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『X-MEN:ザ・トライアル・オブ・マグニートー』発売記念! マグニートーとスカーレット・ウィッチの複雑な関係とは?

磁界王・マグニートーの苦難と試練を描く作品『X-MEN :ザ・トライアル・オブ・マグニートー』が本日1月25日に発売となります。実写映画版『X-MEN』シリーズでもお馴染みのマグニートーと、MCU映画やドラマにも登場し、本作でも重要な鍵を握る魔女・スカーレット・ウィッチ。実は両者は親子とされてきたのですが、いろいろと複雑な事情があるようで……? 発売を記念し、ライター・翻訳者の小池顕久さんに、マグニートーとスカーレット・ウィッチの基本情報から、その背景や魅力までを詳しく解説していただきました!

X-MEN :ザ・トライアル・オブ・マグニートー
リア・ウィリアムズ[作] ルーカス・ヴェルネック、デイビッド・メッシーナ[画]
高木 亮[訳]

新刊『X-MEN :ザ・トライアル・オブ・マグニートー』において、物語の中枢を担うキャラクターであるマグニートースカーレット・ウィッチ
この二人は、少し前までは「親子」だと思われていたのですが、近年の物語では、「実は親子ではなかった」、「それどころかスカーレット・ウィッチはミュータントですらなかった」と、大胆な設定の改編が行われたことで、いわく言いがたい微妙な間柄になっています。
 
今回の記事では、これまでのコミック上での、二人の関係の変遷を紹介し、この「いわく言いがたい」微妙さの一端でもご理解いただければと思います。

文:小池顕久

そもそも過去などなかった時代


さて、マグニートーは、伝説の名コンビ、スタン・リー&ジャック・カービーが1963年に立ち上げた『X-MEN』誌の創刊号で、ヒーローチームX-MENが最初に戦うスーパーヴィランとして初登場しました。
当時の彼は、後年のような「ミュータントの大義のために人類と戦う活動家」……といった、複雑な背景は与えられておらず、自身を選ばれた存在とみなし、その力をもって人類の支配を目論む、単純なコミックの悪役に過ぎませんでした。
 
他方、スカーレット・ウィッチ彼女の弟クイックシルバーは、1964年に刊行された『X-MEN』#4に、マグニートー率いるブラザーフッド・オブ・エビル・ミュータンツの一員として初登場しています(ちなみに、初登場の時点で二人の本名は「ワンダ」と「ピエトロ」と設定されていましたが、名字はまだ付けられていませんでした)。

『X-MEN :ザ・トライアル・オブ・マグニートー』より
寝そべっている女性が、スカーレット・ウィッチ。検死作業にかけられています。
『X-MEN :ザ・トライアル・オブ・マグニートー』より
腕を抑えられているのが、クイックシルバー。殴られているのが、マグニートーです。


同号では、姉弟は中央ヨーロッパの小村に住んでいましたが、ある時、迷信深い村人にワンダが“魔女”として殺されかけたところを(村人は彼女のミュータント能力を魔法だと思っていた)、マグニートーに生命を救われ、その借りを返すために(消極的ながら)彼の部下として活動している……という、二人の背景も語られました。
 
しかし、じきにマグニートーのやり方に反感を抱いた二人は、ブラザーフッドを抜け、ヒーローチーム・アベンジャーズに参加(1965年の『アベンジャーズ』#16での出来事)。偉大なるリーダー、キャプテン・アメリカの下で、一人前のヒーローとなるべく奮闘していきます。
 
この時期のマグニートーとスカーレット・ウィッチ&クイックシルバー姉弟の関係は、前述した「元リーダーと部下」以上の関係はありませんでした。
 
そもそもマグニートーは、ヴィランになるに至った経緯(オリジン)や、それまでの人生なども語られておらず(1980年代に入るまで、本名すらも設定されていませんでした)、スカーレット・ウィッチ&クイックシルバーにしても、初出時のヨーロッパの小村に住んでいたという設定以外は特に背景を説明されておらず、両者の因縁を結びつけるような設定そのものが皆無だったのです。

掘り下げられ、繋がる過去


やがて、スカーレット・ウィッチ&クイックシルバー姉弟の初登場から10年を経て、1974年に刊行された『ジャイアントサイズ・アベンジャーズ』#1で、ようやく二人の出自が明かされます。
 
実は姉弟は、第二次世界大戦当時に活躍したスーパーヒーロー、ウィザー(クイックシルバーと同様の、高速移動能力者)と、ミス・アメリカ(超人的な身体能力の持ち主)の間に生まれた子供でしたが、不慮の事態で父親と離れ離れになり(ミス・アメリカは出産直後に死亡)、以来、中央ヨーロッパを孤児としてさすらっていたのでした……。
 
 しかし、この設定は、1979年度の『アベンジャーズ』誌で展開された物語の中で否定されます。
 
 このストーリーラインでは、アベンジャーズの拠点にスカーレット・ウィッチ&クイックシルバーの「父親」を名乗るジャンゴ・マキシモフなる人物(ジプシー呪術の使い手)が登場。彼の登場を機に、二人は自身の出自を確かめるべく、中央ヨーロッパにあるワンダゴア山脈に向かいます。
 
 やがて、2人とアベンジャーズは、山脈の地下に眠る太古の邪神クトン復活の陰謀に巻き込まれるも、辛うじてこれを退け(この際、ジャンゴは「娘」ワンダを救うために魔力を振り絞り死亡します)、ワンダゴアに拠点を置く狂気の遺伝学者ハイ・エボリューショナリーの配下から、以下のような姉弟の真の出自を教えられます。

・かつてウィザー&ミス・アメリカ夫妻は、ミス・アメリカのお腹の中の子供を安全に出産するために、ハイ・エボリューショナリーに助けを求めたが、結局、子供は死産、ミス・アメリカも死亡した。
 
・これと同時期に、ハイ・エボリューショナリーの拠点に「マグダ」という名の女性が身を寄せ、双子(後のワンダとピエトロ)を出産した後、失踪した(死亡したものと思われる)。
 
・ハイ・エボリューショナリーの配下は、ミス・アメリカの子供が死んだことを伏せ、ウィザーにマグダの産んだ双子を見せるが、ウィザーは妻の死に錯乱してその場から去ってしまう。
 
・双子はジャンゴ&マリア・マキシモフ夫妻に引き取られ、ワンダ&ピエトロ・マキシモフと名づけられた。やがて不慮の事態で姉弟は育ての親が死んだと思い込み、孤児となって放浪する。


なお、これらの設定が語られた『アベンジャーズ』#186の翌月に刊行された、『X-MEN』#125で、割と唐突に「マグニートーが亡き妻"マグダ"のことを思い出す」というシーンが挿入されています。……おそらく両誌のライター間で、何らかの話し合いがあったのでしょう。
 
また、それから2年後の1981年に刊行された、『アンャニィX-MEN』#150で、誕生から十数年を経て、マグニートーの過去がある程度詳細に語られます。
 
彼は元々ユダヤ人の一家に生まれ、第二次世界大戦当時、ナチスドイツのアウシュヴィッツ収容所に収監されていました。やがて家族は全員殺されるも、辛うじて生き延びた彼は、長じてマグダという女性と結婚し、一人娘も得ます。
 
しかしミュータント能力に無理解な人々の暴走で、娘が殺されるという悲劇が勃発。ミュータント能力を全開にして、人々に復讐を行った彼を、マグダは恐怖し、彼の元を去るのでした……。
 
当時の人気ライター、クリス・クレアモントが創出したこの背景設定は、「ホロコーストの悲劇を経験したが故に、同胞であるミュータントへの迫害に、力をもって抵抗する」という、以降のマグニートーのキャラクター像の核となり、彼をそれまでの単純な世界征服志願者から大きく飛躍させました。
 
また、翌年に刊行された『アンキャニィX-MEN』#161では、「マグナス」を名乗り(やっと名前らしい名前が付きました)イスラエルで医療活動に従事していたマグニートーが、チャールズ・エグゼビア(プロフェッサーX、後にX-MENを創設)と出会い親友となる……というエピソードも描かれました。やがて、町を襲ったナチス残党との戦いで、人間の善意を信じるエグゼビアと意見を対立させたマグナスは、彼とたもとを分かち、ナチスから奪った金塊を用いて、マグニートーとしての活動を開始します。
 
 なお、クレアモントは以降もマグニートーのキャラクターを掘り下げ、遂には重傷を負ったエグゼビアに代わり、マグニートーが若きミュータントを育成する「選ばれし者の学園」の校長になる……といった具合に、マグナスを「善玉」に転向させます。後に彼は再びヴィランに戻りますが、以来マグニートーは、自らの大義に合致する場合はヒーローにも力を貸す、独特なスタンスのキャラクターとして発展していきます。
 
 閑話休題。
 
 そして、1982年に刊行された全4話のリミテッド・シリーズ、『ヴィジョン&ザ・スカーレット・ウィッチ』#4の冒頭で、マグニートーは、自分の元を去ったマグダが、実は密かに彼の子供を妊娠しており、ハイ・エボリューショナリーの拠点で双子を産んでいた……という事実を突き止め、スカーレット・ウィッチ&クイックシルバーが、自分の子供であると確信します。
 
 即座にスカーレット・ウィッチ&クイックシルバーの元に向かったマグニートーは、突然のヴィランの急襲に沸き立つクイックシルバーらを、その磁力パワーで軽くいなすと、クイックシルバーの生まれて間もない娘ルナを自身の「孫」だと言い放ち、スカーレット・ウィッチらを驚愕させるのでした(もう少し波風の立たない接触もできたでしょうに……)。
 
 ……と、いった具合に、誕生から十年以上を経て、それぞれの出自を掘り下げられた両者は、さらに「実は両者は家族だった」という意外な設定を上乗せされて、新たなドラマの源となるのでした。

“Mの一族”の波乱


 かくて家族となったマグニートー、スカーレット・ウィッチ、クイックシルバーの3者の関係から、様々なドラマが生まれていきます。
 
 なにしろ、善と悪の領域を行き来するマグニートーと、ミュータントでありながらアベンジャーズの古参メンバーであるスカーレット・ウィッチ&クイックシルバーという、因縁に事欠かないキャラクターらが家族となったのです。
 
 ある時はマグニートーがヴィランに戻り、クイックシルバーらと対立したり(1993年の『X-MEN』関連誌のクロスオーバー「フェイタル・アトラクション」)、マグニートーの後継者を名乗る一味がクイックシルバーの娘ルナを拉致したり(1993年の『X-MEN』『アベンジャーズ』のクロスオーバー「ブラッド・タイズ」)、あるいは、今一つ詳細が不明だったスカーレット・ウィッチの超能力を「強力過ぎる現実改編能力」だと再解釈した上で、彼女の能力の暴走でアベンジャーズが危機に陥ったり(2004年の「アベンジャーズ・ディスアセンブルド」)、遂にはスカーレット・ウィッチの現実改編能力が“家族”に悪用され、マグニートーが地球を支配する「ハウス・オブ・M」の世界が誕生したり(2005年の大型クロスオーバー)……と、マグニートーとその家族からは、無数のドラマが生まれました。

昨年刊行された『アベンジャーズ:チルドレンズ・クルセイド』も、「ハウス・オブ・M」の後に失踪したスカーレット・ウィッチを、彼女の「息子たち」であるウィッカン&スピードと仲間たちが捜索するという、マグニートー一家の話でしたね。


全くの余談ですが、2008年に刊行されたリミテッド・シリーズ『マグニートー:テスタメント』の中で、マグニートーの本名は、ドイツ系ユダヤ人らしい「マックス・アイゼンハート」という本名が設定されました。──それ以前のコミックでは、マグニートーは「エリック・マグナス・レーンシャー」という名を名乗っていましたが(1993年刊行の『X-MENアンリミテッド』#2が初出)、これは彼が収容所を脱走した後に名乗っていた偽名で、本名ではありませんでした(1997年末に刊行された『X-MEN(vol. 2)』#72で偽名であることが判明)。

家族の崩壊


しかし、そんなマグニートーの「家族」に異変が起きます。
 
2014年の大型クロスオーバー『アベンジャーズ&X-MEN:アクシス 』(邦訳はヴィレッジブックスより刊行)の作中で、魔術の暴発によりヒーロー・ヴィランの善悪が逆転してしまい、悪に転じたスカーレット・ウィッチが、マグニートー(当時はヒーロー側)とクイックシルバーに襲いかかる、という事態が勃発します(『アベンジャーズ&X-MEN:アクシス 』#7)。


この時、悪のスカーレット・ウィッチは、「彼女の肉親」にダメージを与える呪いを2人に放ちますが、この攻撃はクイックシルバーに致命傷を与えたものの、マグニートーには、一切効力を発揮しませんでした。この結果、スカーレット・ウィッチとマグニートーは互いが「肉親」ではなかったということに気づくのでした……。
 
この「アクシス」事件の直後、『アンキャニィ・アベンジャーズ』誌で繰り広げられたストーリーで、ワンダとピエトロは、二人の真の出自を知るべく、ハイ・エボリューショナリーの元を訪れますが、かの狂気の遺伝学者は、想定外の事実を明かします。
 
実はワンダとピエトロの超能力は、赤子の二人に、ハイ・エボリューショナリーが後天的に与えたものであり(究極の超人を生み出そうという彼の実験の一環だが、満足のいく結果は得られなかった模様)、彼らはミュータント(先天的に超能力の因子をもって生まれた存在)ですらなかったのでした。
 
ちなみに、その後2016年に創刊されたオンゴーイング・シリーズ『スカーレット・ウィッチ』誌の作中で、ワンダとピエトロの「本当の母親」が、ジャンゴ・マキシモフの姉(あるいは妹)でもある、ナターリャ・マキシモフであることが明かされています。
 
先代のスカーレット・ウィッチであった彼女は、自身の戦いに子供たちを巻き込まぬよう、ジャンゴ&マリア夫婦に双子を預けていたのですが、潜在能力の高い赤子を求めるハイ・エボリューショナリーによって双子が奪われてしまい、子を取り戻すためにワンダゴア騎士団(ハイ・エボリューショナリー配下の獣人の軍団)と戦い、死亡したとされています。
 
なお、双子の父親については、今に至るまで不明です。
 
ちなみに、姉弟とマグニートーが(割と唐突に)「家族でなかった」「ミュータントでもなかった」と設定を改変されたのは、当時、『X-MEN』の映画化の権利を所持していた20世紀フォックスとマーベルの間で、「クイックシルバーとスカーレット・ウィッチは『X-MEN』のキャラクターか、『アベンジャーズ』のキャラクターか」という点でモメて、マーベル側が2人を非ミュータントにすることにした……と、まことしやかにささやかれていましたが、真相は不明です(まあ、話半分で聞いておきましょう)

そして現在


かくて、マグニートーとは縁もゆかりもないことが判明したスカーレット・ウィッチですが、マグニートー自身はその後も彼女を「娘」と見なしており、クラコアが創設された後には、(今やミュータントですらないことが判明した)彼女を、島に招こうとしていました。
 
ちなみに、ワンダが準レギュラーで登場している『ストレンジ・アカデミー』の作中でも、ワンダ宛にマグニートーから招待メールが届いている描写があったりします。

ストレンジ・アカデミー1:ファースト・クラス』より
下から3つ目のメールです。


当初招待を断っていたワンダでしたが、やがてクラコアの祭典「ヘルファイア・ガラ」への出席を了承します……というのが既刊『X-MEN:ヘルファイア・ガラ』での話でした。しかし、満を持して出席した彼女は、突然の悲劇に見舞われてしまうのでした……。この先の物語は、ぜひ新刊『X-MEN:ザ・トライアル・オブ・マグニートー』でお確かめください。

X-MEN :ザ・トライアル・オブ・マグニートー
リア・ウィリアムズ[作] ルーカス・ヴェルネック、デイビッド・メッシーナ
[画] 高木 亮[訳]

小池顕久
編集者、ライター、翻訳家。『トランスフォーマー』『スパイダーマン:クローン・サーガ』他のコミックの翻訳、単行本『石川賢マンガ大全』(双葉社)の構成・編集・執筆を担当。
@AtomJaw

※読者様からのご指摘により、記事内容に誤りがある箇所が判明したため、内容を一部訂正しております(2024/2/19 編集部)


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