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■アイアンマン:エクストリミス

■Iron Man: Extremis
■Writer:Warren Ellis
■Artist:Adi Granov
■翻訳:クリストファー・ハリソン ■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:‎ B09SH4QJL3

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第3号は、一連の映画シリーズで、今やマーベルの顔となったアイアンマン(トニー・スターク)の、近年を代表する作品であり、『アイアンマン』のコミックのオールタイム・ベストの1つである『エクストリミス』をピックアップ。

「新たな時代の幕開けにふさわしいアイアンマンの物語をライター、ウォーレン・エリスとアーティスト、アディ・グラノフがタッグを組み、緻密に描き出す。──恐ろしいテクノロジーが人類を脅かす! 誰も見たことのない新技術『エクストリミス』とは果たしてなんなのか? そして一体誰が解き放ったのか? 世界にとってなにを意味するのか?」(第3号表4あらすじより抜粋)

 ちなみに、日本版「マーベル グラフィックノベル・コレクション」全100巻中、『アイアンマン』の単独の単行本は、この『エクストリミス』と、古典的名作『デーモン・イン・ア・ボトル』、それにスタン・リー時代の『トラジェディー&トライアンフ』の3冊が予定されている。

 ……個人的には、近年の名作がもう1、2冊ラインナップに欲しかった感もあるが(朋友のキャプテン・アメリカは、『ウィンター・ソルジャー』『ニュー・ディール』、『ザ・チョーズン』と、近年の名作が3作も刊行予定なので)。

 なお、本作の原本である『Iron Man: Extremis』は、過去には2013年にヴィレッジブックスより、『アイアンマン:エクストリミス』として刊行されていたが、今回は訳を一新してのリリースとなる。上はヴィレッジブックス版。

 あとどうでもいいが、2014年頃にマーベルが独自にリリースしていた電子書籍アプリ「Marvelグローバルコミック」でも、『エクストリミス』が和訳されていた気がするが、このアプリ、1年ほどで消えてしまったせいもあって、ほとんど記録が残っていないため、筆者の「確か『エクストリミス』を見たと思う……」程度のうろ覚えの記憶で記述している(じゃ、書くな)。

 収録作品は、2004年創刊の『アイアンマン(vol. 4)』#1-6(1-3/2005, 10/2005, 3-4/2006)。

 余談ながら、マーベル・コミックス社の場合、実際にコミックが発行された月と、コミックのクレジットに記載されている「発行月」とでは2ヶ月程ずれが生じる。そのため、本シリーズの創刊号の発行月は「1/2005」となっているものの、実際にコミックブックが刊行されたのは2004年11月であるため、本シリーズはあくまで2004年創刊である(強調)。また、本シリーズは月刊のシリーズであるが、製作の遅れにより、4号の刊行が7ヶ月遅れ、続く5号も5ヶ月の間を開けて刊行された。

 この刊行の遅れの影響で、同時期に刊行されていたアイアンマンが中核メンバーを務める『ニューアベンジャーズ』や、大型イベント『ハウス・オブ・M』との時系列が前後してしまうという事態が生じている。

 具体的に、『エクストリミス』前後のアイアンマンとアベンジャーズ絡みのストーリーを時系列順に書いていくと、以下のような具合になる(刊行順ではない点に注意)。

「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」:2004~2005年にかけて『アベンジャーズ(vol. 1)』誌を中心に展開されたストーリーライン(上に貼ったのはヴィレッジブックスから2019年に刊行されていた邦訳版へのリンク)。とあるメンバーの超能力の暴走により、アベンジャーズから複数の死者が出る事件が勃発。辛うじてこの状況に収拾を付けたアベンジャーズは、解散を決定する。

・「シンギュラリティ」:『アイアンマン(vol. 3)』#86-89(9-12/2004)にかけて展開された、「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」の後日談。トニー・スタークを逆恨みする男が、偽のアイアンマン・アーマーをまとい、スタークの親しい人々を襲う。この事件で心に傷を負ったトニー・スタークは、表面上はアイアンマンを引退する旨を発表することで、身内が狙われることを防ぐ。そしてこのエピソードをもって、『アイアンマン(vol. 3)』は終了する。
  なお上記の単行本『アベンジャーズ・ディスアセンブルド:インビンシブル・アイアンマン』は、「シンギュラリティ」編に加え、「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」の前日譚である「ターフ・ウォー」編(『アイアンマン(vol. 3)』#84–85(8/2004、隔週刊)も収録。

・「ブレイクアウト」:2005年末に創刊された『ニューアベンジャーズ』誌の最初のストーリーライン。『ニューアベンジャーズ』#1-6(1-6/2005)を収録(「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第32号収録予定。上に貼ったのは2010年にヴィレッジブックスから刊行された邦訳版)。スーパーヴィラン専門の刑務所での暴動事件を機に、新生アベンジャーズが創設。アイアンマンもこの新チームに参加する。

 この『ニューアベンジャーズ』誌は、『アイアンマン(vol. 4)』と同時期に始まったシリーズなのだが、「エクストリミス」の刊行が遅れたために、こちらのストーリーラインの方が、時系列的には先に起きたことにされた(『ニューアベンジャーズ』作中のアイアンマンは、『エクストリミス』作中で初登場する、「エクストリミス・アーマー」よりも1世代古いタイプのアーマーを着ているため、時系列的に先にせざるを得ない)。

・「ハウス・オブ・M」:2005年夏に行われたマーベルの大型クロスオーバー・イベント。全8号(8-12/2005、だいたい隔週刊。「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第35号に収録予定。上に貼ったのはヴィレッジブックスから2010年に刊行された邦訳版)。「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」の続編。アベンジャーズの元メンバーであるスカーレット・ウィッチの暴走により、世界がその姿を変える。時系列的には、『ニューアベンジャーズ』の#10と#11の間に起きた出来事とされる。
 ちなみに本イベンの展開中に、ようやく『アイアンマン(vol. 4)』の第4号(エクストリミス・アーマーの初登場回)が出たくらいなため、『ハウス・オブ・M』作中に登場するアイアンマン・アーマーは、やはり1世代古いバージョンである(=時系列的に、こちらが先に起きた扱いになる)。

・番外:「ハウス・オブ・M:アイアンマン」:『ハウス・オブ・M』とのタイインで、リミテッド・シリーズ『ハウス・オブ・M:アイアンマン』#1-3(9-11/2005)が刊行された。ただし、こちらは「ハウス・オブ・M」事件で誕生した平行世界のアイアンマンが主役の物語であり、『アイアンマン(vol. 4)』の本編とは関係がない。
 上に貼った『ハウス・オブ・M:ファンタスティック・フォー/アイアンマン』は、リミテッド・シリーズ『ハウス・オブ・M:ファンタスティック・フォー』とのカップリングで刊行された単行本(それぞれ全3話なので、単体で単行本にするにはページが足りない)。

・「エクストリミス(本作)」:おそらくは『ニューアベンジャーズ』#15と#16の間くらいの時期に起きた出来事であると思われる。

・「コレクティブ」:『ニューアベンジャーズ』#16-20(4-8/2006)で展開されたストーリーライン(上に貼ったのはヴィレッジブックスから2011年に刊行された邦訳版)。
 この話でようやく『ニューアベンジャーズ』誌上にエクストリミス・アーマーを着たアイアンマンが登場するため、『エクストリミス』の後の話だと判断できる。

・「エグゼキュート・プログラム」:『アイアンマン(vol. 4)』#7-12(6/2006-11/2006)にかけて展開されたストーリーライン。何者かによって、トニー・スターク自身とアイアンマン・アーマーが遠隔操作される事件が勃発。トニー・スタークは己と己の発明品を敵に回しつつ、黒幕を追う。なお、#7からはダニエル&チャールズ・カウフ(ライター)、パトリック・ツィルヒャー(ペンシラー)という体制になる。
 時系列的には「コレクティブ」の前後のどちらにも挿入可能なエピソード。本稿ではなんとなく、刊行の早い「コレクティブ」の方を先に置いた(いい加減)。

・「シビル・ウォー」:2006-2007年に刊行された『シビル・ウォー』#1-8(7-12/2006-1/2007)を核とする、大型クロスオーバー・イベント。アメリカ政府の施行した「超人登録法」の施行を巡り、ヒーロー・コミュニティがアイアンマンら登録法推進派と、キャプテン・アメリカら登録法反対派とに分かれ、対立する。
 「マーベル グラフィックノベル・コレクション」では第39巻に収録予定。上に貼ったのはヴィレッジブックスから2011年に刊行された邦訳版。

・「アイアンマン:シビル・ウォー」:『アイアンマン(vol. 4)』誌は、「エグゼキュート・プログラム」終了直後の#13-14(12/2006-1/2007)で「シビル・ウォー」とタイイン。それらの話は単行本『アイアンマン:シビル・ウォー』としてまとめられた(上に貼ったのはヴィレッジブックスから刊行されていた邦訳版の、2016年に再刊されたバージョン)。

 収録作品は『アイアンマン』#13-14に加え、増刊号『アイアンマン/キャプテン・アメリカ:カジュアリティーズ・オブ・ウォー』#1(2/2007、「シビル・ウォー」のさなか、アイアンマンとキャプテン・アメリカが2人だけで対話を試みる話)と、『シビル・ウォー:ザ・コンフェッション』#1(5/2007、「シビル・ウォー」の終結後、アイアンマンとキャプテン・アメリカ、それぞれの「告白(コンフェッション)」に焦点を当てた事実上のエピローグ)。

 ……と言った具合になる。

 まあ、『アイアンマン:エクストリミス』は時系列にこだわることなく、独立した物語として読める作品だが、こういった他誌との流れの中で起きた物語であることを知っておくのも、アメリカン・コミックスの楽しみのひとつではある。


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