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■ウルヴァリン

■Wolverine
■Writer: Chris Claremont
■Penciler: Frank Miller
■翻訳:田中敬邦 ■監修: idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円 ■ASIN:‎ B09YPH3GC7

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第9号は、『アンキャニィX-MEN』誌のライターとして1980年代を席巻していたライターのクリス・クレアモントが、気鋭のアーティスト、フランク・ミラーと組み、『X-MEN』の人気キャラクター・ウルヴァリンのソロ・ストーリーを描いた1982年のリミテッド・シリーズ『ウルヴァリン』を単行本化。

 1982年にリリースされたウルヴァリン初のミニシリーズ。愛するマリコを追って日本へ着いたウルヴァリン。再会は果たしたものの、マリコは父の借金を清算するため、別の男性と結婚し、ひどい仕打ちを受けていた。ウルヴァリンは、マリコのために戦いを挑むが、プロの暗殺集団「ハンド」からたびたび狙われることになる……。(第9号表4あらすじより抜粋。ていうか作中の説明だと「借金」ではなかったような……)

 収録作品は、『ウルヴァリン(vol.1)』#1-4(9-12/1982)。全4話なのに、他の巻と同じ値段。同じ値段(2度言いやがった)。

 ちなみに、この『ウルヴァリン』ミニシリーズは、2013年にヴィレッジブックスより邦訳版が刊行されていたが、こちらは原書の『ウルヴァリン・バイ・クレアモント&ミラー:デラックス・エディション』を定本としており、『ウルヴァリン』全4号に加え、後日談の『アンキャニィX-MEN』#172-173(ウルヴァリンvs.シルバーサムライ!)も収録することでボリュームを補っている(とはいえ、ウルヴァリンとマリコの関係に、一応の決着が付けられるのは、『アンキャニィX-MEN』#176(12/1983)なので、後日談としては微妙に足りないのだが)。


 本作でウルヴァリンの婚約者として登場するマリコ・ヤシダは、元々は『アンキャニィX-MEN』#118-119(2-3/1979)で展開された、日本編のストーリーラインで初登場した女性。

 #118でのX-MENは、南極で仇敵マグニートーと戦った後、アメリカ本土に戻る途中で日本を訪れ(南極から手漕ぎボートで脱出した後、日本の南極探査船「ジングチマル」に拾われ、6週間かけて日本に着いた)、同国のヒーロー、サンファイア(シロー・ヨシダ)やミスティ・ナイト(当時クレアモントが手掛けていた『アイアンフィスト』誌の準レギュラーの傭兵)と共に日本政府を脅迫するヴィラン、モーゼス・マグナムと戦うことになる。

 この際、仲間とともに、ヨシダ邸に逗留することとなったウルヴァリンは、ヨシダ邸の庭園を愛でていた折に(#118で、ウルヴァリンはかつて日本を訪れたことがあり、日本語の会話や読み書きは勿論、詫び寂びの文化にも堪能であることが明かされる)、シローの従妹であるマリコと出会う。

 で、マリコは、野性味溢れつつも日本の文化に精通したウルヴァリンという男に興味を持つ。しかも直後にモーゼス・マグナムが引き起こした大地震からウルヴァリンが彼女を守ってくれたことで、彼に好意を抱くようになる。

 やがてモーゼス・マグナムを打ち倒したX-MENは、日本を去ることになるが、去り際にウルヴァリンは、マリコに白い菊の花をプレゼントし、仲間にも明かしたことのない自分の本名「ローガン」を彼女に教えることで、彼女への強い好意を示す。

 この『X-MEN』#118-120は、クレアモント期の『X-MEN』をまとめた『アンキャニィX-MEN・マスターワークス』の3巻目に収録されている(リンクはお安いKindle版)。

 その後マリコは、『X-MEN』#123(7/1979)で、ウルヴァリンをニューヨーク市の日本領事館に招いて食事をしたり、『アンキャニィX-MEN』#143(3/1981)で、ウルヴァリンとクリスマスディナーに出かけたりと(#119のラストで、X-MENはクリスマスを祝っていたので、丸1年付き合っていたことになる)、順調に仲を進展させていき、『ウルヴァリン』リミテッド・シリーズの開幕時点では、ウルヴァリンとマリコは婚約者となっていた(開幕早々婚約を破棄されるが)。


 その後、『ウルヴァリン』の完結から9ヶ月後に刊行された、『アンキャニィX-MEN』#172-173(8-9/1983)で、晴れてウルヴァリンはマリコと結婚することとなる。……が、X-MENの仇敵であるマスターマインドが、テレパシーによってマリコの精神を操作したことで、マリコは突然結婚式を取りやめにしてしまう。

 やがて、X-MENの活躍によってマスターマインドは無力化され、彼が引き起こした諸々は、世界最強のテレパス、プロフェッサーXによって元に戻される。

 この結果、洗脳から脱したマリコだったが、彼女はウルヴァリンとの復縁を拒否する。……実はマリコは、マスターマインドの洗脳下で、ヤシダ家と日本の犯罪組織との間に協定を結ばされていたのだった(※リミテッド・シリーズ『ウルヴァリン』内で、ヤシダ家の頭領シンゲンが死亡したため、以降、シンゲンの娘であるマリコがヤシダ家の頭領の座に就いていた)。

『アンキャニィX-MEN』#176(12/1983)で、ヤシダ家に潜入し、マリコと再会したウルヴァリンは、上記の事情を明かされた上で、「犯罪組織とヤシダ家の間に生じたしがらみを、自分独りで断ち切らねばならない」というマリコの意志を尊重し、彼女との復縁を諦めるのだった。

 この一連のエピソード(『アンキャニィX-MEN』#172-173, #176)は、単行本『X-MEN:フロム・ザ・アッシュズ』に収録されている(なお、マーベル・マスターワークス版では、#172-173がVol. 9、#176がVol. 10に収録されているので、マリコ関連のエピソードを読むには不都合である)。

・余談:

 サンファイア(ヨシダ・シロー/Yoshida Shiro)の従妹であるマリコは、本来ならば「マリコ・ヨシダ(Mariko Yoshida)」という姓名であるはずなのだが、なぜか「マリコ・ヤシダ(Mariko Yashida)」という別の姓になっている。

 これは実は、『アンキャニィX-MEN』#119のラストで、サンファイアの本名が「シロー・ヤシダ(Shiro Yashida)」と誤記されていたことに端を発する。……その前号の#118では、サンファイアの名字は「ヨシダ(Yoshida)」と表記されていたのに(正確には、サンファイアの自宅を「ヨシダ邸(Yoshida Manor)」と表記)、なぜかこの#119のみ、「ヤシダ」と誤記されていたのだ。

『X-MEN』#119より。ここで「Shiro Yashida」と誤記されたことが全ての始まり。

 そして『アンキャニィX-MEN』#123でマリコが再登場した際、彼女の姓名は、なぜか#119でのサンファイアの名字の誤記が踏襲されてしまい、「マリコ・ヤシダ(Mariko Yashida)」と表記された(※ちなみに彼女の初登場エピソードである『X-MEN』#118-120の作中では、彼女は「マリコ」とのみ呼ばれていて、名字は言及されていない)。

『X-MEN』#123より。「Mariko Yashida」に想いを馳せるウルヴァリン(考え事に夢中になっていたせいで、この後、後ろから来たバンに簡単に拉致される)。

 その後、サンファイアの姓名は『X-MEN』#119での誤記は無視され、オリジナルの「シロー・ヨシダ」の表記が維持される一方で、マリコは『アンキャニィX-MEN』#123, 143、そしてリミテッド・シリーズ『ウルヴァリン』や、1984年のリミテッド・シリーズ『キティ・プライド&ウルヴァリン』で、コンスタントに「マリコ・ヤシダ」の表記で再登場した結果、完全に「ヤシダ」の姓で定着してしまう(なにせ当時の大人気ライター、クリス・クレアモントが、堂々と「ヤシダ」と表記しているので、誰も疑いはしないのである)。

 そんな訳で、本来「ヨシダ」であったであろうマリコの名字は、「ヤシダ」となったのだった。

(ちなみに「八下田(やしだ)」という名字は実在する)



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