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吉祥寺 源氏物語を読む会 #4「帚木」現代語訳(左馬頭の語る妻の条件、指喰い女の思い出)+講座動画

本記事は2020年9月27日(日)に開催した古典講座「吉祥寺 源氏物語を読む会」にて発表した源氏物語 現代語訳のページです。「帚木」巻の中盤、いわゆる「雨夜の品定め」において、左馬頭が妻の条件を語ったり、指喰い女の思い出を語ったりする場面の現代語訳です。

当日の講座映像・配付資料にもリンクしています。(当ページ最下部)

これ以前の範囲の現代語訳、過去の講座映像、今後の講座の参加権は、こちらよりご購入いただけます(各回単体(500円)での販売と、54帖ぶん全てを含んだお得なパック形式の販売の2種類の販売方法があります)。

以下の節番号は、小学館『新編 日本古典文学全集』の小見出しと対応しております。

ここまでのあらすじ

 若き桐壺帝(きりつぼてい)は、地位のある弘徽殿女御(こきでんのにょうご)らを捨て置いて、桐壺更衣(きりつぼのこうい)ばかりを愛する。恨みを買った桐壺更衣は嫌がらせを受けるなどして心身ともに衰弱し、とうとう亡くなってしまう。遺された若宮(のちの光源氏)はそのとき数え三歳だった。

 若宮は非常にかわいらしく成長し、多方面の才を発揮するが、父・桐壺帝は、後ろ盾に乏しい彼の将来を案じ、皇族から臣下の身分に下げることに決める。

 桐壺更衣が忘れられない桐壺帝は、先帝の四女が更衣に似ていると聞き、興味を持つ。入内して「藤壺(ふじつぼ)」と呼ばれるようになった彼女に対し、光源氏は淡い恋心を抱くのだった。

 やがて光源氏は十二歳になり、元服を迎える。そのころ左大臣が光源氏に関心を持ち、娘・葵上(あおいのうえ)と結婚させたがっていたため、桐壺帝は、それを認めるとともに、元服の儀での後見役を依頼する。

 元服し、葵上と結婚した後も、光源氏は藤壺を慕い続けた。帝から度々呼ばれることもあり、宮中に長く滞在するものの、もはや、藤壺との対面は叶わないのだった。

 葵上のご気性や二人の年齢差もあり、夫婦の仲はなかなか深まらないが、左大臣は、婿殿の光源氏を大切に扱う。こうした構図は、左大臣の息子である蔵人少将(いわゆる「頭中将(とうのちゅうじょう)」)のところと同じである。頭中将は舅の右大臣にかしずかれているものの、妻の四の君とはそこまで親しくなっていない。今は、光源氏と頭中将、同年代の男どうし連れ立っている方が楽しいようである。

 ある雨の夜、宮中で過ごす光源氏のもとに、頭中将が訪れて女性論を語り始める。受領(ずりょう)の娘など、中流の女性こそ一人ひとりの個性が見えておもしろいという。そこに、色男の左馬頭と藤式部丞も加わり、恋愛談議に花が咲くのだった。


帚木5の1 左馬頭のぼやき、結婚相手を選ぶのは難しい

 さまざまな人の身の上を語りつつ、左馬頭は続けます。

「軽く付き合うぐらいなら、どんな女でも別にいいんだけどね。いざ自分の妻として頼もしい人を選ぼうということになると、たくさん女性がいる中でも、なかなか選ぶことができそうにない。

男社会でも同じ話だろう。朝廷の重鎮となる人も、真に優れた人材を選び出すのは難しいものだろうよ。ただ、政治の場合、どれほど尊く立派なお方であっても、別に一人や二人で世の中を治めるわけではない。上の人は下の人に助けられ、下の人は上に従って、そうして皆で国家運営に広く対処していけるものだ。

家庭はそういうわけにもいかない。狭い家の中を一人で取りしきるのにふさわしい妻はどんな人がいいだろうか。考え始めると、欠けては困る条件がいろいろ出てくるよ。ある条件が満たされれば、別の条件が足りない。あちらを立てれば、こちらが立たず。まあ及第点だろう、と言える人さえ少ないのが困ったもの。

別に、俺だって、チャラチャラした下心から色んな女を見比べようとしているわけではないんだ。『この人一人』と相手を定めるために当たって、どうせなら、あれこれ注意しなくて済む、最初から自分の希望通りの女性がいないものか、と思ってね。そうやって探し始めると、なかなか数が絞り切れない、というだけ。

一度関係を結んだ女性に対し、多少の不満があったとしても、『自分はこの人と夫婦となる宿命だったのだ』と受け止め、夫婦関係を貫いている男は誠実だね。捨てられずに大切にされ続けている妻のほうも、『きっといい女なんだろうな』と思える。

それにしても、ねぇ。夫婦というものの例をいろいろ挙げてはみたけれど、なかなか期待通りにはいかないものだ。そんなに心惹かれる話もないね。俺ごときの相手探しでもこんな始末なのだから、良家のあなた方のように、この上ないお相手を探そうとする場合、いったいどんな女性なら満足が行くのだろうか。

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