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ポジティブ思考

 突き詰めて考えると結局どの道を選んでも最高に幸福で、最高に不幸だという話をした。

この考えに至ってから気持ちは楽になった。無理に幸福を求めて頑張らなくていいし、選択の自由さえあれば不幸は限定的である。暮れない昼明けない夜もない。この確信が精神に安定をもたらす。

ただ、現実にすべての選択肢とその未来を考え尽くすことは難しい。ひとつの選択によって得たもの失ったものを数えている間にも、時間は容赦なく流れて次の選択を迫ってくる。数え切れれば差し引きゼロになるのはわかっている。だが、計算が追いつかない。

戦略が必要だ。思考時間は限られている。馬鹿正直にすべての得失を計上するのではなく、ある特定の状況でのみ思考を働かせるようにする。特定の状況とは不幸を感じているときである。

美味しいものを食べて幸せなときは何も考えなくていい。健康診断の数値とか、給料日までのお財布事情とか。食べる前ならよく検討するべきだが食べている間はとりあえず忘れよう。

美味しくないものを食べてあまり幸せでないときは全力で良かった探しを行う。付け合わせの名前も知らない葉っぱの魅力に気付いたとか、同席した誰かと何年か後に「あれはマズかったね」と笑い合える日が来るかもしれないとかを考える。

プラスはそのまま享受して、マイナスはゼロになるまで考え尽くす。負ける気がしない。すべてを見渡す能力がない人間だからこそ取れる戦略である。