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■キャプテン・アメリカ:ニューディール

■Captain America: The New Deal
■Writer:John Ney Rieber
■Penciler: John Cassaday
■翻訳:クリストファー・ハリソン ■監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:B0B6Q8XCDV

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第14号は、2002年に創刊された『キャプテン・アメリカ(vol.4)』誌の最初のエピソードである、「エネミー」全3話と、2番目のエピソード、「ウォーローズ」全3話をまとめた単行本、『キャプテン・アメリカ:ニューディール』を邦訳。

 収録作品は『キャプテン・アメリカ(vol.4)』#1-6(6-10, 12/2002)。

911同時多発テロ後のアメリカ。テロの猛威にさらされたこの国は、尊敬すべき偉大な人物を必要としている。正義のために戦う最高の存在、その男こそスティーブ・ロジャースであり、またの名をキャプテン・アメリカ! その強靭な肉体と精神でテロリズムの恐怖を一掃する方法を見いだすことはできるのだろうか?(第14号表4あらすじより抜粋)


 なお、この『ニューディール』は、かつては2011年にヴィレッジブックスから『キャプテン・アメリカ:ニューディール』として刊行されていた(収録内容は同じ)。

 さすがに今では絶版だが、まあ、翻訳的にはヴィレッジ版の方がこなれているので、古本屋などで適価で見かけたら買っておくのもいいだろう。


 なお、本作の掲載誌である『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』誌は、1998年に創刊された『キャプテン・アメリカ(vol. 3)』誌が、50号に達したのを機に2002年にリニューアルしたもので、当時、マーベルが青年層向けに刊行していたレーベル「マーベル・ナイツ」の作品としてスタートした。

 まあ、青年向けと言っても、レーティング的には『キャプテン・アメリカ(vol. 3)』と同じく、「PG(Parental Guidance/保護者の指導を要する)」もしくは「PGR(Parental Supervision Recommended/保護者の監督を要する)」で、特にアダルティな話をしている訳ではない。

 ていうかマーベル・ナイツから出るようになった理由は、当時のマーベルの社長のビル・ジェイマスが「『デアデビル』がマーベル・ナイツから出るようになったことで活気を取り戻したのだから、『キャプテン・アメリカ』もマーベル・ナイツから出せば活気づくはずだ!」と、前々から言っていたのを容れた程度のことらしい。

 ちなみに、『キャプテン・アメリカ(vol. 3)』#50の後半で、キャプテン・アメリカは仇敵レッドスカルとの戦いで爆死し、作中で葬式まで上げられていたのだが、『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』#1は、スティーブ・ロジャース(キャプテン・アメリカ)が普通に生きているところから始まり、#50の展開は無視された。

 で、こちらは『ニューディール』に続くシリーズ第2巻『キャプテン・アメリカ:エクストリミスツ』。収録作品は『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』#7-11。旧友イナリ・レッドパスの殺人事件を追うことになったキャプテン・アメリカは、狂奔したシールドのエージェント、バリケードを打ち倒しつつ、アメリカに革命をもたらそうとする何者かの陰謀に巻き込まれていく。

 なお、タイトルの「エクストリミスツ」は「過激論者」のことで、アイアンマンのガジェットである「エクストリミス」とは無関係。

 ちなみに創刊号からのライターであったジョン・ネイ・リーバーは、この「エクストリミスツ」の途中でライターを降板し、残されたプロットを元にチャック・オースティンが「エクストリミスツ」の残りの話を書き上げると言うことをしている。

 後年、リーバーが語ったところによれば、リーバーの持つ「キャプテン・アメリカ観」と、マーベル・ナイツの責任者であるジョー・カザーダの持つ「キャプテン・アメリカ観」との間に大きな隔たりがあり、カザーダの要望を入れる形でリーバーは何度もシナリオを書き直したが、最終的に双方が「別のライターに書かせた方がスムーズに進行する」との結論に達し、リーバーが降板したということらしい。

 また、どうやらリーバーは、『キャプテン・アメリカ(vol. 3)』と『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』の間の話──#50で死んだキャプテン・アメリカが復活を遂げるまでの話──をリミテッド・シリーズとして書く予定であったが、上記の降板劇により、この企画は立ち消えた。

 さらに言えば、元々リーバーは、この「エクストリミスツ」のストーリーを『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』の最初のストーリーアークにしようと思っていたが、企画を進めているうちに「アメリカ同時多発テロ事件」が起きたため、この事件に関連付けた内容のストーリーを最初のストーリーアークにすることを求められた模様(ドタバタし過ぎでリーバーが可哀想になってくる)。

 そして『エクストリミスツ』に続く3巻目がこの『キャプテン・アメリカ:アイス』。収録作品は『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』#12-16。何者かがキャプテン・アメリカに送りつけた資料、それはアメリカ政府がキャプテン・アメリカに偽の記憶を植え付けた上で、彼を密かに氷漬けにしていたという内容であった。自身の過去が偽りであったことに動揺しつつも、キャプテンは、アトランティス人の女性ハナと共に、この一件のカギを握るとされる人物インテロゲーターを追う。

 こちらは#12のみ、ジョン・ネイ・リーバー&チャック・オースティンがライターとしてクレジットされているが、#13以降はチャック・オースティン単独のクレジットになっている。おそらくはリーバーの残した#12のシナリオと、以降の話のプロットを元にオースティンがシナリオを書いてると思われる。

 そもそもリーバーは『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』の製作と前後して、『キャプテン・アメリカ:アイス』というリミテッド・シリーズの企画を進めていたらしく(前述した『キャプテン・アメリカ(vol. 3)』と『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』を繋ぐリミテッド・シリーズが、この『アイス』だと思われる)、この「アイス」ストーリーラインはその残滓らしい。

 続く第4巻『キャプテン・アメリカ:キャプテン・アメリカ・リブズ・アゲイン』。『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』#17-20の全4話を収録(なお、4話だけではページが足りないので、本作のヴィランであるレッドスカルのオリジン話である『テールズ・オブ・サスペンス』#66も収録されている。それでも107ページという薄さだが)。

 第2次世界大戦末期、北極海で氷漬けとなったキャプテン・アメリカは、十数年後復活を遂げるが、彼が仮死状態にあった間に、レッドスカル率いるナチスドイツがアメリカを征服していたのだった! ……という出だしから始まる歴史改変もの。

 ゲストのデイブ・ギボンズ(ライター)&リー・ウィークス(ペンシラー)のベテランコンビによる、小気味よい掌編。

 続いては第5巻、『キャプテン・アメリカ:ホームランド』。『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』#21-28の全8話を一気に収録(前号の倍近いページ数である)。

 制作陣はロバート・モラレス(ライター:全話)、クリス・バチャロ(ペンシラー:#21-26担当)、エディー・キャンベル(ペンシラー:#27-28担当)。日本でも人気の高いクリス・バチャロが6話も描いているのが、地味に嬉しい。

 タイトルに冠されている「ホームランド」編は#21-25までの全5話で、キューバのグアンタナモ湾収容キャンプに派遣されたキャプテン・アメリカが、収容所からアル・カイダのメンバーが脱走したことを機に、キューバとアメリカにまたがる陰謀とテロに巻き込まれていくという、実に「この当時」らしい内容(「実は黒幕はアメリカ軍の……」というオチも、実に「この当時」的)。

 続く#26は、ワシントンD.C.上空で、スティーブ・ロジャースの乗る小型機がテロの標的となり、スティーブは、かつて小型機の爆発に巻き込まれて死んだバッキーのことを回想しつつ、辛うじて乗機を不時着させる……という単独の話。

 最後の#27-28は「レクイエム」編。この当時刊行されていたリミテッド・シリーズ『キャプテン・アメリカ:トゥルース』の主人公である、黒人キャプテン・アメリカ、イザイア・ブラッドリーがゲスト出演する掌編(正確には元の世界とはかなり異なる歴史をたどった可能性の未来「アース-40828」のイザイアだが)。

 こちらは『トゥルース』の単行本。開発者が死亡し、製法が失われた超人血清(キャプテン・アメリカの力の源)を再現するため、無数の黒人兵士に対して行われた人体実験の結果、超人的なパワーを得てしまった青年、イザイア・ブラッドリーの数奇な運命を描く。


 ちなみに『トゥルース』は、邦訳版(坂路限定で刊行されて、現在は電子書籍のみ流通)も刊行されているので、興味を持たれた方は、ぜひ読んでいただきたい。さあ(圧)。


 で、この「レクイエム」編をもって、『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』は、「マーベル・ナイツ」のレーベルから外れることとなる(刊行自体は継続)。そして、続く#29-32にかけての4話は、当時、『アベンジャーズ』関連誌で展開された「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」イベントとタイインしており、「ディスアセンブルド」の企画に従い、このエピソードをもって『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』誌は休刊する。


 こちらが「ディスアセンブルド」とタイインした話をまとめた単行本『キャプテン・アメリカ:ディスアセンブルド』。『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』#29-32と、同じくタイイン・タイトルの『キャプテン・アメリカ&ザ・ファルコン』#5-7を収録。.

 『キャプテン・アメリカ(vol. 4)』#29–32は、「ディスアセンブルド」の後日談で、キャプテン・アメリカのパートナーであるダイヤモンドバックが密かにレッドスカルと通じ、キャプテンを徐々に陰謀の網に捉えていく話。

 一方の『キャプテン・アメリカ&ザ・ファルコン』#5-6は、「ディスアセンブルド」のプロローグで、海軍が開発した超人兵士「アンチ・キャップ」を追うキャプテン・アメリカ&ファルコンが、何者か(ぶっちゃけると「ディスアセンブルド」事件を引き起こしたスカーレット・ウィッチ)の影響により、精神的に危機に立たされる話。

 で、その後のキャプテン・アメリカの物語は、2004年末に創刊された『キャプテン・アメリカ(vol. 5)』誌に引き継がれ、最初のストーリーライン「ウィンター・ソルジャー」で、キャプテン・アメリカはまさかの事態に遭遇することとなる。

 以上。
  
  


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