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「凡凡」first season 2018

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38歳、独身、独居、猫二匹。
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記事一覧

「凡凡」46. いつもなんどでも

 39歳、独身、独居、猫二匹。  今朝、体重が300グラム減っていた。好きなものを躊躇することなく食べ、気が済むまで飲酒、そんなことをしていると体重が2キロ増える、毎朝測定した体重をアプリに入力し2キロ増量したら節制して2キロ減量する、これを繰り返す。何の為にそうしているのか本人がよくわかっていない、良く見られたいわけじゃない、おそらく中年性の肥満を異常に恐れている。自分の気がつかないうちに肥満をするのが怖い、だから太るにせよ確認しておきたい、しかし増えたら増えたでびびって焦

「凡凡」45.饅頭没収

 39歳、独身、独居、猫二匹。  最近、自分にとって残念な事や都合の悪い事が起こると「はい!饅頭没収!」と頭の中に響き渡るシステムが流行している。そうすると残念な事や都合の悪い事が、饅頭を没収された無念に変換される。私は主にケーキを焼く仕事をしているが、饅頭が好き、清芳亭の湯の花饅頭が好き、あの繊細な薄皮、ふんわりした香り、透けるような餡。誰かがどこかに行きそうな気配を察すると、必ずこう念じる「行け、行け、伊香保へ行け」「土産に湯の花饅頭買ってこい、わかったか?わかってくれ!

「凡凡」44. ユーメイク実ー!

 39歳、独身、独居、猫二匹。  「静電気除去シートに触れてから給油してください」というアナウンスをガソリンスタンドで聞く度に、私はどのくらいあの丸い静電気除去シートに触ったらいいのかいつも迷い、ちょいちょいちょいと三回くらい触ってから永遠の別れのように静電気除去シートに長いこと触れ、私自らがあの丸い静電気除去シートからエネルギーを充電しているような構図になり、そのまま「エロイムエッサイム、我は求め訴えたり…」と悪魔の呪詛をつぶやきそうになる、そして我にかえって給油を始める。

「凡凡」43. 祭りの準備

 39歳、独身、独居、猫二匹。  朝マックのソーセージマフィンが好きすぎて、一日おきに発作がおきる。しかし朝マックには時間制限があり、食べたい時にもれなく食べられるわけじゃない、その付加価値が私をソーセージマフィンへの執着を強めるのかもしれない。食べたい時に食べられるとは限らない、もし食べたくても食べられないことはざらにあり、我慢をしなければいけない、この我慢の時間が更にソーセージマフィンへの愛を加速させる、この不倫のようなシステム。会いたい時に会えるわけじゃない、限られた時

「凡凡」42. 戦メリと最強ロンリー

 39歳、独身、独居、猫二匹。  朝、職場の店の外に水を撒いて掃除をすると30分もしないうちに凍る、そこをツルツル滑りながら「アナと雪の女王」の歌の旋律で「襟裳~!襟裳~!」と唄いながらツルツルやっていたら、十も若い小僧に死んだような目で「バカなんすか」と言われた。「バカなんす」と言い返す「デカダンス」と同じ発音だった。  先月はハロウィンで今月はクリスマス、巷はイベントに飢えている。いたるメディアがクリスマスを訴えて、ファミリーがフライドチキンを齧り、ティファニーがこれみよ

「凡凡」41. バカを全力で叫ぶ

 39歳、独身、独居、猫二匹。  先週の土曜日に休みをとって以降、連勤が続いている、今週の水曜まで休みがない、11連勤。そのうちの数日は12時間拘束、休憩が30分30分の二回という残虐性、一日11時間立って作業して、30分の休憩で二本の煙草とコーヒーをすすって、ご飯を食べる時間はない。飲食店の師走はえげつない、心・技・体ともに疲弊し、帰宅後はリビングの床に転がって大袈裟に痙攣をしている。M-1優勝直後の忙しさに比べたら、とか朝の連続テレビ小説の撮影中だと思えばこんなことはたい

「凡凡」40. ボーイミーツガールあれこれ

 39歳、独身、独居、猫二匹。  4軍の彼氏は4軍、5軍の彼女は5軍という不思議。「あなたは何軍です」と国から正式な通達が来るわけでもないのに、1軍は1軍とかたまる、ハンサムは美女とつがい、女子アナは一流スポーツ選手とつがう自然の摂理。不可視でありながらも明確なカースト、各々が各々のヒエラルキーを無言で把握しているのか思うと、怖くてしょうがない。私も自分が4軍、5軍くらいにいるのは、なんとなく把握している。なのに私は未だに私と同じ5軍の相手を見つけられない、正直5軍の私の相手

「凡凡」39. 切腹ピストルズ

 39歳、独身、独居、猫二匹。  彼女や彼氏や妻や夫の伴侶類がいる人は、まるで伴侶のことを自分のことのように話すのな。話す当人にその自覚があるのかないのか私には測り知れない、自分語りの一環に伴侶のことを自分の一部のように話すのな、そんで伴侶の価値は自分の価値のような顔をしてるのな、「私の価値を他人が保証しています」みたいな顔をしている。そしてもれなく、こういう時間というのはとても退屈なもので、それは私が何かしらをこじらせているからなのかもしれないけれど、聞き手が退屈しているの

「凡凡」38. あほんだらの神谷さん

 39歳、独身、独居、猫二匹。  夜寝る前に少しだけ思う、明日の朝、目が覚めたら私が私じゃなくなっていたらいいのに。明日、目が覚めたら仲代達矢とか向井秀徳とかになっていたら特に嬉しい、明日の朝、突如仲代達矢になっていたら、私は即羽織を買いに走るだろう。向井秀徳になっていたら、とりあえずアコギを持って無駄に外をかっぽして「マツリスタジオからやってまいりました!」「マツリスタジオからやってまいりました!」とチリ紙交換のように徘徊するだろう。  眠る前に必ず本を読む、本を読んでいる

「凡凡」37. 著者近影

 39歳、独身、独居、猫二匹。  最近の本に著者近影が少ない。古い文庫本にはかなりの頻度で著者近影が表紙の裏側についているのだけど、最近の本には著者近影がついていたらラッキー!と思う。勿論、顔が小説を書くわけじゃないから、著者近影が余計な情報になり得るということも考えられるけど、私は著者近影が大好き。小説家が島田雅彦みたいにハンサムなことを期待しているわけじゃない、綿矢りさちゃんみたいに美人であって欲しいわけでもない。この人が小説を書きました、この人の頭の中を文章化しました、

「凡凡」36.顔面物語(新井浩文論)

 39歳、独身、独居、猫二匹。  新井浩文の顔だったら、ずーと見ていられるという確信。単純に美しいとか、わかりやすくかっこいいとか、更にはかわいいなんていうチープなものではない。新井浩文の顔を見ていると、イケメン俳優と呼ばれる整った顔だちが恥ずかしくすら思えてくる。新井浩文の顔は人の想像力を掻き立てる、顔面に物語のある顔をしている、造形を超越した物語のある「いい顔」のことを私は「顔面物語」と称している。新井浩文の顔を見ているだけで様々な物語や光景が私の中に浮かんでくる。たとえ

「凡凡」35.赤色エレジー

 39歳、独身、独居、猫二匹。  帰宅して駐車場に車を停めて、ポストをチェックしていると集団ポストの床に血痕。血痕はそれなりの量で、エントランスのタイルの上にポトポト一定の間隔で落ちていた、階段を上がると階段にも血痕、決して少なくはない量の血痕、それなりの量のしっかりとした血痕、得体の知れない血液というものがこんなに怖いものだと思わなかった。灰色のコンクリートに赤黒い血が落ちているだけで緊張感が増す、血は乾いているようにも濡れているようにも見えた、そもそも血がどれくらいの時間

「凡凡」34. 私が私に飽きている

 39歳、独身、独居、猫二匹。  もうずっと髪を切りたい。ポリシー持った長髪なんかではない、カルト教団信者のように髪が伸び果てている、または平安時代。このように成り果ててしまった原因は私がただのズンベラボンだからで、美容室に行くのが嫌なだけのズンベラボンの一言に尽きる。ショートヘアの人の耳に嫌な感じにかぶさった毛や、襟足がもあもあした感じを見る度に「あいつはそろそろ散髪をしなければならない…がんばれよ美容室!」と他人の散髪でさえ思い煩う。しかし、髪を切りたい、自らの腰まで伸び

「凡凡」33.いかにして仲代

 39歳、独身、独居、猫二匹。  仲代達矢になりたい。仲代達矢はいつも不思議な目をしている、その佇まいは何も語ることなく怒り悲しみ、そして虚無をも同時に見せる。少し狂気で、不気味で、絶大に男前で超絶かっこいい、世界中でかっこいいと呼ばれているものの全てが仲代達矢の前では霞んでしまう。どの時代の仲代達矢もかっこいい「影武者」も「切腹」も「乱」も「華麗なる一族」も「犬神家の一族」も「女王蜂」「座頭市 THE LAST」もかっこいい、年も形も性別も違うけれど、私は仲代達矢になれるも