見出し画像

『緑の歌』という漫画に出逢った話。

はっぴいえんどの『風をあつめて』をはじめて聞いたのはいつだろうか。はっきりと思い出せないということはもうすっかりと身体に馴染んでしまっているのだと思う。

よく耳にするのはTOKYO MXで放送している。太田和彦氏が全国の酒場を訪ねる番組だ。テーマソングとして使われていて、雰囲気も合っている。僕はこの曲目当てに毎週月曜日は20時までには家にいるようにしている。3回も『風をあつめて』が流れる。

細野晴臣、松本隆、大滝詠一、鈴木茂の4人によって結成されたはっぴいえんどは70年代前半に日本語ロックの基礎を築いたと言っても過言ではない。もし、はっぴいえんどがなかったら、4人のうち誰か1人でもいなかったら、今の日本にはロックというものは無かったと言い切っても良い。

ラジオから流れてくるのは歌謡曲と演歌ばかり、そんな退屈な世界だったかもしれない。(今の日本のロックが全て良いというわけではない)

特に細野晴臣と松本隆の貢献は大きなもので、『風をあつめて』が収録されたセカンドアルバム『風街ろまん』は僕も大好きな名盤だ。
こう例えることが適切かは分からないが、細野氏と松本氏は日本のポール・マッカートニーとジョン・レノンだと思う。

最近、その『風をあつめて』を題材にした物語を読んだ。
ものすごく好きな曲なので、まずは冒頭だけでも、と読まずにはいられなかった。

台湾の漫画家・高妍(Gao Yan/ガオ イェン)さんの『緑の歌』と言う作品だ。僕自身はKindleで購入して上下巻をすでに読み終えてしまったので、とてもスッキリした気持ちでこのnoteを書いています。

台湾の海岸でランダムに流れてくるプレイリストからはっぴいえんどの『風をあつめて』をたまたま聞いたことで、少女の人生がガラッと変わる。
とても今風だと思った。昔みたいに自分でCDを買うなり借りるなりしていれば、まず知らない曲はそうそうないだろう。よほど嫌いなアルバムとかならあるかもしれないけど。まあ、それでも一度は通して聞いてみるはずだ。
サブスク社会ならではの導入だ。

それから少女は同じようにはっぴいえんどの『風街ろまん』が好きな男性と出会い、ふとしたときに細野晴臣の『恋は桃色』聞いて、自分が恋をしているんだと気がつく。あれこの気持って恋じゃん、と。細野晴臣が恋心を、そっと、教えてくれるのだ。

おまえの中で雨が降れば
僕は傘を閉じて 濡れていけるかな
恋は桃色・細野晴臣

説明するのも野暮だとは思うが、傘に入れてあげるのではなく、自分の傘を閉じて一緒に濡れたほうが良いと思える、隣にいる人はそういう人だろうか、と自分自身に問うているようだ。細野氏の温かみを感じる。僕は大事な人が雨に濡れていたら傘に入れてあげたいと思うから、余計に細野さんなりの優しさに惹かれたのだ。
押し付けがましくないところも好きだ。僕はそういう曲が苦手だから。

愛する人と同じ趣味を持つことが必ずしも幸せではないと思う。人それぞれだし。しかし、好きな物を共有できると言うのはとても素晴らしいことだ。この作品においては、互いの興味に共感して、それが“細野晴臣”だということが愛おしすぎる。細野晴臣が恋の台風の中心にいる、恋のキューピッドというのが僕はたまらなく好きだった。

はっぴいえんどやYMOばかり聞いてしまう僕は恥ずかしながら、細野晴臣の『恋は桃色』はしっかりと聞いたことがなかった。改めて聞いてみると、名曲である。僕はすっかり気に入ってしまい何度も繰り返し聞いている。
優しいメロディーに細野氏らしいノスタルジックな歌詞も魅力的だ。

台湾という場所の湿度が高く蒸し暑い雰囲気がページ越しに伝わってきた。
作画は細かいところまで書き込まれていて、本当に大切にしながら書き上げられているんだな、ということがわかる。

僕は『風をあつめて』を知った上で『緑の歌』を読んだ。もちろん、心打たれたし、この世に飽和状態の恋愛ストーリーとは一線を画していると思った。

ここからが一番大事な話です。
もし、『風をあつめて』を聞いたことがない”あなた”が初めて『緑の歌』を読んだらどう感じるだろうか。僕にはもうそれを体験することは出来ないから、ぜひ教えて欲しいと思う。お願いします。
“あなた”は誰のこと、そう今これを読んでいる不特定多数のあなたのことです。

『風をあつめて』に触れずにこの作品に出会えたのだとしたら、僕はとても羨ましい。それはこの作品の主人公と同じなのだから。彼女と同じ景色を見てその時初めて聴こえてきた音楽が、はっぴいえんどの『風をあつめて』なのだとしたらとても素敵なことだと思う。

紙の上に書かれた文字からメロディーは聞こえないし、淡々と目で歌詞を追うだけだ。もしかすると美しすぎるがゆえにそれが歌詞とは気がつかないかもしれない。そうして、知った『風をあつめて』の音は、細野晴臣の声は“あなた”の耳にはどう聞こえるのだろうか。とても興味があります。

『風街ろまん』は本当に名盤で僕も最近レコードを買ってしまいました。
風をあつめてから暗闇坂むささび変化のイントロにつながるところが好き。

くるりの春風という楽曲は、風をあつめてが影響を受けているという話を聞いたことがあるが実際のところどうなのだろうか。イントロはだいぶ影響が濃く出ていると思う。こちらも素晴らしいので興味があればぜひ。

風街ろまん

はっぴいえんどにばかりスポットライトを当ててしまったが、『緑の歌』は村上春樹の『ノルウェイの森』にも着想を得ているようだ。しかし、僕はまだ読んだことがないので、機会があれば読んでみたい。きっともう一歩この作品が好きになれる気がする。

高妍氏のなかでは『風をあつめて』と『ノルウェイの森』それから作中に出てくるいくつかの作品は、彼女を形づくる要素となっていてることがわかる。

風をあつめて 風をあつめて
風をあつめて 蒼空を翔けたいんです 
蒼空を
はっぴいえんど・風をあつめて

作中に出てきた歌詞を辿った体験をよく考えてみればこの本でしていた。ゆらゆら帝国の『バンドをやってる友達』は歌詞を先に知って、後から曲を聞いてみた。
ベースの音が気持ちよくて、のんびりしているようで心の揺れ動く様が伝わってくる。

恋人の歌 バンドがやってた
僕はその歌 すごくいいと思った
ゆらゆら帝国・バンドをやってる友達

ゆらゆら帝国他にも聞いてみようかなぁ。
こうやって新しい音楽を知っていくのである。

そういえば、高妍さんが7月に青山ブックセンターでトークショーとサイン会を開くそうである。迷ってるけど、行かないで後悔するなら行ってみようかなあ。(もし行ったらこのnoteに続けて書きます。

7/5 追記
10日のトークショーは無事に申し込めました。こういう形式のイベントって慣れてないからドキドキするなあ。
池袋で同じく高妍さんの個展があるみたいなので、金曜日の仕事終わりにでも行ってみようと思います。それはまた別のノートにまとめます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?