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■アストニッシング・X-MEN:デンジャラス

■Astonishing X-Men: Dangerous
■Writer:Joss Whedon
■Penciler:John Cassaday
■翻訳:クリストファー・ハリソン ■監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0BT89KHWR

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第28号は、人気脚本家ジョス・ウェドン&ジョン・キャサディによる『アストニッシングX-MEN』の2番目のストーリーアーク「デンジャラス」編を単行本化。

 収録作品は『アストニッシングX-MEN』#7-12。

 余談ながら、この『アストニッシングX-MEN』#7(1/2005)が刊行された同月には、『アベンジャーズ・ディスアセンブル』のエピローグである『アベンジャーズ・フィナーレ』#1(1/2005)が刊行される一方で、新生アベンジャーズが始動する『ニューアベンジャーズ』#1(1/2005)、「エクストリミス」第1話である『アイアンマン(vol. 4)』#1(1/2005)が一斉に創刊されている。

 要はこの前後の時期は、マーベル・コミックス全体で、「なにか新しいことに乗り出そう」としていたタイミングであり、コミック業界外から人気脚本家を招いて『X-MEN』の単独タイトルを任せた本シリーズも、そうした中から生まれたものである。


 あと、本作は「マーベル グラフィックノベル・コレクション」17号、『ニューX-MEN:E・イズ・フォー・エクスティンクション』以降の「グラント・モリソン期」が完結を見た後、新たな『X-MEN』誌の看板タイトルとして創刊された、という経緯がある(モリソン期は2001~2004年)。

 なので、本エピソードに登場する新世代のミュータントは、『E・イズ・フォー・エクスティンクション』でのプロフェッサーXの「自分はミュータントである」との発言を踏まえた上で学園に入学しているし、学園を卒業後にX-MENの一員になることを志望している者も多い。

 それから、『E・イズ・フォー・エクスティンクション』でX-MENに加わったエマ・フロスト(ホワイトクイーン)が、『アストニッシング』の開始時にはすっかりX-MENの筆頭メンバー&サイクロップスの恋人として定着しているのも時間の流れを感じさせる。


 さて、このブログの本来のスタイルならば、ここで『アストニッシングX-MEN』に関連する話を延々としていくところなのだが、どうも筆者は『アストニッシングX-MEN』に関しては、そんなに思い入れがないので、特に書くことが思いつかない(ていうか、前回のエントリを読み返したが、これも露骨に「興味ない感じ」に溢れていて苦笑する<他人事か)。

 思いつかないので、まあ、アストニッシングX-MENの中心的なメンバーであるキティ・プライドと、彼の恋人コロッサス(前巻に収録された『アストニッシングX-MEN』#4(10/2004)にて、割と唐突に復活)に関する話を簡単にして、埋め草としたい(簡単……?)。

▼コロッサスとキティの初登場

 そもそもコロッサスは、1975年に刊行された『ジャイアントサイズX-MEN』#1(5/1975)にて初登場した。ソビエト連邦の集団農場で働く、素朴な青年、ピーター・ラスプーチン(当時にしても適当な名字を付けたものだと思う)は、自身の肉体を強靭な金属で覆うミュータント能力の持ち主であり、初登場の際には、トラクターに惹かれそうになった幼い妹(後にイリアナと命名される)を救うために、その能力を披露した。

※なお、本稿においては、彼の名前はロシア式の「ピョートル」ではなく、アメリカ式の「ピーター」表記で統一する。


 その後、プロフェッサーX(X-MENの創始者)が彼の元を訪れ、彼の超能力を「国を越えて世界のために使うべきだ」と説得。これを受け、ピーターはアメリカに渡り、ヒーローチームX-MENの一員となる。
 
 で、コロッサス(ソビエト連邦)、ウルヴァリン(カナダ)、ストーム(アフリカ)、ナイトクロウラー(ドイツ)、サンダーバード(アメリカ)、サンファイア(日本)……と、世界中から集められた新メンバー(+サイクロップス)によって再編成されたX-MENは、その最初の任務を無事解決し(「マーベル グラフィックノベル・コレクション第34号『アンキャニィ・X-MEN:セカンド・ジェネシス』参照)、以降もこの新編成で活動を続けていく(ただしサンファイアは早々に離脱、サンダーバードは間もなく戦死)。

 で、『ジャイアントX-MEN』誌に続いて刊行された『X-MEN』#94(8/1975)からは、同誌のレギュラー・ライターにクリス・クレアモントが就任。彼の細やかな群像劇が好評を博し、当時のマーベルでも随一の人気タイトルへと大成長していく。

 やがて、『X-MEN』#129(1/1980)にて、クレアモントは後にX-MENの新メンバーとなる少女、キティ・プライドを初登場させる(能力は自身の肉体の非実体化。壁をすり抜けたり、物理攻撃を無効化できる)。

 なおこのエピソードでは、強力なミュータントが幹部を務める秘密結社ヘルファイヤー・クラブと、その幹部のエマ・フロストも初登場を果たしている。

 この時期のエマは、若きミュータントを自身の手元に集め、独自の教育を施そうとする(要はプロフェッサーXのライバル的な)キャラクターとして暗躍しており、キティとX-MEN、それにX-MENの弟分であるニューミュータンツもちょいちょい迷惑を被っていた(『アストニッシング』本編で、キティとエマが不仲なのは、この当時のことが尾を引いている)。


 さて、天真爛漫で聡明なキティは、自分を半人前扱いするプロフェッサーXの教育方針に異論を唱えたり、諸々のトラブルの引き金になったり、若きミュータントを狙う悪人たちに狙われたりと、X-MENというチームに刺激を与え、さらに物語を牽引する役割を担っていく(その後『X-MEN』#138(10/1980)で、キティは正式にX-MENに加入)。

 その上彼女は、初対面の時点からコロッサスに惹かれ、やがて彼に積極的にアプローチし始め、物語に「(読者の年齢に近い)ティーンエイジャーの恋愛模様」も盛り込んでいく。

 ちなみにキティはX-MENのメンバーでは珍しく、「13歳」と年齢が明言されており(X-MEN加入後に14歳の誕生日を迎える)。一方のコロッサスは、登場初期から成人(舞台がアメリカなので18歳以上)として描かれていた(後述するが、キティが14歳の誕生日を迎えた時点でコロッサスは19歳だと明言されている)。

※ひどくどうでもいい話だが、後年の再録誌『クラシックX-MEN』#21(5/1988)の巻末にクレアモントが書いた短編(キティ加入前の『X-MEN』#115(11/1978)の幕間の話)では、X-MENが未開の地「サヴェッジランド」を訪れた際に、コロッサスが原住民の女性ネリールと親密になり、ネリール&ネリールの友人に、"手厚い歓迎”を受けたことが示唆されている。で、当時の「良い子のコミックブック」のヒーローは、成人してないのに“そういうこと”はしないので、#115の時点でコロッサスは成人してたのだろう。

※なお後年の『X-MENアニュアル』#12(10/1988)で、ネリールとコロッサスの間に生まれた男の子(名前は父親と同じくピーター)が登場しているので、コロッサスが少なくともネリールと“いたした”ことは間違いない。


 で、『X-MEN』の作中では、ピーターはキティに対して積極的な恋愛感情は示さなかったが(これは、ピーターが「恋愛感情に疎い朴訥な青年」として書かれていたのに加え、そもそも「成人が未成年に恋愛感情を向けるのはよろしくない」という通念的なものもあった)、一方のキティはかなり積極的にピーターに恋愛感情を示しており、クリスマスを舞台にした『X-MEN』#143(3/1981)では、「ヤドリギ(※)」を掲げたキティが、コロッサスの頬にキスをし、彼を赤面させる(まあ純朴)というシーンもあった。

(※)欧米ではクリスマスシーズンにヤドリギを飾る習慣があり、また「ヤドリギの下にいる人にキスをしても良い」という風習も伝えられている。なので一昔前の海外ドラマやコミックブックでは、冗談好きな色男がヤドリギの枝を頭上に掲げ、意中の相手に近寄ってキスをせがむ……なんてシーンもちょいちょいあった。

 ——ちなみに件の『X-MEN』#143では、道化者のナイトクローラーがヤドリギの枝を手に、ウルヴァリンの恋人マリコの頬にキスをしたところ、激高したウルヴァリンにあわや串刺しにされそうになっている(で、ナイトクローラーの落とした枝をキティが拾い、すかさずコロッサスにキスをした)。

 また、X-MENの傑作エピソードとして名高い「デイズ・オブ・フューチャー・パスト」(『X-MEN』#141-142(1-2/1981)、上記のクリスマス回の直前のエピソード)では、可能性の未来世界において、コロッサスとキティが結婚し、子供をもうけている(作中では既に死亡)ことも明言された。

 上は『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』の電子書籍版単行本。キティがX-MENに正式加入する『X-MEN』#138から「デイズ・オブ~」最終話の#143までを収録。

▼イリアナの“成長”

 その後、『アンキャニィX-MEN』#146-147(5-7/1981)にかけて展開されたストーリー中で、悪人アーケードの部下により、コロッサスの妹イリアナ他のX-MENメンバーの身内が誘拐されるという事件が勃発する。この事件以降、イリアナはX-MENの拠点、X-マンションに移り、コロッサスと共に暮らすようになる。

 んで、この半年後に刊行された『アンキャニィX-MEN』#153(1/1982)には、ベッドタイムのイリアナに、キティが自作のおとぎ話を語る……という幕間の話が掲載されたが、このおとぎ話の中では、キティが海賊船長、コロッサスが彼女の一等航海士にして恋人という役回りで登場した。

 ……想い人の妹に、自分と想い人が恋人同士になっているフィクションを語って聞かせる(しかも当のコロッサスも隣で話を聞いている)とは、まあ、キティも中々面の皮が厚い(ちなみにラストは、帰宅したX-MEN全員が、キティの話を部屋の外で聞いていたことが分かり、キティが赤面して終わる)。

 やがて、『アンキャニィX-MEN』#160(8/1982)で、イリアナの身に重大な変化が生じることとなる。

 ──この作中で異世界「リンボ(辺獄)」の支配者ベラスコに目を付けられたイリアナは、魔法によりリンボに拉致されてしまう。姿を消した彼女を捜索中にリンボに転送されたキティらX-MENは、並行世界のストーム(歳を取り、白魔術の達人になっている)の助けも借りつつ、イリアナの救出に成功。並行世界のストームが所持していた護符を用いて次元門を開き、元の世界に帰還する。
 ……が、転送の直前にベラスコが顕現し、イリアナを連れ去ってしまう。X-MENと共に元の世界に戻ったキティは、空間の裂け目に両腕を差し入れ、リンボのイリアナを取り返すことに成功するが、リンボとこの世界の時間の流れの差により、帰還したイリアナは、キティと同じ13歳に成長していたのだった(元は6歳)!

 ……と言った具合に、「立ってるものは親でもドラマを盛る男」ことクリス・クレアモントは、サブのレギュラーになったイリアナを、より物語に絡ませるべく、恐ろしく剛腕な手口で、彼女の年齢を10代に引き上げ、キティと同年代のレギュラーキャラクターに昇格させるのだった(この後、キティとイリアナは同じ部屋で生活することになる)。

 そして翌1983年、クリス・クレアモントは全4話のリミテッド・シリーズ『マジック』#1-4(12/1983-3/1984)を手掛け、イリアナ(マジック)が並行世界のストーム&キャット(並行世界の大人になったキティ)と共にリンボで過ごした7年間の出来事を語っている。


 こちらは『マジック』の電子書籍版単行本。『アンキャニィX-MEN』#160と、『マジック』全4号を収録。

 ——イリアナは、リンボでの7年間で、ストームから白魔術を、キャットから戦闘術を、そしてベラスコから黒魔術を学んでいく。更に彼女は、超空間移動を可能にする「スペッティング・ディスク」を操作するミュータント能力にも覚醒。7年後、自身の魂を剣に変えた“ソウルソード”を用いてベラスコを打倒したイリアナは、リンボの支配者となるも、玉座を放棄して地球に帰還する。

※割と混同している人も多いが、イリアナのミュータント能力は「ステッピング・ディスクの操作」である(ソウルソードや魔術は、彼女が後天的に身に着けた技能)。

▼キティとコロッサスの関係の"ピーク”

 話的には前後するが、イリアナがまだ6歳だった頃の『アンキャニィX-MEN』#150(10/1981)では、X-MENの長年の宿敵マグニートーとX-MENとの幾度目かの決戦が描かれた。

 この作中では、マグニートーの過去が初めて詳細に描かれる一方(マグニートーの過去については、小学館集英社プロダクションのnote記事が詳しい)、我を忘れてキティを負傷させてしまったマグニートーが、「ミュータントの未来を築くために戦ってきた自分が、若きミュータントを傷付けてしまった」ことを恥じて敗北を認める……という結末が描かれ、キティの存在がX-MENを救うこととなった。

 こちらはこの時期の『アンキャニィX-MEN』を集めた『X-MEN エピック・コレクション:アイ・マグニート』。『アンキャニィX-MEN』#144-153と『X-MEN』アニュアル#5(ファンタスティック・フォーとの共演)、『アベンジャーズ』アニュアル#10(後のX-MENのメンバー、ローグの初登場話)、大判雑誌『ビザール・アドベンチャーズ』#27掲載のフェニックス(ジーン・グレイ)主役の短編、それにアンソロジー誌『マーベル・ファンファーレ』#1-4に掲載されたエンジェル主役の短編を収録。

 また、1983年の『アンキャニィX-MEN』#165(1/1983)では、X-MENは宇宙空間で異星人種族ブルードと激戦を繰り広げる。この時X-MENは、体内にブルードの「胚」を植え付けられ、その肉体がブルードに乗っ取られる危機に陥る。

 この時キティは、肉体がブルードに奪われ、己が死ぬことへの恐怖に囚われ、悪夢にうなされる。それに対しコロッサスは、キティを落ち着かせるために、彼女を強く抱きしめる。で、半ば自暴自棄になっていたキティは、コロッサスとの肉体的接触の後で「私がもう少し大人だったなら」と口にする(言外に「大人として抱いて欲しい」ことを訴えている)。

 でー、その辺を察したコロッサスは、(今はこれが精一杯)とばかりに彼女の唇にキスをする(多分、『X-MEN』作中で、初めて成人であるコロッサスの方から未成年のキティに愛を伝えた場面)。

 が、なおもキティは「じき死ぬのに、バカげた社会規範に従う必要がある?」と、コロッサスに「大人としての扱い」を迫るが、ピーターは「今は(そういうことをするには)適切な場所でも、適切な時でもない」と言い、「驚異に満ちた宇宙には、きっと僕らを救う手段がある」と、生来の楽観的な気質をもって彼女を勇気づける(そして結局X-MENは、どうにか生き延びるのだった)。

 成人が未成年に対して愛情を込めたキスをし、「適切な時が来れば彼女の想いに応える」ことを明言したこの一連のシーンは、その時点でのコロッサスとキティの関係のピークと言えた。

 他方、このブルード編と同時期に、『スペシャル・エディション X-MEN』#1(2/1983)が刊行された。この本は、基本的には『ジャイアントサイズ・X-MEN』#1を再録した特別号なのだが、その巻末にはクレアモントによる新作短編「ア・デイ・ライク・エニィ・アザー」が掲載されていた(※クレアモントは再録誌に新作短編を書いて過去の話の補完をするのが大好きな作家だが、お蔭でバックナンバーを持ってる読者も再録誌を買わされる)。

 この短編は、時系列的にはブルード編の後日譚で、X-MENがキティにサプライズ誕生パーティを仕掛けるというもの(キティはブルード編のさなかに14歳の誕生日を迎えていたのだが、状況が状況ゆえにパーティは開かれてなかった)。そして作中のイリアナ(13歳)とキティの会話で、コロッサスが当時19歳であることが明言された。


▼ニューミュータンツとイリアナ

 で、話は少し戻るが、1982年秋に刊行された描き下ろし特別号『マーベル・グラフィックノベル:ニューミュータンツ』#4(11/1982)で、「ブルードとの戦いにより宇宙で消息を絶ったX-MENに代わる、新世代のミュータント・チーム“ニューミュータンツ”が、プロフェッサーXによって創設される」といった話が描かれた(まあX-MENは生きてたが)。

 そして翌1983年早々、このニューミュータンツを主役に据えた新タイトル『ニューミュータンツ』#1(3/1983)が創刊される(『X-MEN』初のスピンオフタイトル)。こちらもライターはクリス・クレアモントであり、『X-MEN』本誌と密接に関連した話が書かれていく。

 ちなみに、キティは「自分はX-MENの正規メンバーだから」ということで、ニューミュータンツへの加入を断ったが(この件で、多少ニューミュータンツのメンバーとわだかまりができる)、マジックは1984年頃の『ニューミュータンツ』誌の展開でチームに協力したことをきっかけにニューミュータンツに加入。『X-MEN』のサブキャラクターから、『ニューミュータンツ』のレギュラーに昇格する。


▼編集部の意向とダグ・ラムジー

 さて、上述のブルード編で、お互いの気持ちを確かめ合ったキティとコロッサスだが、どうもこの辺で、当時のマーベル・コミックス社の総編集長(編集部で一番偉い人)のジム・シューターが、この2人の恋愛を描くことに「待った」をかけたらしい。そしてクレアモントも、キティ&コロッサスの仲をこれ以上進展させないことに同意したらしい。

 ……結果、このあたりの時期から、クレアモントは2人を別れさせる方向で、諸々の伏線を張りだしていく。

 やがて『X-MEN』誌と『ニューミュータンツ』誌に、ダグ・ラムゼーという新キャラクターが登場するのだが、彼は明白に「キティの新しいボーイフレンド」として作られたキャラクターだった(しかもダグはキティと同年代)。

 ……順を追って説明していこう。そもそもダグの初登場は、『ニューミュータンツ』#13(11/1983)なのだが、実はその1ヶ月前の『アンキャニィ』#177(10/1983)で、その存在が言及されていた。

 この号でキティはコロッサスとデートに出かけてるのだが、移動中にキティは、自身が通うダンススクールで知り合った少年ダグ・ラムゼーと非常に気が合ったことを話す(キティはコンピューターのハードウェア関連のエキスパートだったが、ダグはソフトウェア関連が得意で、互いの長所が噛み合った)。
 ——この直後、2人はミュータント・テロリストグループ、ブラザーフッド・オブ・イビル・ミュータンツに襲われたので、この話はそこで打ち切られたが、その後も幕間でキティはコロッサスにダグの話をしていた模様。

※関係ないが、この当時のフィクションのコンピューター関連の描写として、きちんとハードウェアとソフトウェアを別個のものとして書いているクレアモントは偉い。——ハードとソフトをゴッチャにして、天才ハッカーが最強のコンピューターを設計しちゃう映画『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(同じ1983年公開だ)に爪の垢を飲ませたい。


 その後、『ニューミュータンツ』#13で、ダグが正式に初登場するのだが、この時の彼は、キティと一緒にコンピューター・ネットワークに侵入し、X-MENの仇敵ヘルファイヤー・クラブのセバスチャン・ショウの情報を得ようと試みていた。

 なおこの時点では、キティはダグを常人だと思っており、自身がミュータントであることや、X-MENとヘルファイヤー・クラブとの関係などは伏せている。

 他方、『ニューミュータンツ』誌上では、早くからプロフェッサーXが「ダグがミュータントでは?」と疑っている描写が挟まれており、やがてダグは「あらゆる言語に精通する」ミュータント能力者であることが発覚。「サイファー」のコードネームを名乗り、『ニューミュータンツ』#21からチームに加わる。

▼『シークレット・ウォーズ』とコロッサスの新たな恋

 他方、1984年の初頭に刊行された『アンキャニィX-MEN』#179(3/1984)では、ニューヨーク市の地下に潜む、はぐれミュータント集団「モーロックス」とX-MENが交戦。この時、致命傷を負ったコロッサスを治療するために、キティがモーロックスのキャリバン(以前から彼女に好意を抱いていた)との結婚を承諾するという、“寝取られ展開”が勃発する。
 ——幸い、そこそこ道徳的だったキャリバンが「陽のあたる世界の住人であるキティを薄暗い地下に留めるのは、間違いである」と思い直し、キティは解放された。

 上は『アンキャニィX-MEN』#179の単話版電子書籍。キティの右の白面の男性がキャリバン。

 この一件で、キティとコロッサスの仲はさらに深まった……かと思いきや、続く『アンキャニィ』#180(4/1984)で、コロッサスはウルヴァリンとの会話の中で、「自分はキティと今にも結婚したいと想っているのだが、キティがどう思っているのかが不安である」「最近キティはダグ・ラムゼーという同年代の少年と仲が良いのが気にかかる」「キティはしょせん自分にとっては夢に過ぎず、現実に立ち返るべきではないか」といったことをまくしたて、ウルヴァリンに「そういうことを考えた時点で、お前は負けている」と突っ込まれている。

 で、この#180の後半で、キティは、マサチューセッツ・アカデミー(エマ・フロストが運営している学校。実態は若きミュータントの教育機関で、ニューミュータンツのライバルチーム、「ヘリオンズ」も所属)への推薦入学を考えているダグに乗じて同校を訪問し、アカデミーの実態を調査しようと試みるが、マサチューセッツ行きの飛行機の機内でホワイトクイーン(エマ・フロスト)に捕らえられてしまう。

 他方、#180のラストでX-MENとプロフェッサーXは、セントラルパークに顕現した未知の機械の調査に赴いたところ、閃光に包まれ、いずこかへと姿を消してしまう。

 ……ここからX-MEN本隊は、同年に展開されたマーベル・コミックス社初の大型クロスオーバー『シークレット・ウォーズ』#1-12(5/1984-4/1985)に参加することとなる。

 同作は、セントラルパークに顕現した謎の機械の調査を行ったアベンジャーズ、X-MEN、スパイダーマンら人気ヒーローが、異世界バトルワールドに転送されてしまい、超越者ビヨンダーの管理下で、同様にバトルワールドに集められたヴィラン軍団と戦うことを強制される……という内容。

 こちらは『シークレット・ウォーズ』の単行本。全12話を収録。

 
 なお、スーパーヴィランとの「戦争」に未成年を巻き込むわけにはいかないという配慮からか、キティは『シークレット・ウォーズ』には参加していない。

 代わりに、キティとダグはホワイトクイーンに誘拐され、同時期の『ニューミュータンツ』誌の中で、2人が誘拐されたことを察知したイリアナが、ニューミュータンツ(彼らも『シークレット・ウォーズ』には不参加)と共に2人を救助しに向かう……という顛末が描かれた(※前述した、イリアナがニューミュータンツに加入するきっかけとなったエピソード)。

 ちなみに『シークレット・ウォーズ』のライターは、クレアモントにキティとコロッサスを別れさせるよう指示した、総編集長のジム・シューターである。これは、「マーベルのライターは自己主張が激しい。各編集部のヒーローが一堂に会するこの企画を特定の1人に任せたら、残りのライターから文句が出る。なので、誰にも文句を言われない立場の人間が書くしかなかった」という理由による(と、何かのインタビューでシューター自身が言ってた)。
 
 んで、シューターは、『シークレット・ウォーズ』にキティが不参加なのをいいことに、同作中で「異星人の治癒能力者ザジーに治療を受けたコロッサスが、やがて彼女に恋をする」という展開を書いた。しかも作中でウルヴァリンに「治療してもらったことで好意を抱いたにすぎない」と突っ込まれたコロッサスは、「これは真の愛情である」と、堂々と言い放った。ちょっと前まではキティのことでグダグダ悩んでた男が、だ。
 
 その後、『シークレット・ウォーズ』の最終号である#12(4/1985)では、ラスボスのドクター・ドゥームの攻撃により、ヒーローらがいきなり全滅。この時ザジーは愛するコロッサスを蘇らせるために、その生命エネルギーを彼に注ぎ、息絶える。
 その後コロッサスは異星の機械を用いて他のヒーローらの蘇生に成功。ドゥームの拠点に赴いたヒーローらは、続く最終決戦に勝利する。ヒーローらが勝利を祝し、帰還の準備を進める中、コロッサスだけは、勝利の犠牲になったザジーを悼むのだった。

 
※なお、後年のリミテッド・シリーズ『デッドプールズ・シークレット・シークレット・ウォーズ』で、実はデッドプールも『シークレット・ウォーズ』に参戦していたことが判明する。

 んで、シークレット・ウォーズが終結した直後にバトルワールドに満ちていた「願いをかなえるエネルギー」を利用したデッドプールが、秘かにザジーを蘇らせていた……という事実が明かされた(コロッサスを含めた他のヒーローらはこのことを知らない)。

※なお、この「願いをかなえるエネルギー」の余波で、『シークレット・ウォーズ』に参加したヒーロー、ヴィランらの記憶からデッドプールの記憶が消去されてしまう。

 こちらがその『デッドプールズ・シークレット・シークレット・ウォーズ』の電子書籍版単行本。リミテッド・シリーズ全4号と、オリジナルの『シークレット・ウォーズ』#1を収録。ライターはこの手の単発のリミテッド・シリーズをソツなくまとめるのが上手なカレン・バン。


▼コロッサスとキティの破局

 ちなみに『シークレット・ウォーズ』は、月刊ペースで1984年1月から12月まで、丸1年かけて展開されていたが、そのストーリーの詳細(コロッサスが異星の女性に恋するなど)は、編集部内で早くから共有されていたようである。
 
 なにしろ『シークレット・ウォーズ』#3(7/1984)が出た直後の1984年4月初頭に刊行された『アンキャニィX-MEN』#183(7/1983)で、早くもクレアモントはザジーを理由にコロッサスとキティの別れ話を書いているからだ。

 ——ちなみに『シークレット・ウォーズ』誌上にザジーが初登場するのは、この『アンキャニィ』#183の刊行から2週間後に出た『シークレット・ウォーズ』#4(8/1984)でのこと(当人の登場に先んじて、彼女が原因で別れ話が書かれるのも中々スゴい)。
 
※ちなみにマーベル初の大型クロスオーバー・イベントである『シークレット・ウォーズ』は、まだ「タイイン」という概念が確立していなかった。例えば『X-MEN』誌の場合、『アンキャニィ』#180のラストでX-MENがバトルワールドに転送されるのだが、翌月に刊行された#181の冒頭では、X-MEN一同が「シークレット・ウォーズを終えて帰ってきた」場面が描かれ、『X-MEN』本誌で『シークレット・ウォーズ』当時を舞台とした話(タイイン・ストーリー)は描かれなかった(多分、「各ライターにイベント本編に絡む話を書かせたら、面倒くさい」とシューターが判断したのだろう)。
 
 ついでに言えば(こないだも少し触れたが、同時期の『アメイジング・スパイダーマン』誌も、やはり「ノー・タイイン」であり、こちらもやはり『アメイジング』#251(4/1984)のラストでスパイダーマンがバトルワールドに転送された後、翌月の#252(5/1984)の冒頭でバトルワールドからスパイダーマンがブラックコスチュームを着て帰還する姿が描かれる……という具合だった。


 閑話休題。
 
 で、クレアモントは『アンキャニィ』#183で、こんな具合の話を書いた。

・ピーター、馬鹿正直に「バトルワールドで美しい女性(本話中ではザジーの名前は出ない。まだ未定だったか?)と恋に落ちた」「自分は今もキティを大事に思っているが、そこに愛は存在していない」と告げ、別れを切り出す。

・キティは気丈に別れを受け入れるが、内心は深く傷ついており、心が癒えるまでX-マンションを離れる。

・キティを保護者的に気にかけてたウルヴァリン、コロッサスに説教するため、彼をマンハッタンの酒場に連れていく(ウルヴァリンが暴れないよう、ナイトクロウラーも同行)。

※なお童顔のピーターは、酒場の店主から身分証の提示を求められ、「自分はもうすぐ20歳だ」と発言している。

・数時間に渡り説教をしたウルヴァリン、終いにはダグ・ラムジーという恋敵が現れたことでピーターの心が挫け、別の女性に惹かれたのだろうと指摘する。

・と、酒場にX-MENの仇敵ジャガーノート(マルコ・ケイン)が入ってきたことに気づいたウルヴァリン、店を出ようとするが、酔ったコロッサスがジャガーノートにビールをかけてしまい、ケンカになる。

・ジャガーノート、コロッサスを叩きのめすが、ウルヴァリンらは傍観。

・なぜ手助けしてくれなかったのかと憤るピーターに、ウルヴァリンは(#179で)キティの献身で生命を救われたコロッサスが、彼女に礼の一つも言っていないこと、彼に他人への思いやりが欠けていることを指摘し、その場を去る。

 ——と、まあ、そんな具合に、キティとコロッサスは別れることとなった。

 こちらは『アンキャニィX-MEN』#183の単話版電子書籍。アーティストはまだ若い頃のジョン・ロミータ・ジュニア。 


▼キティの旅立ちと帰還

 さて、その後キティは、1984年末~1985年初頭にかけて展開された全6号のリミテッド・シリーズ『キティ・プライド&ウルヴァリン』#1-6(11/1984-4/1985、ライターはやはりクリス・クレアモント)の主役を務めることとなる。

 ——X-マンションを離れ、久々に父親の元を訪ねたキティは、彼が日本のビジネスマン(兼ヤクザ)、ヘイジ・シゲマツとの間にトラブルを抱えていることを知り、密かに父の後を追って日本へ赴く。が、シゲマツと共闘関係にある伝説のニンジャ、オグンによりキティは捕らえられてしまう。
 キティの連絡を受けて日本に急行したウルヴァリンは、ユキオ(リミテッド・シリーズ『ウルヴァリン』に登場)と共にシゲマツの周囲を探索するが、そこに現れたのは、オグンに洗脳された上に、ニンジャとしての技能を叩きこまれたキティ(なおオグンに髪を切られてベリショになってる)だった! ……的なオリエンタリズム溢れる話。ちなみにオグンはウルヴァリンのかつての師匠。


 こちらが『キティ・プライド&ウルヴァリン』の電子書籍版単行本。リミテッド・シリーズ全6話を収録。

 で、リミテッド・シリーズの最終号と同月に刊行された『アンキャニィ』#192(4/1985)でキティは帰米し、X-MENに再合流する(当時の『X-MEN』関連誌は、だいたいクリス・クレアモントが書いてるので、キャラクターの出入りの管理はきっちりしている)。

 この時コロッサスは、キティを出迎えに行く勇気がなく、「ザジーを愛したことでキティへの想いが変化したのだが、最近ではそれが自分の本心だったのか分からなくなっており、考えれば考えるほど混乱している」と、少々女々しいことを言っている(まあ、彼の本心ではなく、ジム・シューターの要請だったのだが)。

 他方キティは、コロッサスとも普通にチームメイトとして付き合える程度には心の整理がついており、日本で身に着けたニンジャの技能も相まって、X-MENの頼もしいメンバーとして活躍を続けていく。

 やがて、『アンキャニィX-MEN』#197(9/1985)で、キティとコロッサスはX-MENの旧敵アーケードに拉致された挙げ句、なぜか彼の用心棒をすることとなり、コンビプレーを駆使して無数の死の罠を突破していく。この事件後にキティとコロッサスは、今後はお互い“良き友人”として付き合っていくこととし、胸中のわだかまりを解消するのだった。

 ——なお、キティの新しいボーイフレンドとして生み出されたはずのダグだが、その後キティとの仲は特に進展しなかった。

 翌1986年刊行の『ニューミュータンツ』#45(11/1986)で、ニューミュータンツのウォーロックに「ダグとキティは互いに強い想いを抱いていたのではないか?」と聞かれたダグは(ウォーロックは異星の機械生命体なので、こういうストレートな質問をぶつけてくる)、「僕らはいまだに友達同士だよ」と返答しており(ダグは草食系男子なので、こういうことを言う)、この辺の素っ気ない描写を見ても、クレアモント的にもこの時点で2人を友人以上の関係にする気は失せていたものと思われる。

 ……ていうか、当時の『ニューミュータンツ』のファン的には、ダグがいまいち受けが悪く(能力が戦闘向きでないため、「戦闘になると隅っこで立ってるだけ」と揶揄された)、その彼と人気キャラクターであるキティを絡ませることを避けたのかもしれない。

 とまれ、この時点でキティは、特にボーイフレンドを持たないフリーとなる(まあ一応、『アンキャニィX-MEN』#206(6/1986)で、X-MENがサンフランシスコのジェシカ・ドリュー(スパイダーウーマン)の家を訪れた際、ジェシカの大家のデヴィッド・イシマ(昔『スパイダーウーマン』誌のライターを務めてたクレアモントが創造したキャラクター)とキティがデートをしていたが、特に発展性のある付き合いではなかった)。


▼クロスオーバーに巻き込まれるキティとコロッサスとイリアナ

 で、この頃から『X-MEN』関連誌は、年に1回、大型のクロスオーバー・イベントをやるようになり、そこで各レギュラーキャラクターにドラスティックな変化が起きるのが「恒例」となる。

 まず、1986~87年にかけて『アンキャニィX-MEN』、『ニューミュータンツ』、それに新創刊されたばかりの『X-ファクター』誌を中心に、クロスオーバー・イベント「ミュータント・マサカー」が開始(『アンキャニィX-MEN』#210-213(10/1986-1/1987)、『X-ファクター』#9-11(10/1986-12/1986)、『ニューミュータンツ』#46(12/1986)他)。

 このイベントは、ミスター・シニスター配下のチーム、マローダーズにより、ニューヨーク市の地下に潜むモーロックスが虐殺されることで幕を開ける。生き残りのモーロックスから事情を聴き、マローダーズと交戦したX-MENは、彼らを撃退したものの、敵の攻撃を受けたコロッサスとキティが肉体に変調をきたし、ミュータント能力の解除ができなくなる(コロッサスは鋼鉄の皮膚のまま、キティは非実体化のままになる)。(『アンキャニィX-MEN』#211(11/1986)での出来事)

 Kindleに『ミュータント・マサカ―』の単行本は2種ほどあるが、どちらも収録されているコミックは同じ。上の2019年に出た「マイルストーンズ」版(有名エピソードを単独で単行本化するシリーズで、黄色の表紙が目印)が安いので、こちらを買うのがいいだろう。収録内容は『アンキャニィX-MEN』#210-214、『X-ファクター』#9-11、『ニューミュータンツ』#46、それにタイインした『ソー』#373-374、『パワーパック』#27、『デアデビル』#238。


 で、「ミュータント・マサカー」は、マローダーズの筆頭であるセイバートゥースを、ウルヴァリン、サイロックらが打ち倒すことで一応終結する。しかしながらキティは非実体化状態が解除できず、ミュータント研究家のモイラ・マクタガート博士の元へ送られ、X-MENを長期離脱することになる。

 ——やがてキティは肉体を維持できなくなり、霧散・消滅してしまう危機に見舞われる。X-MENの指導者マグニートー(この時期、プロフェッサーXは負傷で一線を退き、改心したマグニートーが指導者の座に就いていた)は、ミスター・ファンタスティックと接触し、キティの窮状を救うよう懇願するが、世界最高の頭脳を誇る彼でもキティの治療は困難だった。と、そこへミスター・ファンタスティックのライバルであるドクター・ドゥームが出張ってきて、キティの治療を申し出る……と、いった話が、1987年に展開されたリミテッド・シリーズ『ファンタスティック・フォーvs. X-MEN』#1-4(2-4, 6/1987)で展開された。最終的にキティは、ミスター・ファンタスティックとドゥームの協力により肉体を回復させるが、静養のため、モイラ・マクタガートの拠点のあるミューア島に、さらに滞在することになる。

 こちらは1987年に刊行された2本のリミテッド・シリーズ『X-MEN vs. アベンジャーズ』(改心したマグニートーの処遇を巡り、2チームが対決する話)と『ファンタスティック・フォー vs. X-MEN』を収録した単行本『X-MEN vs. アベンジャーズ/ファンタスティック・フォー』。リミテッドシリーズ2本と、『X-MEN』#9(X-MENが誤解からアベンジャーズと対決する回)、『ファンタスティック・フォー』#28(悪人に操られたプロフェッサーXがX-MENにファンタスティック・フォーを襲わせる回)を再録。


 んで、キティがミューア島で静養している間に、1988年度の『X-MEN』関連誌のクロスオーバー・イベント「フォール・オブ・ザ・ミュータンツ」が開始(『アンキャニィX-MEN』は#225-227(1-3/1988)にて展開)。この作中で、魔神アドバーサリーと戦ったX-MENは、魔神の封印呪文を行使するための生贄となり全滅する。

 が、X-MENの勇気を惜しんだ女神ローマによってX-MENは復活。以降X-MENは、表向きは彼らが全滅したということにし、秘密裏に活動を継続することとする。

 こちらが「フォール・オブ・ザ・ミュータンツ」の単行本第1巻。『アンキャニィX-MEN』#220-227と、『インクレディブル・ハルク』#340、『ニューミュータンツ』#55-61を収録。


 他方、ミューア島で静養していた元X-MENのキティとナイトクロウラー、レイチェル・サマーズ(フェニックス)は、「フォール・オブ・ザ・ミュータンツ」事件でX-MENが全滅したと勘違いしてしまい(X-MENは身内にも生還を伝えてなかった)、彼らの遺志を継ぐべく、キャプテン・ブリテンや彼の恋人ミーガンと共に、イギリスを拠点とする新チーム「エクスカリバー」を創設。ヒーロー活動に復帰する(『エクスカリバー:スペシャル・エディション』#1(4/1988)での出来事)。

 でー、半年後にオンゴーイング・シリーズ『エクスカリバー(vol. 1)』#1(10/1988)が創刊され(ライター:これまたクリス・クレアモント)、以降キティは、同誌が1998年に休刊するまで、本家X-MENとは疎遠になる。

 こちらが初期の『エクスカリバー』の冒険をまとめた「エピック・コレクション」の第1巻。『エクスカリバー:スペシャル・エディション』#1と『エクスカリバー(vol. 1)』#1-11、特別号の『エクスカリバー:モジョー・メイヘム』、それに『キャプテン・ブリテン(1976)』#1-2、『マイティ・ワールド・オブ・マーベル』(イギリスで刊行されていた雑誌)#7、14-15掲載のキャプテン・ブリテンの短編、それに『マーベル・コミックス・プレゼンツ』#31-38掲載のエクスカリバーの話を収録。


▼"マジック”の消滅

 続いて、1989年度のマーベル・コミックスの大型クロスオーバー・イベント「インフェルノ」(『X-MEN』関連誌で起きた出来事の結果、ニューヨークが悪魔の軍団に襲われ、X-MEN関連チームが根本の収拾にあたる一方、アベンジャーズやスパイダーマンが市街で悪魔と戦う話)で、ニューミュータンツとイリアナは、リンボ界の妖魔シム、ナスティアらと交戦する(ちなみにシムらはイリアナのステッピング・ディスクを悪用し、リンボから現世にやってきた)。

 この時イリアナは、自身の暗黒面に飲み込まれながらも、リンボの支配者としての責任を果たすべく、その魔力を最大限に開放し、現世に顕現した妖魔の群れをリンボに戻すという大業を成し遂げる。……が、その結果、イリアナは元の6歳の姿に戻ってしまうのだった(『ニューミュータンツ』#73(3/1989)での出来事)。

 この事件後、幼いイリアナはソビエトの両親の元に戻される。


 こちらは『インフェルノ』の単行本。『アンキャニィX-MEN』#239-243、『X-ファクター』33-40、『X-ターミネーター』#1-4、『ニューミュータンツ』#71-73、『X-ファクター』アニュアル#4と、メインとなる『X-MEN』サイドの話を収録(『アベンジャーズ』他のタイトルは、別の単行本『X-MEN:インフェルノ・クロスオーバーズ』に収録)。


▼ピーター・ニコラスへの転生:

 で、「インフェルノ」事件後に刊行された『アンキャニィX-MEN』#251(11/1989)で、X-MENはサイボーグ・ヴィランチーム、「リーヴァーズ」と交戦。この時、リーヴァーズに勝てないと察したサイロックは、他のメンバー(コロッサス、ダズラー、ハボック)と共にシージ・ペリラス(女神ローマに与えられた魔法の護符。そこを通った者に変化と再生の機会を与える次元門を開く)を用いて逃走する——が、シージ・ペリラスの次元門の効果は個人個人で異なるため、結果、X-MENは世界中にバラバラに転送されてしまう。
 
 んで、以降の『X-MEN』誌では、世界中に散ったX-MENの各メンバーがじわじわ再集合しつつ、モイラ・マクタガートが創設した「ミューア島X-MEN」が行方不明のX-MENメンバーを捜索したりしてく様子が描かれていった。
 
 やがて、ピーター・ラスプーチンは、ニューヨーク市のソーホーで画家ピーター・ニコラスとして転生していたことが判明する(『アンキャニィX-MEN』#259(3/1990)での出来事)。

 んで、1991年の『X-MEN』関連誌で展開されたクロスオーバー・イベント「エクスティンション・アジェンダ」を経て、X-MENは再集合&再編成されるのだが(ウルヴァリン、サイロック、ストームらの古参メンバーに加え、ジュビリー、ガンビットといった新メンバーも参加)、元々のメンバーのうちコロッサスのみは合流できず、どころかX-MENの仇敵であるシャドウキング(他者の肉体に憑依する能力を持つミュータント)に肉体を乗っ取られてしまう。

 その後、1991年の『X-MEN』と『X-ファクター』のクロスオーバー・イベント「ミューア・アイランド・サーガ」で、コロッサス/シャドウキングはミューア島に集結したX-MEN&X-ファクターと交戦。最終的にシャドウキングは倒され、ようやくコロッサスはX-MENに復帰する。

 

 こちらは「ミューア・アイランド・サーガ」とそれに関連する話をまとめた単行本『X-MEN:シャドウキング・ライジング』。『アンキャニィX-MEN』#278-280&『X-ファクター』#69-70(「ミューア・アイランド・サーガ」本編)と、『ニューミュータンツ』#26-28、#44(「サーガ」の重要な登場人物であるリージョン関連の話)、『アンキャニィX-MEN』#253-255(シャドウキング関連の話)を収録。


 なお、「ミューア・アイランド・サーガ」をもって、クリス・クレアモントは『アンキャニィX-MEN』誌を降板し、『X-MEN』の物語はファビアン・ニシーザ、スコット・ロブデルら新世代のライターと、ジム・リー、ウィリス・ポータシオ、ロブ・ライフェルドらスターアーティストが担当することとなる。

 んで、マーベルはスターアーティストらにこれまで以上のクリエイティブな舞台を与えることとし、ロブ・ライフェルドには、『ニューミュータンツ』をリニューアルした『X-フォース』を与え、ジム・リーには、新規の『X-MEN』タイトルとなる『X-MEN (vol. 2)』(X-MENの2つめのオンゴーイング・シリーズ)を与えた。

 こちらは『X-フォース』初期のイシューを集めた『X-フォース エピック・コレクション:アンダー・ザ・ガン』。収録作は『X-フォース』#1-15と、同アニュアル #1、『X-フォース』の#3-4とクロスオーバーした『スパイダーマン』#16、それにメンバーのシャッタースターがゲスト出演している『ウルヴァリン』#54。


 でもってこっちは、ジム・リーによる『X-MEN (vol. 2)』#1-7を、デジタル彩色で「リマスター」した、『X-MEN:ミュータント・ジェネシス 2.0』。リマスター版『X-MEN (vol. 2)』#1-7を収録。


  ……まあ、ジム・リーとロブ・ライフェルドらは、1年もしないうちにマーベルを離脱し、新興出版社イメージ・コミックス社を立ち上げ(1992年)、残されたスコット・ロブデル、ファビアン・ニシーザら新世代のライターが、アンディ・キューバート、グレッグ・カプロら「新星アーティスト」と共に『X-MEN』の新時代を継承していくのだが。


▼突然生える兄・ミハイル
 
 で、ジョン・バーン&ウィリス・ポータシオ(ライター)とウィリス・ポータシオ(ペンシラー)という体制に変わった『アンキャニィX-MEN』#285(12/1991)で、突然にピーターの「兄」である、ミハイル・ラスプーチンが初登場を果たす(なおポータシオもこの後マーベルを去りイメージに参加)。
 
 ちなみに「コロッサスに兄がいる」という設定自体は、クレアモント期の『X-MEN』#99(6/1976)が初出である。——同作中でX-MENが宇宙に赴くことになった際、突然暴れ出したコロッサスが「ソビエトの最初期の宇宙飛行士だった兄ミハイルが、宇宙船の爆発事故で死んだトラウマがあるので、自分は宇宙に強い恐怖感を抱いている」という旨のセリフを発している(おそらく、ライターとしてはやたらマニアックなネタを拾うことに定評のあるジョン・バーンが、この設定を拾ったか?)。

 んで、『アンキャニィ』#284-286(1-3/1992)の3話にかけて展開された話(#285-286には、なぜかジム・リーもライターとしてクレジット)では、「実はミハイルは、エネルギー操作能力を持つミュータントであり、その能力を生かして樺太島に開いた次元門の調査に赴くことになった」「その際、西側への情報かく乱のために、“宇宙船の爆発事故で死亡した”ことにされた」という事実が明かされる。
 
 そしてミハイルは次元門の向こうの世界「ザ・ヴォイド」にて、次元門を私欲のために利用する悪辣な支配者ジ・アバターと遭遇。色々あってアバターに抵抗するレジスタンスの指導者として戦うことになる。が、やがて勃発した総力戦で、ミハイルは自身のミュータント能力により次元門を閉じたものの、その際に生じたエネルギーの奔流で敵味方双方が全滅。唯一生き残ったミハイルは、失意のまま荒野にて隠遁生活を送っていた。

 やがて10年後、再び開いた次元門から、コロッサスらX-MEN(と、ゲストのサンファイア<この人のパワーで門を開いた)が顕現。今度こそ永遠に次元門を閉じることを決意したミハイルは、次世代のレジスタンスやX-MENと共にアバターの娘との戦いに臨み、最終的にX-MENのメンバー(+サンファイア)のサポートを受けて、「X-MEN&ミハイルを元の世界に帰還させ」「次元門を永遠に封鎖し」かつ「門を閉じたときのエネルギーの奔流がヴォイドを襲わないようにする」……という難題をやってのけたのだった。


 こちらは『アンキャニィ』#284の単話版電子書籍。当時の新キャラクター、ビショップがじわじわ露出してた頃でもある。


 で、10年ぶりに地球に帰還し、X-MENの拠点、X-マンションに滞在することになったミハイルだが、かつてレジスタンスのリーダーとして、無数の仲間を死へ追いやった経験は、彼の心を依然、蝕み続けていた。

 ほどなくして1992年夏に刊行された『アンキャニィX-MEN』#291-293(8-10/1992)で、モーロックスの内紛にX-MENが巻き込まれた際、ミハイルは己の過去の清算のため、そして人間社会に行き場所のないモーロックスの魂を救済するため、彼らのリーダーとなった上で集団入水自殺を決行するのだった(この時コロッサスは、兄を説得するが、殉教者になることを決意したミハイルは聞き入れなかった)。

 こちらは『アンキャニィ』#293の電子書籍版。コロッサスが抱いているのがミハイル(この人全然表紙に出ないのよ)。

▼「処刑者の歌」とレガシー・ウィルスの拡散

 さて、このミハイル殉教事件の直後より、1992~1993年度の『X-MEN』関連誌の大型クロスオーバー・イベント「エクスキュージョナーズ・ソング」が開始される(『アンキャニィX-MEN』294-297、『X-MEN (vol. 2)』14-16、『X-ファクター』#84-86、『X-フォース』#16-18)。
 
 同作は、サイクロップス&ジーン・グレイ、それにケーブル(X-フォースのリーダー)に深い恨みを持つストライフの策略によって、プロフェッサーXが致命傷を負い、X-MEN、X-フォース、X-ファクターの3チームが共闘して強力な敵軍団(ストライフに従うミュータントリベレーション・フロントや、魔人アポカリプス配下だったダークライダーズなど)に立ち向かう話。なおストライフは、プロフェッサーX襲撃犯がケーブルであるように見せかけたため、当初はX-フォースと他のチームが対立する(お約束)。

 『エクスキュージョナーズ・ソング』の単行本は、現在3種類ほど出ているが、まあ「エクスキュージョナーズ・ソング」というストーリー単体を抑えておきたいのであれば、黄色い表紙の「マイルストーンズ」版で良いだろう。収録作品は、『アンキャニィX-MEN』294-297、『X-MEN (vol. 2)』14-16、『X-ファクター』#84-86、『X-フォース』#16-18と、特別号『ストライフズ・ストライクファイル』#1(クロスオーバーの主要登場人物のプロフィールをまとめたイラスト&資料集)。


 ちなみに500ページ越えの「エピック・コレクション」版『エクスキュージョナーズ・ソング』の単行本は、直前のミハイルの殉教エピソードなんかも収録されてるのだが、「エクスキュージョナーズ・ソング」のエピローグである『アンキャニィX-MEN』#297と『ストライフズ・ストライクファイル』は収録されてないという罠がある(共に続刊に収録)。収録作品は『アンキャニィX-MEN』#289-296、『X-MEN (vol. 2)』#10-16、『X-ファクター』#84-86、『X-フォース』#16-18。

 で、この「エクスキュージョナーズ・ソング」のラストでは、ストライフの策略により、ミュータントだけが罹患する、治療不可能な病を発症させる「レガシー・ウィルス」が地球全土に撒かれてしまう。

 ——余談ながら、このレガシー・ウィルスは、この当時、アメリカで社会問題化していた「エイズ(後天性免疫不全症候群)」をモチーフとしたガジェットである。

 手短に説明すると、1990年代前半当時エイズという病気は、「同性愛者だけが発症する(※同性愛者の感染者が多かったのを拡大解釈)」、「発症したら治療法がない(※その当時は)」、「そんな怖い病気が世界的に流行してるらしい(※確かに感染者は増えてたが、感染経路が限定的なため、そこまで爆発的に広がりはしない)」と言った言説が独り歩きし、「よく分からないけど、すごく怖くて、人類の危機かもしれない病気」的な認識で捉えられるようになり、結果、感染者だけでなく、市井の同性愛者までもが差別されるなどの社会問題を引き起こしていた。

 で、そうした得体のしれない病気への漫然とした恐怖や、それに紐づけられたマイノリティへの差別感情だのを、割とストレートに取り入れたのが、この「レガシー・ウィルス」だった(※マーベルは伝統的に、その当時の社会問題を即座に作品に反映させる)。

 そして以降の1990年代の『X-MEN』関連誌の物語は、このレガシー・ウィルスというガジェットに牽引されていく(ちなみにレガシー・ウィルスは空気感染するので、感染力はエイズの比ではない)。

 例えば、『X-フォース』#20(3/1993)では、同誌の微妙にマイナーな敵役であるニコデマスがレガシー・ウィルスに感染した挙げ句、医師を巻き込んで爆死した(ニコデマスは爆炎の操作能力者だったが、ウィルス感染により、能力の制御が出来なくなった)。

 また『X-ファクター』#90-91(5-6/1993)では、X-ファクターがジェノーシャ島(1991年の「エクスティンション・アジェンダ」の舞台となったアフリカの孤島)を訪れた際に、モイラ・マクタガートと遭遇。彼女から不治の疾患を発症させるウィルスが蔓延しているとの報告を受ける一方、チームメンバーのマルチプルマンがウィルス感染者と接触し、感染してしまう(彼はやがて発症し、最終的に『X-ファクター』#100(3/1994)で死亡)。
 
 また1993年度に刊行された増刊号『アンキャニィX-MEN』アニュアル#17(6/1993)では、マスターマインド(ヘルファイヤー・クラブのメンバーだった、古参のX-MENヴィラン)が、『X-MEN (vol. 2)』アニュアル#2(10/1993)ではパイロ(ブラザーフッド・オブ・イビル・ミュータンツのメンバー)やレヴァンシェ(カンノン、『X-MEN(vol. 2)』#21(6/1993)でX-MENに加入した新メンバー)がレガシー・ウィルスに感染していたことが判明する(マスターマインドは『アニュアル』#17の作中で死亡)。


 こちらは「エクスキュージョナーズ・ソング」~#100までの『X-ファクター』誌を収録した『X-ファクター エピックコレクション:エグザミネーションズ』。『X-ファクター』#84-100までと、アニュアル #8を収録。

 そんな中、「エクスキュージョナーズ・ソング」完結直後の『X-MEN (vol. 2)』#17-19(12/1992-2/1993)では、ロシア出身のミュータント、ソウルスキナー絡みの事件で、ピーターとイリアナの両親がロシア軍兵士によって殺害されるという事態が起き(ロシア軍がソウルスキナーへの対抗手段として、イリアナのミュータント・パワーに目を付け、彼女を拉致しようとした結果)、事件後イリアナは再びX-マンションに移される。

 そしてこの翌月刊行された『アンキャニィX-MEN』#300(5/1993)のラストでのプロフェッサーXとモイラ(謎のウィルスについて報告しに来た)との会話シーンで、イリアナもレガシー・ウィルスに感染していることが示唆されるのだった(いきなり再登場させたと思ったら……)。


 こちらは『X-MEN エピック・コレクション:レガシーズ』の単行本(先ほど紹介した『エピック・コレクション:エクスキュージョナーズ・ソング』の続刊)。レガシー・ウィルスが猛威を振るい始めた時期の話が収録されているため、タイトルもそれを暗示している。収録作品は『アンキャニィX-MEN』#297-300(#297は「エクスキュージョナーズ・ソング」エピローグ)と、『アンキャニィX-MEN』アニュアル#17、『X-MEN』#17-23(こっちでも古参ヴィランがウィルスに感染する話アリ)、それにこの時期に新創刊された季刊誌『X-MEN・アンリミテッド』#1と、資料集『ストライフズ・ストライクファイル』#1。



▼イリアナの死とコロッサスの離反

 それから3ヶ月後の『アンキャニィX-MEN』#303(8/1993)にて、イリアナはレガシー・ウィルスが元で発症した疾患により死亡した。
 
 ——モイラ・マクタガートとプロフェッサーXによって、イリアナの治療が試みられる中(ただし、現時点ではなんら打つ手がない)、当時のX-MEN最年少メンバーのジュビリーは、病床のイリアナと親交を結ぶ。この時、X-マンションには、イリアナの旧友であるキティも滞在しており、ジュビリーは「16、17歳くらいの」キティが「7歳くらいの」イリアナと強い絆で結ばれていることに少々当惑する。——ここで、これまでのイリアナの歴史が大雑把に紹介されると共に、イリアナが幼女に戻り、それまでの記憶を失って以降も、キティは彼女と文通を続けていたことが説明される(ていうか、キティがまだ未成年なことに驚かされる)。
 やがてイリアナの容体が急変。プロフェッサーXは、地球外の未知のテクノロジーを用いてまで彼女の治療をしようとするが、結局イリアナは死亡。X-MENの任務で出動していたピーターは、妹の死に立ち会うこともできず、心から消沈するのだった。


 こちらが#303の電子書籍版。「君が今月1冊しかX-MEN関連誌を読めないなら、この本こそその1冊だ!」とかいう売らんかな精神あふれる表紙のアオリが、まあ、なんというか、1990年代的。


 このイリアナの死の翌月から、1993年度の『X-MEN』関連誌のクロスオーバー・イベント(『X-MEN』30周年記念イベントでもある)「フェイタル・アトラクションズ」が開始される(『X-ファクター』#92、『X-フォース』#25、『アンキャニィX-MEN』#304、『X-MEN(vol.2)』#25、『ウルヴァリン』#75、『エクスカリバー』#71の全6話)。

 このイベントは、ジム・リーによる『X-MEN(vol.2)』#1-3(10-12/1991)でのX-MENとの戦いで死んだと思われたマグニートーが復活を遂げ、配下のアコライツ(マグニートーを信奉するミュータントによるチーム)や、新たな腹心エクソダスと共に、X-MENと最終決戦を行う……という話。
 
 そして、このイベントの3話目である『アンキャニィX-MEN』#304(9/1993)で、イリアナの葬儀が行われる。

 ——兄、両親、妹を短期間に失い、心が折れたコロッサスは、葬儀の席上でプロフェッサーXに詰め寄り、X-MENに加入以来の彼の人生の苦難、それに妹の死はすべてプロフェッサーXに責任があると言い放つ。
 と、次の瞬間、マグニートーが式場に降臨。今こそミュータントが一致団結せねば、イリアナを襲った悲劇が繰り返されるとして、X-MENに自身の大義に加わるよう求める。そして、X-MENの理想に絶望していたコロッサスは、まんまとこの誘いに乗り、X-マンションを去るのだった……。

 続く『X-MEN(vol. 2)』#25(10/1993)で、プロフェッサーX自らが率いるX-MEN精鋭部隊は、衛星軌道上にあるマグニートーの拠点「アヴァロン」を強襲。本気で自分を殺しに来た旧友に激高したマグニートーは、磁気パワーを全開にして、ウルヴァリンの全身からアダマンチウムを引き剥がし、致命傷を負わせる。それを見たプロフェッサーXも憤り、手加減なしのテレパシーをマグニートーに放ち、親友の精神を破壊するのだった(2人の愛憎に挟まれる形になったウルヴァリンが不憫)。

 その後コロッサスは植物人間となったマグニートーの傍らに残ることを選び、X-MENは瀕死のウルヴァリンをブラックバード(X-MENの専用機)に乗せ、帰還するのだった。

 で、「フェイタル・アトラクション」のエピローグとなる『エクスカリバー』#71(11/1993)は、コロッサスに焦点が当てられ、プロフェッサーXらの要請で、キティがコロッサスをミューア島に招き、彼が過去の戦闘で負った傷の治療を行う……という話が描かれた。この時プロフェッサーXは、コロッサスを治療することで、その心を引き戻せないかと考えてたりもしたが、治療を終えたコロッサスは、アコライツに戻ることを表明。しかし教授に感謝すると共に、「妹の死はプロフェッサーXの責任である」との、先の発言を撤回する。そうしてコロッサスはキティと別れのキスをし、アヴァロンに戻るのだった。

 以降、コロッサスはアヴァロンで廃人となったマグニートーの世話をしつつ、仲間が裏切りの咎で裁判にかけられた時には、彼の弁護を買って出るなど(『アンキャニィX-MEN』#315
(8/1994)での出来事)、アコライツの穏健派として描かれる。


 こちらは『フェイタル・アトラクションズ』のストーリーをまとめた電子単行本。「フェイタル・アトラクションズ」の全話と、関連作として『アンキャニィX-MEN』#298-300、303と『X-MENアンリミテッド』#2、それにアコライツとなったコロッサスの主役回である#315も収録。


 こちらは「エピック・コレクション」版『フェイタル・アトラクションズ』の単行本。『アンキャニィX-MEN』#301-306と、『X-MEN(vol. 2)』#24-25、『X-MENアンリミテッド』#2、それに『ウルヴァリン』#75、あと同時期のリミテッド・シリーズ『ガンビット』#1-4と、資料集『X-MEN:サバイバル・ガイド・トゥ・ジ・X-マンション』を収録。
 なお、こっちの単行本には「フェイタル・アトラクションズ」の『X-ファクター』『X-フォース』『エクスカリバー』のパートは未収録なので注意(「エピック・コレクション」は『アンキャニィX-MEN』と『X-MEN』の網羅を主眼としてるので、案外他の関連誌は漏れる)。


▼その後のコロッサス

  そろそろ飽きてきたので、駆け足でいく。
 
 翌1995年の『X-MEN(vol. 2)』#42-44(7-9/1995)で、並行世界から到来した凶悪なミュータント、ホロコースト(直前まで刊行されていた、'95年度の『X-MEN』関連誌のクロスオーバー・イベント『エイジ・オブ・アポカリプス』で初登場)とエクソダスが交戦したことでアヴァロンが大破し、アコライツの面々は散り散りに地球に降下する。

 この時コロッサスは、脱出ポッドにマグニートーを乗せて地球に降下。やがて南極に不時着した彼は、モーロックスの元リーダー、カリスト(※ピーターとは過去に色々と縁がある)に救助されるものの、マグニートーはいずこかへ姿を消していた。

 そして翌月の『アンキャニィX-MEN』#325(10/1995)で、コロッサスはカリストと共にX-マンションを訪れる(南極からどうやって来たのかは不明)。

 そもそもカリストは、先のモーロックスの集団入水自殺の際に、ミハイル・ラスプーチンと共に死んだはずだったが……実は彼女らは全員、死ぬ直前にミハイルの超能力により、異世界に転送されていたのだった。
 しかも昨今、ニューヨークで暴れ回っているミュータント・テロリスト集団「ジーン・ネイション」(2000年リリースの格闘ゲーム『MARVEL VS. CAPCOM 2』にも登場するマロウがリーダー)は、時間の流れの異なる異世界で成長した、新世代のモーロックスたちであった……という衝撃の事実から、またぞろモーロックスの内紛劇の話が始まるが、コロッサスとは関係ないので略。

 こちらはコロッサスが意識不明のマグニートーの身体を抱えて右往左往してる表紙でおなじみ『X-MEN(vol. 2)』#44の電子書籍版。

(※この辺の時期の『X-MEN』、『アンキャニィX-MEN』他を収録した、ヘル分厚いハードカバー、『X-MEN:ロード・トゥ・オンスロート・オムニバス』が2024年12月に発売予定)


▼その後のキティとエクスカリバー

 他方、『エクスカリバー』誌で活躍していたキティは、同誌の#88-90(8-10/1995)にかけて、諜報機関ブラックエアー絡みの任務で、元ブラックエアーの工作員ピート・ウィズダム(当時の『エクスカリバー』誌のライター、ウォーレン・エリスが得意とする「無精ヒゲの不良スコットランド人」キャラクター。本名はピーター・ウィズダムだが、コロッサスと名前が被ってるので、本稿では愛称の「ピート」で統一する)と共闘。この事件を経て、彼と“良い仲”になる。


 ちなみにウォーレン・エリスは人気作家だった(過去形)ので、エリス期の『エクスカリバー』をまとめた単行本『エクスカリバー ビジョナリーズ:ウォーレン・エリス』 全3巻なんてのも刊行されている。上の第1巻は、『エクスカリバー』#83-90と、特別号『X-MENプライム』の関連するページを収録。キティと一緒に表紙を飾ってるのがピート・ウィズダム。


 で、続く『エクスカリバー』#91(11/1995)で、エクスカリバーの飲み会に出席したピートは、他のチームメンバーからエクスカリバーへの加入とキティとの交際を認められる。

※チーム全員+ピートで飲みに行ったら、あんま場の空気を読まないモイラが、「で、2人は付き合ってんの?」とか言い出し、他のメンバーが殺気立つ中、キティがピートへの好意を打ち明ける。その後ピートを良く思ってないナイトクロウラー、キャプテン・ブリテンらが彼をトイレに連れ込み、「キティを泣かすんじゃないぞ」と詰め寄りつつも、メンバーとして迎え入れる……という、ステレオタイプな展開。
 
※どうでもいいが、この#91で、キティが飲酒をしてると思しき描写がある。ついに成人したか。


 でもって同号は、コロッサスがミューア島に上陸するという不穏な場面で幕を閉じる(ちなみにこの号が刊行されたのは、先述した『アンキャニィX-MEN』#325の翌月。現実の世界では3ヶ月だが、作中ではごく短期間に成層圏→南極→アメリカ→イギリスと渡ってきたことになる。移動手段は謎だが)。

 そして続く『エクスカリバー』#92(12/1995)でピーターは、ピートを「愛するキティを僕から奪ったロクデナシ男」と決めつけ、彼をガチで殴って致命傷を負わせる(幸い、世界有数の医師であるモイラのお陰で生命を取り留めた)。

 キャプテン・ブリテン、ミーガンの2人の全力パンチで気絶させられ、能力抑制装置を着けられた上で檻に入れられたコロッサスは、「僕は僕のキティに逢いに来ただけだ」「そしたらあのロクデナシが僕のキティに手を出していた」「キティは僕を愛している。なぜなら僕がアヴァロンに行く時にキスをしてくれたから」などと身勝手なことをまくしたてた結果、旧友のナイトクロウラーに「そこまで子供だったとは知らなかった」と呆れられ、さらにキティに「ピートは優しくしてくれる」と告げられ、ようやく正気に戻る(個人的には、この辺の展開は、ウォーレン・エリスがピート・ウィズダムを持ち上げるために、コロッサスのキャラクターを「身勝手な子供」に捻じ曲げてる感じで、ちょっと引く)。

 コロッサス大暴れ回を収録した『ビジョナリーズ:ウォーレン・エリス』第2巻。『エクスカリバー』#91-95と、『X-マン』#12(『エクスカリバー』#95とクロスオーバー)、それに同時期にエリスが手掛けた(『エクスカリバー』は無関係な)リミテッド・シリーズ『スタージャマーズ』#1-4を収録。


 この後、檻の中で反省したコロッサスは、ナイトクロウラーの勧めでエクスカリバーに加入。その後チームメイトのミーガンに惹かれるものの、ミーガン自身は彼を「(当時チームから離れていた)恋人のキャプテン・ブリテンに代わって支えてくれる、良いお友達」という認識だったため、それ以上は進展せずに終わる。

『ビジョナリーズ:ウォーレン・エリス』第3巻。『エクスカリバー』#96-103(#103でエリスはライターを降板)と、エリスによる1996年のリミテッド・シリーズ『プライド&ウィズダム』#1-3(無論キティとピートが主役)を収録。


 一方で、キティとピート・ウィズダムの関係も良好には進展せず、結局、エリス降板後の『エクスカリバー』#120(5/1998)で、ピートはキティと別れ、チームを去る。

 その後『エクスカリバー』誌は、#125(10/1998)で最終回を迎え、ミーガンは#124で帰還したキャプテン・ブリテンと結婚式を挙げる(めでたい)。

 ちなみに、『エクスカリバー』#103でエリスが降板して以降の同誌は、「エピック・コレクション」版で全話まとめられている。こちらの『エクスカリバー エピック・コレクション:ザ・バトル・フォー・ブリテン』は『エクスカリバー』#104-115と、リミテッド・シリーズ『キティ・プライド:エージェント・オブ・S.H.I.E.L.D.』#1-3(久しぶりにオグンが復活)、それに後述する『ニューミュータンツ:トゥルース・オア・デス』#1-3(当時の『エクスカリバー』のライター、ベン・ラーブがライターで、エクスカリバーのウルフスベーンとダグロックも主役を務める)を収録。


 最終巻である『エクスカリバー エピック・コレクション:ユー・アー・コーディアリー・インバイテッド』。『エクスカリバー』#116-125と『X-MENアンリミテッド』#19(ナイトクロウラーの主役回)、それに1999年のリミテッド・シリーズ『X-MEN:トゥルー・フレンズ』#1-3(元エクスカリバーのキティとフェニックス(レイチェル・サマーズ)が、過去に飛んで冒険を繰り広げる)、2001年のリミテッド・シリーズ『エクスカリバー(vol. 2)』#1-4(キャプテン・ブリテンと妹のサイロック、ミーガンらによる新チームの話)を収録。


 そして、#125をもってエクスカリバーが解散したため、キティ、コロッサス、ナイトクロウラーの3人はアメリカに戻った……のだが、『エクスカリバー』最終号と同月に刊行された『アンキャニィX-MEN』#360(10/1998)で、キティ、コロッサス、ナイトクロウラーは早くも(早すぎる)X-MENに復帰している。

 で、それから2年半ばかり、コロッサスはX-MENの一員として、普通に活動を続けてく(もう面倒なので細かな話はしない)。


 なお、コロッサスがエクスカリバーの一員として活躍していた1997年に刊行された全3話のリミテッド・シリーズ『ニューミュータンツ:トゥルース・オア・デス』#1-3(11-12/1997, 1/1998)では、唐突にミハイル・ラスプーチンがレガシー・ウィルスに感染していることが判明。色々あって彼とニューミュータンツが過去を変えようとした結果、過去のイリアナが現代のミハイルのレガシー・ウィルスに感染してしまう……というパラドキシカルな事態が起きている(つまりイリアナが死んだのは兄からうつされたウィルスが原因。余分なことしかしねぇな、この兄貴は)。


 『ニューミュータンツ:トゥルース・オア・デス』は単独で単行本化されてないが、全3話と短いので、単話版を電子書籍で買うのが安上がりでいいだろう。


▼「レボリューション」と一時代の終焉

 やがて20世紀も終わろうとする中、コロッサスとキティは、真面目にX-MENとして活動を続けてくのだが、一方でこの時期の『X-MEN』関連誌は右肩下がりにセールスが落ちており(まあ、1990年代のセールスが異常だっただけではある)、編集部はその打開策として2000年初春に、一大テコ入れ企画「レボリューション」を行う。
 
 これは、当時刊行されていた全ての『X-MEN』関連誌(『ケーブル』#79、『ジェネレーションX』#63、『X-MEN(vol. 2)』#100、『ガンビット』#16、『ウルヴァリン』#150、『X-フォース』#102、『X-MAN』#63、『アンキャニィX-MEN』#381。それぞれ表紙に「レボリューション」のロゴが配されている)の冒頭で、「前号の話から6ヶ月後」に話が飛び、新キャラクターがシレッとチームに加入していたり、旧来のメンバーが行方不明になったりといった、飛躍した展開で読者の興味を惹く……というもの(本編と並行して、「空白の6ヶ月間」に起きた事件を描いたリミテッド・シリーズなども挟み、さらに読者の興味をあおる)。

 加えて、『アンキャニィX-MEN』と『X-MEN(vol. 2)』の新ライターとして、かのクリス・クレアモントが起用され、一方で『ジェネレーションX』、『X-フォース』、『X-MAN』の3誌をウォーレン・エリスが担当し、往時の『X-MEN』人気の立役者であるクレアモントと、新進気鋭のエリスの二枚看板で『X-MEN』関連誌を盛り上げていこうとした。


 で、まあ、結論から言えば、この「レボリューション」展開は失敗した。
 

 実際の売り上げの数字やファンの反応などは調べてないのだが、事実として『X-MEN』編集部は、半年くらいで「レボリューション」路線に見切りをつけ、『X-MEN』2誌で展開されていた物語を畳みに入ると共に、『ジェネレーションX』、『X-フォース』、『X-MAN』他のタイトルの打ち切り準備に入る。

 その後『X-MEN』編集部は、新たなテコ入れ策を考えた末に、グラント・モリソンという従来の『X-MEN』とは何の接点もない作家をDCコミックス社から引き抜き、『X-MEN』を好き勝手に書かせるという、まあ、思い切った施策を打ち出す。
 
 そうして翌2001年初夏から、『X-MEN(vol. 2)』誌は『ニューX-MEN』と改題。モリソンによる新生X-MENがスタート。幸いにもモリソン起用によるテコ入れは一定の成功を収め、2000年代の『X-MEN』関連誌の復興に繋がるのだった。


 上は「レボリューション」展開期に刊行された『X-MEN(vol. 2)』#100の単話版電子書籍。表紙を「レボリューション」のロゴが飾り、新デザインのコスチュームに身を包んだメンバーが集結する表紙に、当時の編集部の意気込みを感じる。

 ちなみに「レボリューション」期のクレアモントによる『X-MEN』2誌は、18年後に分厚いハードカバー『X-MEN:レボリューション バイ・クリス・クレアモント オムニバス』にまとめられた。
 収録作品は『X-MEN(vol. 2)』#100-109、同アニュアル2000、『アンキャニィX-MEN』381-389、『X-MENアンリミテッド』27-29、それにリミテッド・シリーズ『X-MEN:ブラックサン』#1-5と、ストーリー的に関連している『ビショップ:ザ・ラストX-MAN』#15-16、『ケーブル』#87。

 ……ただこの本、電子書籍化されておらず、現行「レボリューション」期の『X-MEN』をキチンと追うには、単話版の電子書籍を買ってくしかない模様。


 ちなみに『X-MEN』編集部は、鳴り物入りで呼び戻したクリス・クレアモントを半年で降板させるのは無礼だと思ったか、モリソンによる『ニューX-MEN』の始動と並行して、クレアモントがライターを務める新オンゴーイング・シリーズ『エクストリームX-MEN』も創刊している(結果、2001年の『X-MEN』本誌は、モリソンの『ニューX-MEN』、ジョー・ケイシーの『アンキャニィX-MEN』、クレアモントの『エクストリームX-MEN』という、3誌体制となる)。

 で、クレアモントの『エクストリーム』誌は、ストーム、ローグ、サイロック、ビショップといった、クレアモント好みのメンバーを中心に編成された独立チームが、予言能力者ディスティニーの残した日誌を探し、世界中を巡る……という内容となった。モリソンが改革を進める『ニューX-MEN』とはそれほど接点を持たない独立したチームを主役にして、大御所クレアモントに自由に書かせてる感じのシリーズと言えば分かりやすいか。

 そんな自由さもあってか、このシリーズは好評を博し(『ニューX-MEN』に違和感を感じた旧来のファンが、おなじみの「クレアモント節」を摂取できる、という需要もあった?)、全46話で大団円を迎えた(モリソンの『ニューX-MEN』の完結と大体同タイミング)。

 で、『エクストリームX-MEN』は、好評だったので、全話が単行本化されている(人気は大事だ)。上はその第1巻で、同シリーズの#1-9を収録。「レボリューション」期の黄色の面積が多いコスチュームや、モリソン期のレザー&黄色のコスチュームに対して、赤と黒のコスチュームが独自性を主張している。


 ちなみに『エクストリームX-MEN』の単行本は全8巻なのだが、このうち第4巻は、『エクストリームX-MEN』とは関係なしに、同時期にクリス・クレアモントが手掛けたリミテッド・シリーズ『メカニクス』#1-4(キティが主役)と、やはり同時期の『X-MENアンリミテッド』#36にクレアモントが書いたキティ主役の短編を収録した、「キティ特集巻」となっている。

※余談ながら『アンリミテッド』#36の短編では、キティの父親がジェノーシャで起きたテロ(モリソン期の『E・イズ・フォー・エクスティンクション』で起きたアレ)で死亡していたことが判明している。つらい。
 なおこのエピソードは、1999年の『X-MENアンリミテッド』#23(6/1999)で、キティの父親がジェノーシャにいることが言及されてたのを拾いつつ、モリソンの『ニューX-MEN』の展開に絡めたもの。こういう小ネタの拾い方がクレアモントっぽい。


 話をレボリューション期に戻す。

 で、「レボリューション」展開を早々に切り上げるように指示されたクレアモントらは、『アンキャニィX-MEN』#388(1/2001)、『ケーブル』#87(1/2001)、『ビショップ:ザ・ラスト・X-MAN』#16(1/2001)、『X-MEN(vol. 2)』#108(1/2001)の全4話にまたがるラストエピソード、「ドリームズ・エンド」を手掛ける(『ケーブル』はロバート・ウェインバーグ、『ビショップ』はスコット・ロブデルがライターを担当)。
 
 ——色々あって「人類滅ぶべし」と結論したミュータント活動家のミスティークは、セイバートゥース、トード、ブロブらと共に、ブラザーフッド・オブ・ミュータンツを再編成する一方で、「人間だけが罹患する」特性を持ったレガシー・ウィルスの変異株を作り出し、人類殲滅に乗り出す。
 やがてブラザーフッドは、反ミュータント派のロバート・ケリー大統領候補の演説会を襲撃するが、それは陽動であり、ミスティークの真意はミューア島のモイラ・マクタガートの暗殺にあった。
 X-MENはチームを二手に分け、大統領候補を守るものの、ミューア島は大規模な爆発により壊滅。致命傷を負ったモイラはしかし、ミスティークの持つ変異株を利用したレガシー・ウィルスの治療薬の製法を思いつく。
 やがてビショップ、ウルヴァリン、ローグらの活躍により、ミスティークは倒され、変異株は確保される。そして瀕死のモイラは、プロフェッサーXとテレパシーで接触し、治療薬の製造法を託して死亡するのだった(なお、ケリー候補は、病魔に侵された身体をおしてブラザーフッドに立ち向かったパイロに心を打たれ、ミュータントとの協調を誓うが、直後、一般人に「人類の裏切者」として射殺された)。

 こちらは「ドリームズ・エンド」の電子版単行本。収録作品は、『アンキャニィX-MEN』#388-390、『X-MEN』#108-110、『ケーブル』#87、『ビショップ』#16。「ドリームズ・エンド」本編とその後に続くエピローグ的な話を収録。


▼レガシー・ウィルスの最期

 「ドリームズ・エンド」後にクレアモントが降板した後、両誌のライターには1990年代の『X-MEN』関連誌で辣腕を振るったスコット・ロブデルが復帰し、彼なりのエピローグを書いていく。

 でー、やがて刊行された『アンキャニィX-MEN』#390(3/2001)で、1990年代を席巻したレガシー・ウィルスという存在に、決着が付けられることとなる。

 ――モイラ・マクタガートが遺した製法を元に、遂にビースト(ハンク・マッコイ)は、レガシー・ウィルスの治療薬の合成に成功する。この治療薬は、任意のミュータントに投与すると、その体内でウィルスの抗体が生成され、その抗体は空気感染でたちまち世界中に広がっていく……という非常に便利な代物であったが、「治療薬を打たれたミュータントは死ぬ」という致命的な弱点を抱えていた。
 で、ビーストは、犠牲者を出さずに抗体を生成する手段が見つかるまで、治療薬を封印することとするが、レガシー・ウィルスの根絶を強く望むコロッサスは治療薬を自身に投与し、ミュータント種の未来のために犠牲となるのだった……。

 かくて、1990年代の『X-MEN』誌を席巻していたレガシー・ウィルスと、それに翻弄され続けたコロッサスというミュータントの物語はここに終焉を迎える。

 同月に刊行された『X-MEN(vol. 2)』#110(3/2001)は(こちらもロブデルがライター)、キティの主役回で、ロシアに渡りコロッサスの遺灰を撒いた彼女が、その後実家のシカゴに戻り、地元大学へ進学する……という話が書かれた。

※この後キティはしばらく普通の学生生活を送りつつ、2002年のリミテッド・シリーズ『メカニクス』(クレアモント作)では、大学を襲った反ミュータント主義者や、ミュータント捕獲用ロボット・センチネルに立ち向かう。それから末期の『エクストリームX-MEN』(クレアモント作)で、X-MEN別動隊に協力した後、『アストニッシングX-MEN』で、本格的にX-MENに復帰。
 
 また『アンキャニィ』#390、『X-MEN』#110と同月に刊行された『X-MENアンリミテッド』#30(3/2001)は、表紙のイラストがビートルズの「アビィ・ロード」のジャケットのパロディになっていたのだが、そのイラストの「前から3番目」(死んだジョン・レノンの立ち位置)にコロッサスが描かれていたことから、これが彼の死を暗示しているとして、ニュースサイトなどで話題となった。

 で、レガシー・ウィルスにケリを着けたロブデルは、翌月から彼にとっての最終章となる「イブ・オブ・デストラクション」を展開する(『X-MEN(vol. 2)』#111-113(4-6/2001)、『アンキャニィX-MEN』#392-393(5-6/2001)の全5話)。

 ——世界中のミュータントがレガシー・ウィルスから解放された結果、現在マグニートーが統治するミュータント国家ジェノーシャ(世界中からレガシー・ウィルス罹患者が送り込まれていた)は、健康なミュータントで溢れかえることとなる。これを好機と見たマグニートーは、彼らを軍勢として率い、ミュータントの勢力拡大を目論む。……が、最終的にその野望はプロフェッサーX率いるX-MENに防がれるのだった。

※ちなみにこの戦いでマグニートーはウルヴァリンに腹を刺され、「死んだ」っぽい描写をされたが、直後のモリソン期で生き延びていたことが判明した(が、その直後にカサンドラ・ノヴァによるテロでまた死ぬ)。


 なお、「イブ・オブ・デストラクション」は、当時ハードカバー&ソフトカバーの2種で単行本化されたものの、それらの電子書籍化はされていない(上はソフトカバー版へのリンク)。

 と、まあそんな具合に、クレアモントとロブデルによって、1990年代の『X-MEN』の物語はひとまずの幕が引かれ、レガシー・ウィルスや、マグニートーによるジェノーシャ支配なんかの「残っていた宿題」にも一応の決着がつけられ、グラント・モリソンにバトンが引き継がれるのだった。

 ……まあ、モリソンは託されたバトンのうち、ジェノーシャについては「ジェノーシャという国家がテロで消滅する」という、ロクでもない受け継ぎ方をしたが。

 んで、続くモリソン期の間は、コロッサスは「死んでいた」訳だが、モリソンが去った後の『アストニッシングX-MEN』で、「異星人の機械のすごい効果で生き返った」ことにされ(火葬されて遺灰も撒かれたのに?)、キティ共々X-MENに復帰する。

 そして『アストニッシングX-MEN』#13(4/2006)で、もはや互いに成人しているキティとコロッサスは遂に「その時」を迎える(この時キティが、かつてのブルードの事件について言及してるのが細かい)。

 で、続く『アストニッシングX-MEN』#14(6/2006)で、キティは「ピーターに驚かされたはずみに全裸で物質通過してしまい、下の階に落ちる」とかいう失敗をしつつも(ナニに驚いたのやら)、無事にすべきことをする。

 ――翌朝2人揃って食堂に行ったら、すでにウルヴァリン叔父さんが朝食を食べていて、2人をまじまじと見つめた末に「まあ、頃合いだな」とコメントする。


 でー、その後もキティとコロッサスはくっついたり離れたりを繰り返し(一時ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのスターロードことピーター・クイルとキティが婚約したりもした<またピーターか)、紆余曲折を経て、2018年には婚約にまでこぎつけるのだが……。


▼余談

 スコット・ロブデルによって劇的に死なされたイリアナは、2007年の『ニューX-MEN(vol. 2)』#37-41(6-10/2007)で展開された「ザ・クエスト・フォー・マジック」編の中で、ベラスコの魔術によって蘇生された。——厳密には彼女は、魂の欠けた「マジックの複製」であったが。

 しかしその後のリミテッド・シリーズ『X-インフェルノス』#1-4(1-4/2009)の中で、マジック(の複製)は、イリアナの魂の破片で作られたソウルソードを入手した結果、いくらかの人間性を回復し、以降はなんやかやで「本物のマジック」とみなされるようになった。

 こちらはマジックの復活関連の話を網羅した単行本、『ニューX-MEN:クエスト・フォー・マジック ザ・コンプリート・コレクション』。『ニューX-MEN』#33-39、#40-42、#43と、『X-インフェルノス』#1-4、『X-MENアンリミテッド』#14掲載の短編他と『X-MEN:ディバイデッド・ウィー・スタンド』#2を収録。


 また、クリス・クレアモントによって劇的に死なされたモイラ・マクタガートは、2019年に展開された『ハウス・オブ・X/パワーズ・オブ・X』の作中で、生きていたことが判明する(しかもプロフェッサーXの手を借りて死を偽装していた。<「ドリームズ・エンド」でモイラの生死にえらく動揺してたプロフェッサーXの描写が割と台無し)。

※詳しくは、現在、小学館集英社プロダクションから邦訳版が刊行されている、ジョナサン・ヒックマンによる『X-MEN』関連誌を参照。


 以上。

 コロッサスが死ぬまでの話を簡単にしたいだけだったのに、なぜこんなに長くなるのか。
  

 今回、コロッサスとキティが別れて以降の話は、有料noteにでもしようかと思ったが、まあ、やめておく。代わりに以下に、「この続き:0文字」な、有料のアレを置いとくので、投げ銭くれ(堂々たる要求)。

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