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初めて絵を買った話。

人生で初めて絵を買った。

絵を買う、というとまず思い浮かべるのはJRの秋葉原駅だ。
電気街口を出たところのストリートに面した小さな画廊の前に綺麗な女性が立っていて道ゆく人に声をかけて、画廊に招き入れ、価値のあるかもわからない絵を売っていく。

最近、美術館に行くようになって思うのは、絵の価値は人それぞれで売り手と買い手の価値が合えばそれで良いということだ。
美人に手招きされて、秋葉原の画廊で絵を買った人もきっとトレカのイラストと眺めて養った審美眼を信じて絵を購入したに違いない。
まぁ、でもあの画廊は怪しかった。

今回はそういう話をしたいんじゃない。

本当はもう少し先にお会いするはずだった、と言ってもそれは2日後のころ。しかし、実際に御本人を目の前にすると隠しきれないオタク部分がうるさいくらい顔を出してしまう。

7月8日。
池袋にあるブックギャラリー・ポポタムで台湾のイラストレーター/漫画家の高 妍(ガオ・イェン)さんにお会いした。

ポポタムでは高 妍さんの個展を開いていて、8日が初日ということもあって来ていたのだろう。僕が着いた時にはすでに数人の輪ができていて、あれこれ話をしていた。輪の中心に『緑の歌』を描いた作者その人がいることはすぐにわかった。(直前にSNSでお顔を見たことがあったので)

さすがにその輪に飛び込むことができなくて、ギャラリースペースの壁に掛けてある絵を眺めていた。

聞こえてくるのだ、後ろから。僕が今、目の前で見ている絵を描いている人の声が。

展覧会では原画も販売しているということを知っていたので、もし気に入った絵があれば、ぜひ購入したいと思っていた。

『緑の歌』作者・高 妍さんの原画(色鉛筆、水彩)

ギャラリースペースの壁に書けられている1枚の目にとても惹きつけられた。色鉛筆と水彩で書かれた柔らかいタッチの絵がフレームに収められていた。
『緑の歌』の主人公である緑が、悩ましい表情で林檎を持っている。その視線は林檎に向いていなくて、どこか遠くを見ている。その絵に描かれた少女は「恋をしている」のだと思った。この絵がいつも近くにあったら素敵だ。なにか生活が変わるわけでないけれども、アートというのはそういう物だと理解している。
これだ、と決心をして僕はその絵を購入することを決めた。

いくつかの絵は既に売約済みだった。しかし、それを抜きにしても今回の絵を選んだと思う。

そのあと、作者の高 妍さんと話す機会があった。
僕は最近読んだ『緑の歌』が好きなこと。それからYMOやはっぴいえんどが好きなことも話した。

例え近くても住む国は違くても、同じ音楽が好きで作品を知るきっかけになった。そして、その人と話をすることができたのは本当に幸運なことだと思う。

「確かに。でも、まずは明後日、青山のブックセンターでのトークショーに行きます」と言って僕はギャラリーを後にした。

購入した絵は個展の会期が終了した8月に受け取る予定だった。しかし、取材等の関係で会期が2週間くらい延長されることになった。

お盆休みも終わった8月の中旬に引き取ってきて我が家にやってきたというわけです。

なかなか絵を、特に直筆の原画を買う機会は少ないと思う。
複製画なら美術館の特別展に行くとお手頃な価格とサイズでおいていることがあるのでこれを機に気に入った物があれば購入をしていきたい。

好きな物が生活する空間の景色に加わる。とても幸せなことだと思いました。

玄関の一角

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