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『緑の歌』刊行記念トークショーに行ってきた話。

7/10に青山ブックセンターで、台湾出身のイラストレーターであり漫画家の高 妍(ガオ・イェン)さんの『緑の歌-収集群風-』刊行記念トークショーへと参加してきた。

上のnoteで『緑の歌』がどういう話であるかは触れているので参考にしていただきたいです。今回は多少物語の内容についても書くので、ネタバレになってしまうかもしれません。

緑の歌・高 妍

青山ブックセンターのイベントスペースで行われた。ステージの上に2つの机が設けられ、片方にはもちろん主役の高 妍さんともう片方には森泉岳土さんが座った。

制作当時の思い出や作品に込めた思いなど、特に形式的な会話ではなく自由に話しながら進められた。森泉さんも出席した僕らと同じように『緑の歌』に魅せられた一人であり、漫画家ならではの視点で高 妍さんから話を引き出してくれた。

森泉さんが高 妍さん聞いていたことをいくつか紹介する。(覚えていることだけ。一言一句、両氏がそう言っていた訳では無い。僕なりの解釈も含みます)

・主人公の緑(ミドリ)がはっぴいえんどの『風をあつめて』に出会うシーンが印象的だった。特に風を感じているシーンで、緑は海岸の岩の上に座っている。普通の漫画家なら立って風を感じるシーンを描くだろう。しかし、座っていることが、緑という女の子の性格をよく表してる。後のシーンでも緑はよく座っている。

・上巻の先頭のコマから背景が濃密に描かれている。初めて、背景が全く描かれていないコマが登場するが、それが緑が走っているシーンでだった。なにも描かれていないのではなく“風”がうまく表現されている。

・漫画を書いている、というより映画を撮っているみたいだ。映画も見ることが好きな高 妍さんらしいコマ割りと演出がある。

とにかく森泉さんはベタ褒めだった。「この演出を全部計算してやっているとしたら若いのに素晴らしい。もし無意識にやっているとしたら、それは天才だ」と。そう言われた高 妍さんは手をパタパタと振りながら偶然です、と謙遜していたが、その姿がまさに主人公の緑そのものであった。(会場でもそういう話になっていた)

高 妍さんは台湾出身の台湾育ちで、大学時代は沖縄県の大学に留学をしていたことがあるそうだ。小さな頃から日本のアニメやマンガに触れて育ったという。台湾に住む人の視点で話してくれたことがとてもわかりやすかった。

『緑の歌』の前進となる32ページの物語をインディーズ形式で出版したことがあり、それをもう一度作り直す(リメイク)するなら、今度は商業誌として出すことを望んでいたそうだ。それもまずは日本で出版をしてから、台湾でも出版したい、と。32ページが上下巻に分かれた500ページにも及ぶ壮大な物語に生まれ変わるのだから大変な執筆だった、苦労のが多かったと作者本人も言っていた。作品に対する強い想いと信念を感じた。

『緑の歌』は大体が高 妍さんの経験に9割くらい基づくことだ、と語っていた。「経験したことはいつか忘れてしまうから、その時の気持ちだったりを残して置きたくて書いた」と言っていた。
尊敬する、僕が自分の経験したこと、特に恋愛ごとなどを残しておきたいから小説なりで残そうと思ったら、間違いなく良いように脚色するだろう。しかし、それでは意味がないのだ淡い初恋も忘れたい失恋も正確に残して置くことが大事だと感じた。
今回の作品が全く同じではないにしても、主人公の緑の感情の揺れ動きや仕草がとても高 妍さんを反映していると思えた。

そういえば、気がついた事がある。思い込み、というか物語にのめり込み過ぎてしまったというか、まあ、結果的には緑はほとんど高 妍さんはイコールなので何も問題はなかったのだが。
実はトークショーの前の2日前に僕は高 妍さんに会っていて、少し話もしている。はっぴいえんどやYMOも好きなのだろう、と思って細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏について話をしてしまった。違和感が全くなかった。
まるで緑と話しているようだとも思った。実際、主人公の緑と高 妍さんは髪型もそっくりでまるで物語の中から出てきたようでもあった。
トークショーでも、細野さんやはっぴいエンドについて語っている時は、漫画について話す時と同じように笑顔で話すので、本当に好きなのだろうということが伝わってきた。

『緑の歌』はハッピーエンドを迎えた。(と思っている)
壮大なラブレターはキチンと相手に届き、実を結んだはずである。主人公の緑は限りなく高 妍さんを限りなく投影しているのだと理解しながら高 妍さんと話をしているとなぜか失恋をしてしまった気分になる。もちろん本当に恋をしているわけではないけども、あまりにも緑と高 妍さんが重なって見える。まるで物語の続きを経験しているようだった。

作品を読んだ1人の読者としてこの先もそのハッピーエンドの物語が続いていることを望んでしまう。

池袋のブックギャラリー・ポポタムで開催されている高 妍さんの古典で原画を1枚購入したのだがそれはまた別のnoteで。まだ会期中で、僕が買わせて頂いた絵もそこに飾られていて、実際に受け取るのは個展の会期が終わった後なので。

トークショウのあとにサイン会があって、そのときに少し話す事ができた。台湾の海は決して透明ではない、学生時代に留学していた透明で青い沖縄の海よりも生まれ育った台湾の不透明な海が好きだという、その話に共感をしたことを伝えた。なぜなら僕が生まれた町の海も不透明でお世辞にも綺麗とは言えないけども、不思議と嫌いではない。そこは子供時代の思い出だったり、ただ海は青いから美しい、ということ以外の理由が詰まっているから。それに共感し、伝える事ができただけでも満足である。

高 妍氏のサイン

それから、僕が「今年は高橋幸宏さんのライブがありますよ」って話を覚えて頂いていたみたいで嬉しかった。(まあ、2日前のことなので)森泉さんも高橋幸宏については、学生時代に好きで聞いていて、「失恋の歌が素晴らしすぎて、初恋をするよりも前に失恋をしたくなってしまった」と話していた。

ふたりの素晴らしい漫画家の対談はとても充実していて、濃密な時間でした。特に高 妍さんはこれからも素晴らしい作品を生み出して行くことは間違いないし、自分の中に変わらない強い思いを持っていることがわかり、僕はそういう人が作る物語がとても好きなので、これからも応援し続けたいと思った。

前半にも書いたが、森泉さんの『緑の歌』に対する指摘が的確過ぎて、これが漫画家かって思いました。森泉さんの作品も読んでみようかな。

ここ数日で台湾の文化に触れて、もっと知ってみたいと思うようになった。それは今回のような漫画だけではなく、映画だったり音楽だったり。音楽についてはすでにいくつか聞いていて、注目しているバンドもある。
『緑の歌』は台湾という場所を深く知るキッカケになったと同時に僕の世界観を広げてくれた。
また高 妍さんに会えるといいなぁ。もっと好きな音楽の話をしてみたいです。

この作品によって、僕はYMOやはっぴいえんどについてさらに調べるきっかけになった。そして、『緑の歌』を読んだ若い世代がYMOやはっぴいえんどなど、日本の音楽黎明期を支えてきた存在を知るきっかけになってほしい。彼らに影響を受けたミュージシャンはたくさんいる。僕も知っていきたいと思った。

そして、『緑の歌-収集群風-』は僕の中に大きな影響を与えた作品になったことは間違いない。



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