見出し画像

着の身着のままみずみずしく

生きてるだけですべきことは本当に増えていく。

生きてるだけで腹は減るし、眠たくもなるし、人と話したくなる。
生きてるだけでお金はかかる、支払い通知は積み重なるし、クレジットカードの引き落としはやってくる
生きてるだけで誰かを傷つけるし、生きてるだけで誰かを救うこともある。

完璧なんてないのに、言葉を使って解像度高く未来を思い描いてしまうと理想と現実の乖離に押し潰されそうになる。根拠なき自信を持つことが重要だと人に説いておきながら、どうしようもない夜も、何も考えられなくてスニーカーをひっかけ意味もなく外に出る朝もある。
長いこと掃除をしていなくて、気づいたらゴミが溜まっていることも往々にしてあるし、時々お風呂に入るのもわすれて眠ってしまうこともある。嘘、時々なんかじゃない。

どういうわけか完璧にできるなんて自惚を身体のどこかに提げたまま、日々を連ねてしまっていた。傲慢で怠慢で愚かな荒みまくった心は、感性すらも圧迫して何も感じなくなった。ビビッドに見えていた景色もいつからか、何も目に入らなくなった。そんな生活に対して後ろめたさを感じながら、流されるままに息を吸い、そして吐き、時間だけが流れていった。後手後手で出す手札ばかりだから、やり切れたことなんて本当に一つもなくて、自信満々で人に誇れる成果だってひとつもない。全てにおいて中途半端で、やりたいことなんて持たずに与えられた仕事だけをして生きていきたいと何度も思った。どうしてこんなにも”当たり前”のことができないのかと悩んだりもした。時には”当たり前”以外の秀でている部分だけに着目して、凸凹の平均を取ることによって自分の不出来さを、堕落を、見窄らしさを正当化しようとした。

伸び切った爪も、荒れた頬も、帰る場所の定められていない本たちも、消えることのないLINEの通知も。全てが僕自信を明確に表している。相手になりきってしまう自分が嫌で、そこから逃げるために人から離れて、反動のように人を求めて苦しくなって、自分がだれなのか大切な人が誰なのか、家族やパートナーの存在する意味すら薄れていって、急にプツンと全てが切れるような感覚が生じて、持っていた関係性や資産を全て切り捨てたりした。切り捨てると一瞬は快楽を得られた。得られた快楽は、また次の刺激につながる伏線になって、一度踏み外してしまったら相当な力があっても戻ることはできなかった。持ち物を捨てることによって生まれた空間に、今までの自分を全て否定するような全く新しい挑戦を入れて、欠落した部分の穴埋めを行なった。穴埋めをしてる間に見つかる、新たな自分の存在にワクワクして、新天地で人とつながり、多くを学び、そして飽きた。
そうしてまた今、全て投げ捨てようとしている。

そんな自分が嫌だ。

生活がなかった。
生きた心地がしなかった。
何をしても、何を食べても、笑っていても、誰かと居ても、
心安らぐ瞬間なんてなく。
常に頭の中はすべきことや、したいことで動き回っていた。
どうにかして脳内の自分を黙らせようと即効性のあるモノに頼ろうとした。
でも、それだけは過去の自分との約束によって止められた。
こういう自制心だけは持っていると気づいた時に、この最終防衛ラインは自分が作り上げたものではなくて、今まで大切にしてくれた人たちが作り上げたものであることに気づいた。

求められるがままに、時間を渡した。身体を渡した。心も渡した。未来も渡した。
僕の思う未来はいつの間にか誰かの未来に、僕の時間は誰かの時間に、身体に、心になっていった。
鏡を見ない生活が増えたせいで、自分の見た目がどうなったかなんて考えたこともなかった。
随分と久しぶりにあった知人・友人に指摘されるまでは。

できないことをたくさん知った。
この短い人生の中で二人分、三人分の人生を歩もうとするのは無茶なことだと十二分に理解した。
僕は一人の人間であり、知らない誰かを救うことなんてできない。
まして社会に貢献することなんてできない。
僕の脳みそは、今まで見てきたもの、学んだもの、聞いたこと、その全ては僕だけのものだ。
僕にとって楽しいことってなんだろう。
そう考えるのすら久しぶりだった。
そういえば音楽が好きなんだ、小説が、映画が、海が、ファッションが、お酒が、海外が。
よく好きなものを忘れる。
常にアップデートされるのは良いことかもしれないが、僕はもう少し安定した自分を保ちたい。

ごくごくたまに、SNSを見る。
キラキラした人たちを見て、少しやる気が出る。
こんなふうになりたいななんて、お風呂に入りながら思っていた。
こういった感情が湧いたことすらも久しぶりで、どれだけ摩耗していたか思い知らされる。
憧れも夢も希望もない人生を生きて、子どもに何を教えることができるだろう。
なりたい姿もないくせに、人に何を語れるのだろう。

人生は短い。
完璧な状態を準備するためにはあまりにも短い。
だからこそ、やっぱり着の身着のまま生きていきたい。
知り合いに、積極的に失敗する女性がいる。
この人はかっこいいな、強いなと心の底から思う。
彼女の生き様や姿勢はとても瑞々しい。

生きることを学び直したいと思う。
彼女のような素敵な人間も近くにいることだし。
生活を死守したい。
誰に催促されようが、怒られようが、何かを待たせていようが、関係なく(立て直し期間は。)
生活を後ろめたさなく、続けること。

そうやって僕もみずみずしく、美しくありたい。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

BOOKOFFで110円の文庫本を買います。残りは、他のクリエイターさんを支えたいです