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「赤子の手ほころぶがごと羊歯萌ゆる」ほか自作俳句18句(『松の花』2021年5月号掲載+α)

「松の花集」掲載句

春の月見をるに見られてをるやうな
赤子の手ほころぶがごと羊歯萌ゆる
天井に迫る盆梅二百歳
お鮨屋のレジに売らるる春蜜柑
苦虫やバレンタインの日の歯痛

こちら、第八席でした(嬉しい!)。

春の月見をるに見られてをるやうな→元々〈春の月見るに見らるる心地せり〉としていたのを直していただきました。添削後、状態であることが強調されるとともに、説明より実感の向きが強くなったと感じます。

お鮨屋のレジに売らるる春蜜柑→「すし銚子丸 三鷹店」が夫婦のお気に入りなのですが、このお店、スイカだのミカンだの、季節の食べ物がよくレジ横に売られているんです。寿司屋で果物が買える、この取り合わせがおもしろくて一句。

苦虫やバレンタインの日の歯痛→この年末年始、歯医者通いが続いておりました……。夏以降、仕事で帰りが遅くなってしまい、帰宅後、すぐに寝落ちしてしまう日が続いていたせいかと……詰め物に結構なお金もかかりまして、苦い思い出です。チョコレートを食べるどころではありません(苦笑)

上位になると、秀句に、主宰が鑑賞コメントを付けてくださいます。

〈赤子の手ほころぶがごと羊歯萌ゆる〉羊歯も春の到来とともに新しい芽を吹く。その芽が伸びてたちまちにほころぶ。その姿を赤子の手のほころぶがごととていねいに表現している。赤子の手に喩える表現まででは常識的であるが「ほころぶがごと」で、「赤子の手」と「羊歯萌ゆる」のイメージの循環する句になった。

「松の花集」に投句も未掲載の句

春暁や空の移ろふなか一人
春めきて黄と黄緑の列車かな
玉巻ける甘藍鳥にも甘かろう
玄関に屋久島よりの春蜜柑

春暁や空の移ろふなか一人→この時間に独り仕事のために出勤するときの寂しさと、美しい空を独占しているかのような気持ちとを詠みました。

玉巻ける甘藍鳥にも甘かろう→「玉巻く甘藍」は春キャベツのこと。家庭菜園に励む母が、全部鳥に食べられると愚痴をこぼしていたので作った句です(笑)

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同人作品「翠嶺集」掲載句

小悪党愛すべきなり春芝居
東山魁夷の森の春浅し
ゲラに赤入れに入れたり安吾の忌
受験子の意志の漲る「成」の撥ね
曇り日に友とばつたり花ミモザ

東山魁夷の森の春浅し→東山魁夷の「緑映」という作品を知り、その感激を形にしておきたくて詠んだものです。複製リトグラフでもなかなかのお値段……(苦笑)

ゲラに赤入れに入れたり安吾の忌→春先に出る本の校正をしていたときの句です。『桜の森の満開の下』『堕落論』などで知られる坂口安吾の「意慾的創作文章の形式と方法」という文章で、

何よりも大切なことは、小説全体の効果から考へて雨の降つたことを書く必要があつたか、なかつたか、といふことである。小説の文章は必要以外のことを書いてはならない。それは無用を通りこして小説を殺してしまふからである。そして、必要の事柄のみを選定するところに小説の文章の第一の鍵がある。

という記述があったことを思い出して作りました。

曇り日に友とばつたり花ミモザ→不勉強ながら、最近「ミモザ」の名を知り、ぜひ俳句に使ってみたいと思っておりました。

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同人作品「翠嶺集」に投句するも未掲載の句

佐保姫や今日は都庁に休みをり
仁左玉の姿すつきり寒牡丹
淡き恋思ひ出したる朝寝かな
行末に文字の詰まる子 春の宵

佐保姫:春を支配する女神。佐保山を神格化したもの。佐保山は平城京の東方にあり、東は五行思想で春に当たるところから。春の霞(かすみ)は佐保姫が織りなすものとされる。[季語] 春。(学研全訳古語辞典)

〈仁左玉の姿すつきり寒牡丹〉は〈小悪党愛すべきなり春芝居〉と並び、二月大歌舞伎を見に行った思い出です。

掲載句でも、未掲載句でも、気に入ったもの、気になったものなどがありましたら、ぜひコメントなどで教えてくださいませ^^

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