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ゼロ

があればがある。

これもまた職業病の一種なのだろう。表を見ると反射的に同じ広さの論理空間を頭の中に用意する。裏について考えるためだ。たぶん、数学や哲学に分類される話だと思うが、高卒なので実際のところはわからない。わからなくてもプログラマーとしての仕事に支障はなかったし。

何かを得れば何かを失う。満足したら欲求が、目標を達成したらモチベーションが、大金を手に入れたら勤労意欲が失われる。要らないものを失って欲しいものが手に入るならそれで良いじゃないかと考える。

たとえば大金を手にすることで未来は大きく変わる。高級焼肉を毎日食べたり、マンションの最上階ぶちぬきワンフロアから下界を見下ろしたりできる。あえて庶民的な暮らしを選ぶこともできるが、たまに良い肉を買ってきたときのささやかな贅沢気分はもう二度と味わえない。

未来にはたくさんの可能性があり、そのすべてが幸福ばかりでないことを僕は経験的に知っている。逆にあの時、不要だと判断して打ち捨てた選択肢の先に、今となっては得難い魅力的な未来もあったはずだ。

表と裏に差はない。目先の違いはあっても深く考えれば考えるほどその差はゼロに近づいていく。選んだ道はつねに最高の選択だったし、最低の選択だった。選ばなかった方の道も同様だ。だってどちらもゼロなんだから。

大抵のことはどっちでもいいと思っている。痛いのと苦しいのだけ回避できればそれでいい。