■シークレット・ウォー
■Secret War
■Writer:Brian Michael Bendis
■Artist:Gabriele Dell'Otto
■翻訳:田中敬邦 ■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0BCRJM1H5
「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第18号は、21世紀初頭のマーベル・コミックス社の筆頭ライター、ブライアン・マイケル・ベンディスが2004-2005年にかけて展開した全5話のリミテッド・シリーズ『シークレット・ウォー』を単行本化。
収録内容は『シークレット・ウォー』#1-5(4, 7, 10/2004, 5, 12/2005)。
念のため言っておくが、本作のタイトルは「シークレット・“ウォー”(単数形)」である。1984年のマーベルの大型クロスオーバー『マーベル・スーパーヒーローズ シークレット・ウォーズ』や、2015年のマーベルの大型クロスオーバー、『シークレット・ウォーズ』と混同しないよう、注意されたい(もちろん本作のタイトルは、1984年版『シークレット・ウォーズ』へのオマージュとして冠されているわけだが、内容的には特に関連性はない)。
こちらが1984年版『シークレット・ウォーズ』(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」91、100号)。超存在ビヨンダーによって、宇宙の彼方の惑星「バトルワールド」に送り込まれたスーパーヒーロー、スーパーヴィランたちが、熾烈な戦いを繰り広げる。その一方で、ドクター・ドゥームはビヨンダーの全能のパワーを狙う。
こちらは1985年に展開された大型クロスオーバー『シークレット・ウォーズII』。その名の通り、『マーベル・スーパーヒーローズ シークレット・ウォーズ』の直接の続編。前作で地球人類に興味を持ったビヨンダーが地球に来訪し、その全能のパワーで混乱を巻き起こす。
でもってこっちは、2015年版『シークレット・ウォーズ』。多元宇宙が衝突する「インカージョン現象」の果てに、全宇宙が消滅。しかし、超存在ビヨンダーズの全能のパワーを奪うことに成功したドクター・ドゥームは、己の意のままに宇宙を再生する……といった感じの話。
閑話休題。
本作『シークレット・ウォー』は、2000年の『アルティメット・スパイダーマン』(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第25号)、2001年の『デアデビル』のライターとして、高いファン人気を獲得していたベンディスが、『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第16号)に先駆けて手掛けたシリーズである。
本作のメインキャラクターである、ルーク・ケイジ、ウルヴァリン、キャプテン・アメリカ、スパイダーマンといったヒーローらは、『ディスアセンブルド』後にベンディスがライターを務める新雑誌『ニューアベンジャーズ』(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第33号)のメンバーとも重なっており、まあ、ベンディス期の『アベンジャーズ』のプレリュード的な作品と言える。
おそらくは、元々はマーベル的には『シークレット・ウォー』(4/2004~、隔月刊)を展開していきつつ、3号目が出たあたりで『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』(8/2004~)を開始。その後ベンディスによる『ニューアベンジャーズ』(1/2005~)創刊という、3ステップを経て、「『アベンジャーズ・ディスアセンブルド』で解散したアベンジャーズが、あの『シークレット・ウォー』に登場したメンバーをベースに再結成される!」的に、ベンディスの『ニューアベンジャーズ』誌を盛り上げようとしていたのだろう。
が、その嚆矢となるはずだった本作は、諸事情により刊行が遅れに遅れ(おそらくはアーティストのガブリエル・デルオットーが締め切りを盛大に破った)、『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』が開始された時点で『シークレット・ウォー』はまだ2号しか出ておらず、4号目が出るよりも先に『ニューアベンジャーズ』が創刊され、最終号が出たのは『ニューアベンジャーズ』誌が1周年を迎えた2005年末という有様となった。
ちなみに、『シークレット・ウォー』は、当時ベンディスが手掛けていたオンゴーイング・シリーズ『ザ・パルス』(デイリー・ビューグル新聞社のベン・ユーリックとキャット・ファレル、それに私立探偵ジェシカ・ジョーンズが主役の、「スーパーヒーロー社会で、様々な事件の裏を取材する新聞記者」の物語)の#6-9(1, 3, 5, 7/2005)とタイインしている。
こちらの単行本(『ザ・パルス』の2巻目に当たる)のタイトルは、ずばり『ザ・パルス:シークレット・ウォー』。ジェシカ・ジョーンズ(『シークレット・ウォー』の冒頭で重傷を負ったルーク・ケイジの恋人)とベン・ユーリックが、「シークレット・ウォー」の取材を行う過程で、さらなる陰謀に巻き込まれ、その上、意識不明のはずのルーク・ケイジが失踪する……といった話。
本来は、『シークレット・ウォー』の完結の直後ぐらいに、こっちのタイイン話が始まって、「本編の裏ではこんなことが……」的な展開をする予定だったのだろうが、まあ、本篇の刊行が遅れたのを受け、「本編のネタバラシをしないように気を遣った表現にしてるなぁ」的な個所が散見されるのはご愛敬。
んで、本作『シークレット・ウォー』で起きた事件を受けて、諜報組織シールドの長官ニック・フューリーは、いずこかへ潜伏する。それまでヒーロー側にある程度融通を聞かせ、アメリカ政府や国連などの圧力からある種の防波堤となっていたフューリー(その一方で、本作で書かれていたように、自身の都合でヒーローに後ろ暗い任務をさせたりもする)という存在が消えたことで、新生したニューアベンジャーズは、様々な困難に直面することとなる。
『ニューアベンジャーズ』の初期の話では、フューリー不在のシールドが不審な活動を行い、ニューアベンジャーズと対立したりもしてるのだが、その辺の話をしている時点で『シークレット・ウォー』が完結しておらず、フューリーの帰趨も描かれなかったのだから、いささか締まらない。
その後、ベンディスの『ニューアベンジャーズ』は、『ハウス・オブ・M』(2005年、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第38号)、『シビル・ウォー』(2006年、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第45号)と言った一連の大型イベントを経験していき、2008年の大型イベント『シークレット・インベージョン』(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第69号)で、潜伏していたフューリーの物語に色々と説明されることとなる(幸い、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」では、これらのベンディス期の初期に起きた大型イベントは網羅している。なお、ベンディスの『ニューアベンジャーズ』の流れについては、『ニューアベンジャーズ:ブレイクアウト』のエントリで紹介する予定)。
なお、ヴィレッジブックスは、2005~2010年頃までのベンディスの『ニューアベンジャーズ』と、それに関連する大型クロスオーバー・イベントを大よそ網羅的に邦訳するということをしており、ベンディス期(2005~2012年)の概要を掴むには、これら一連の単行本を買って読んでいただくのが一番手っ取り早いのだが、ヴィレッジブックスが出版から撤退した現在では、それもなかなか難しい話となった。残念。
こちらは2010年に刊行された邦訳版『ニューアベンジャーズ』第1巻。
余談:本作は、東欧の架空の国家ラトヴェリアを舞台としているが、作中の時点では、ラトヴェリアの国王であるドクター・ドゥームは不在である。これは、マーク・ウェイド&マイク・ウィアリンゴによる『ファンタスティック・フォー:アンシンカブル』の作中で起きた事件の結果、ドクター・ドゥームはしばらくの間、「地獄」に送られていたためである。
その後、ドクター・ドゥームは、『シビル・ウォー』とタイインした、J・マイケル・ストラジンスキー期の『ファンタスティック・フォー』誌上で、現世に帰還している。
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