所の補正、歌の音程を調整する「エディット作業」、②それぞれのパートの音量、音質を調整して混ぜる「ミックス作業」、③ミックス作業で仕上げたデータを、CDや配信用の音量に調整する「マスタリング作業」の流れになる。

エディットで半日、ミックス・マスタリングで半日、だいたい1曲だと1日掛かるが、同じ日にエディット・ミックス・マスタリングはやらないようにしている。なぜかというと、エディットはタイミングや音程の「ズレ」に意識を集中させる作業で、ミックス・マスタリングは「音量バランス」に意識を集中させるため、頭の使い方が異なるからだ。まずはエディットを完璧に整えた状態にして、一旦頭をリセットさせ、別の日にミックスとマスタリングをするのが自分のやり方である。

Weekend Heroesのエディット作業もレコーディング同様、ドラムから始める。ゆーなは特に問題がなく、2サビ前のフィルと2:26のバスドラムのタイミングを直した程度でサクッと終わる。すずのベースは少し前に突っ込んだリズムになっていたので、トラック自体を後ろにずらしてから、ゆーなのドラムに合わせて、細かい部分を整えた。いっちゃんとなごのギターも同様の処理をして終える。

この時点でAssortのレコーディングよりも4人の演奏スキルがひとまわり上がっていたと感じる。10回のスタジオ練習よりも1回のレコーディングや自主企画がバンドを成長させる、ということを昔誰かが言っていた気がする。

続いて、歌とコーラスの音程やタイミングを修正。いっちゃんは吹奏楽部出身なので音感が良く、もともと音程は正しくとれる技量がある。音程の補正には特に困らなかったが、お決まりの滑舌によるタイミング補正が主な山場となった。

1と2サビ終わりにすずのコーラスが入る部分。どうやら、すずはいっちゃんの作るメロディーのリズムが難しいらしく、うまくリズムがハマっていなかったので、慎重にタイミングを補正する。途中、よく分からなくなったので、キッチンに行ってコーヒーを淹れて休憩。カフェインで集中力を取り戻し、粘り強く調整してこの日は終えた。

翌日はミックスとマスタリングの作業。作業を始める前に「リファレンス」と呼ばれるミックスの参考音源を、モニタースピーカーで鳴らし集中して聴く。今回リファレンスに選んだのは the band apart / Fool Proof(20周年再録版)という曲だ。特に、ドラムの音がナチュラルで心地よく、全体の音量も大きすぎず小さすぎず、綺麗にまとまっている。エンジニア、速水さんの手腕が凄く勉強になる。レコーディングの前には速水さんのインスタをチェックして、ドラムを録りのマイクセッティングを真似してみた。

リファレンスの音源のような、音量・音質バランスを目指して、ミックス作業を進める。コンプの設定がどうとか、このプラグインのEQの効きはどうとか、ミックスの細かい話を書いても、玄人向けの内容になるので省略するが、ひとつだけ。

ミックスをするとき、頭の中で「曲を擬人化させる」ことを意識している。イメージした人間の表情や服装、姿、姿勢はどんな感じなのか、妄想力をフル回転させて、ミックスで煮詰まった時、脳内にいるその人間に聞く。「どうなりたい?」

頭の中にいる「曲」という人間と相談しつつ作業を行う。頭のなかで描かれたイメージは、中性的な身体付きで男性にも見えるし女性にも見える。顔は黒く塗りつぶされたような仮面を被って「誰ものでもない誰か」のようだった。服は無印良品みたいなものを着ていた。

午前10時ぐらいから作業して、5時間ぐらいかかったかなと思ったら、まだ13時すぎだった。一旦休憩して、ミックスの仕上げとマスタリングに取り掛かり、15時過ぎには完成した。メンバーにデータを送る。

誤まって歌詞のデータがどこかにいってしまったので、マスタリングを終えたデータを送ってから、後ほどゆーなに歌詞のデータを再度送ってもらう。Weekend Heroesの歌詞をもう一度よく読むことした。

ビルの間に吹くガスの風
あの駅の海面を染め上げて
陸上競技がなくなって
花火も店から消え去って
ガス抜きバイトに明け暮れて
音楽は消えた

背筋が凍るような感覚になった。新型コロナウイルスの影響で、どこのライブハウスからも音楽が消えた現在の状況を暗示しているような内容だった。ふと、「この曲をすぐに世に出さなければいけない」。そんな使命感が湧いてきた。メンバーにすぐ連絡をして、リリックビデオの制作の提案をした後に、2時間ほどで簡易的な動画を作った。

翌日、メンバーから音源のチェックバックが上がってきた。

ラスサビ前のブレイクは左右のギターとベースが同じメロディーを弾くアレンジだが、シンプルにいくほうがカッコいいと思い、左右のギターを消してベースのみにしていたところ、ギターも入れて欲しいとのことで、修正。ちなみにこの一瞬のフレーズだが、左から鳴っているギターは、レコーディングの際に自分が弾いた。

いっちゃんから、LINEで動画送られてくる。補正した歌の音程で、違っている部分があったので「ここはですねー」という具合で間違っている部分を動画で解説してくれた。このような修正のもらい方は初めてだったので、面白かった。そのあと電話して「ここってD(レ)?それともE(ミ)?」と細かい確認を重ねた。

細く確認してくれるは有り難いし、当たり前のことだが、メンバー全員がプライドを持って音楽制作に向かっている姿勢が伺える。グループLINEの通知がまた鳴る。メンバーそれぞれから、他にも直してほしい箇所がいくつか挙がる。エンジニアはエンジニアの、プレイヤーはプレイヤーならではの気づきがあり、こうやってじっくりと確認してくれるおかげで、理想の音に一歩ずつ近づいていくのだ。

修正も終わり音源が完成。メンバーに送ってOKをもらう。前日に作ったリリックビデオを4/2に公開することにした。音源の完成から、数日で公開できるのはインディーズレーベルならではのフットワークの軽さだと自慢できる。

本当はリリックビデオではなく、MVを制作して公開し、そのタイミングでサブスクで配信しようと思っていた。なので、MVが出来るまでの期間、このリリックビデオを公開するつもりで動いている。横須賀中央に佇む古民家ギャラリー、飯島商店のマハヤ君とコムラさん、映像作家の竹林ユウマに連絡を入れた。(続く)

■ etc. / Weekend Heroes リリックビデオ


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