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11-3.コロナ禍に向き合ったマガジンの6カ月

(特集 心理職はコロナ禍に対して何ができるか)
下山晴彦(東京大学/臨床心理iNEXT代表)

Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.11
※本号は,5つの記事から出来ています。毎週1記事ずつアップをする予定です。ご期待ください。

1.コロナ禍と向き合う

ダイヤモンド・プリンセス号と聴くと,「ああ,そういうことあったね」と一昔前の,遠い過去の出来事のように感じる。しかし,それは,たった8カ月前の出来事である。その間,私達の生活は,コロナ禍を経験することで激変した。時代が大きく変わってしまったのである。

2月3日にダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に着岸し,新型コロナウィルス対策が日本でも主要な話題になり始めた。しかし,その頃は,まだ対岸の火事という雰囲気があり,我が身に火の粉が降り掛かってくるという危機感は薄かった。しかし,3月に入ると感染者が増え始め,次第に国からの注意喚起が強くなっていった。それでも3月前半は,多くの心理相談関連の機関では通常通りの活動を続けていた。それが,3月後半から急速に感染の危険性が意識されるようになり相談活動の自粛が検討されるようになった。

当初は,クライエントも心理職も,感染拡大の速さに意識が追いつかず,どのように対応するのがよいのかを判断できずに居たというのが現実であった(本マガジンの創刊号1−2を参照)。そのような心理職の戸惑いを追い越すように外出自粛要請が強化され,遂に4月7日には緊急事態宣言が出された。

このようにコロナ禍は,唐突に始まった。当初,我々の社会は,この未曾有の,見えない災害に対して試行錯誤の連続であった。しかし,次第にコロナ禍との付き合い方を身に付けつつあるように思える。「ウィズ・コロナ」ということで,コロナ禍とともに生きる体制を整えた。そして,「ポスト・コロナ」ということで,コロナ禍を通して明らかになってきた社会課題を乗り越えた次の時代に向けた動きも出てきた。

臨床心理マガジンiNEXTは,このコロナ禍が吹き荒れる只中の船出となった。創刊号は,コロナ禍に直面し,困惑しながらもその対処法を探り,提案することから始まった。そして,この半年は,コロナ禍と向き合い,取り組み,乗り越える方途を確かめる作業を続けてきた。まさに臨床心理マガジンiNEXTは,コロナ禍の中で誕生し,育ち始めた雑誌となった。

そこで,本号では,コロナ禍の始まった,本年4月に遡り,そこから本誌の10号が発行になった9月までの6カ月の経験を見直し,次の成長に向けての指針を得ることを目標とする。

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2. コロナ禍から逃げない

対面での心理相談は,閉ざされた面接室で複数の人間が近くで会話するという点で,少なくとも《密閉》空間と《密接》場面となっている。さらにグループワークであれば《密集》場所も加わって3“密”状況となる。多くの心理相談機関では,対面相談が難しくなり,活動を休止せざるを得ない状況となった。

このようにして活動休止した心理職とっては,最初は外出自粛をすることが義務となった。私の所属する東京認知行動療法センターも休止となった。しかし,すぐに私の中で「ただ何もしないことだけでよのか」という疑問が生じてきた。普通の日常が失われた中で,しかも感染の恐怖の中で,自分自身を含めて誰もが不安となっている。このような緊急事態において,「心理職にできることは何かないのか」,「心理職の役割とは何なのか」という自分自身への問いに向かい合うことになった。

そこで,4月に創刊号を出す予定であったオンラインマガジン臨床心理iNEXTは,編集方針を急遽変更することとした。コロナ禍から逃げないこと,そしてコロナ禍によって混乱が生じている現実に向き合い,そこで生じている出来事を取材し,記事として報告することを,新たな編集方針とした。そして,コロナ禍という現実に取り組んでいる人々の実践を紹介し,それを通して「心理職の役割とは何なのか」を読者とともに考えていくことを,マガジンの使命とした。

その結果,臨床心理マガジンは,野火の如く一気呵成に拡がるコロナ禍に追いつき追い越せをモットーに記事を依頼し,インタビューをして現場の最前線の熱気を読者に届けるように発信をし続けた。走りながら考え編集し,編集しながら考え走るという作業を日々続け,いつの間にか6カ月が過ぎた。その間に,創刊号である1号から10号までを発行し,編集した記事は59を数えることとなった。

結果として,「臨床心理iNEXT」と「遠見書房」の共同企画としてスタートした臨床心理マガジンiNEXTは,創刊号から10号までは,奇しくも新型コロナウィルス対策における心理職の活動を伝え,記録するオンライン雑誌となった。
下記に,創刊号から10号までの記事を紹介する。緊急事態宣言が解除されてウィズ・コロナの時代の現在にあって,今後のポスト・コロナの時代に向けて心理職の,次の活動を考える材料にしていただけたら幸いである。

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3. コロナ禍という現実に向き合う

第1号 「創刊号/緊急特集 新型コロナウィルスを乗り越えるために」
https://note.com/inext/m/m507d03bdc1aa
新型コロナウィルス感染拡大の中での心理職の現状と役割を緊急特集。感染拡大で生じる心理的問題とそれに対する心理支援のポイント,発達にアンバランスさをもった子どもと家族の理解と支援法を具体的に解説。

o 1-1.創刊のご挨拶:心理職の未来(NEXT)を創るために
o 1-2.緊急特集:新型コロナウィルスを乗り越えるために
o 1-3.心理支援の現場で今,何が起きているのか
o 1-4.新型コロナウィルス対応における心理職の心得とサポート資源
o 1-5.発達にアンバランスさをもった子どもと家族への支援
o 1-6.Q&A 発達にアンバランスさをもった子どもと家族への支援

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第2号 「特集 コロナ・ストレス対策の心理学知恵袋」
https://note.com/inext/m/m1949bb37cba9
外出自粛の生活の中で生じる「コロナ・ストレス」の特徴を「日常の喪失」と「感染恐怖」から説明し,認知行動療法と生物−心理−社会モデルの観点から一般向けに分かりやすくストレスの対処法を解説。

o 2-1.特集にあたって:正しく外出自粛をするための知恵袋
o 2-2.外出自粛のコロナ・ストレスとは何か
o 2-3.コロナ・ストレス対処の認知行動療法
o 2-4.コロナ・ストレス対策①「環境を整える」
o 2-5.コロナ・ストレス対策②「身体を整える」 
o 2-6.コロナ・ストレス対策③「気持を整える」

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4. コロナ禍に取り組む

第3号 「特集 新型コロナウィルスに負けないためのココロの道具箱」
https://note.com/inext/m/m912effcba23d
感染危険のある現場で働く医療従事者に向けたストレスマネジメント法を紹介し,自粛生活において攻撃的にならずに自分も相手も尊重するコミュニケーションの仕方を提案。

o 3-1.新型コロナウィルスの時代を生き抜くために
o 3-2.ココロの健康のための道具箱 
o 3-3.医療従事者のためのストレスマネジメント 
o 3-4.非常時をアサーティブに暮らす 

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第4号 「特集 COVID-19治療の最前線から“心理職の役割”を考える」
https://note.com/inext/n/nb687b970cecb
感染治療の最前線である日本赤十字社医療センターの心理職である秋山先生に「新型コロナウィルス対策において心理職は何かできるのか」をテーマにインタビューした記事。治療現場の緊迫感が伝わってくる。

o 4-1.特集にあたって:新型コロナウィルス対策の最前線からの報告
o 4-2.COVID-19医療救護班への支援からみえてきたこと:「職員を支える」
o 4-3.現場でのニーズから心理職の活動を創る:「スタッフサポート」
o 4-4.医療従事者のメンタルヘルスへの対応:「組織をつなぐ」
o 4-5.現場の心理職と,現場の外にいる心理職の役割分担:「Do Your Part」
o 4-6.今後に向けて心理職の課題

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5. ウィズ・コロナの社会を生きる

第5号 「特集 心理職のためのオンライン授業入門」
https://note.com/inext/m/m71869b115aa0
大学のオンライン授業を,心理職の新たな教育方法として活用する方法を提案。Zoomの使い方と授業の組み立て方を解説し,公認心理師カリキュラムおいて利用できる動画講義とその方法を具体的に紹介。

o 5-1.心理職オンライン教育の教え方・学び方
o 5-2.これから始めるZoom授業の基本手続き
o 5-3.Zoomを使ったオンライン授業でできること
o 5-4.協働的・発展的なZoom授業に向けた7つのTIPS
o 5-5.学部・公認心理師カリキュラムで動画講義を活用する
o 5-6.大学院・公認心理師カリキュラムで動画講義を活用する

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第6号 「特集 できる!やらねば!オンライン相談」
https://note.com/inext/m/m63d8f48473e8
対面相談の限界を越えて,ウィズ・コロナの時代の必需品となったオンライン相談の活用方法を様々な角度から解説。オンライン相談を実践している心理職や相談機関の実践活動を紹介し,オンライン相談を開始するための手引きを提示。

o 6-1.オンライン心理相談とは何か
o 6-2.インタビュー「オンライン心理相談の経験を聞く」
o 6-3.オンライン心理相談の現状と課題
o 6-4.オンライン心理相談のスタートガイド
o 6-5.オンライン相談(無料)のシステム導入の実際
o 6-6.オンライン心理相談(有料)のシステム構築の実際

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6. ポスト・コロナの時代に向けて

第7号 「特集 使える! 楽しい! 心理支援アプリ」
https://note.com/inext/m/m8e97422e1604
オンラインで利用できる心理支援アプリの特集。コロナ禍を経験することで社会は,第4次産業革命が促進される。そこでは,全てがICTでつながるIoTの時代になる。生活場面で心の支援をために使えるスマホアプリを紹介。

o 7-1.今,なぜ心理支援アプリなのか
o 7-2.呼吸によって心身を整えるアプリ──呼吸レッスン・呼吸ストレッチ
o 7-3.生活を記録してモニタリングするアプリ──じぶん記録
o 7-4.モニタリングを行動活性化につなぐアプリ──いっぷく堂
o 7-5.回復力のある自分を育てるアプリ──レジリエンスさがし
o 7-6.フォーカシングで感受性を高めるアプリ──きもちのとびら
o 7-7.アクセプタンスで「とらわれ」から自由になるアプリ──あきらめたまご

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7. ポスト・コロナ時代に向けて心理職スキルアップ

第8号 「特集 今!現場で必要な心理職の技能」
https://note.com/inext/m/m94b37aba07aa
若手,中堅,そしてベテランの心理職にインタビューをして新しいモデルと必要な技能を検討。臨床心理iNEXT会員にも学びたい技能をアンケート。その結果に基づいて心理職のスキルアップ,キャリア・アップに必要な技能研修の場を企画。

o 8-1.心理職は何を目指してスキルアップをするのか
o 8-2.今,臨床現場で必要な基本技能とは何か
o 8-3.医療分野で活躍するために必要な技能とは
o 8-4.教育分野で活躍するために必要な技能とは
o 8-5.福祉分野で活躍するために必要な技能とは
o 8-6.速報! 臨床心理iNEXT オンライン研修会

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第9号 「特集 今でしょ! 心理職スキルアップ!」
https://note.com/inext/n/n76f8180d285b
ウィズ・コロナの時代は,多くの人がコロナ・ストレスで苦しむ。ポスト・コロナの時代は,社会のあり方が本質的に変化する。今こそ,「心理職の出番」である。社会のニーズに応えられるように心理職になり,ポスト・コロナの時代に向けて実力アップするための研修のご案内。

o 9-1.心理職の未来に向けて
o 9-2.クイズ:“今”心理職が学びたいスキルとは?
o 9-3.子どもの認知行動療法の臨床活用-研修テーマご案内-
o 9-4.知能検査の臨床活用-研修テーマご案内-
o 9-5.応用行動分析の基礎から活用へ-研修テーマご案内-
o 9-6.研修を活用してキャリア・アップしよう!

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8.ポスト・コロナ社会に備える

第10号「がんばれ学校! がんばれSC!」
https://note.com/inext/m/m30c4673b5a2c
学校は,コロナ禍の影響を直に受けて新学期早々に休校となり,現在は感染リスクに細心の注意を払って学校運営をしている。学校では,オンライン授業やデジタル教材を取り入れ,新たな学校や授業のあり方を探っている。これは,ポスト・コロナを先取りした実践であり,SCだけでなく,心理職全体がそこから多くを学ぶことができる。その実践を紹介。

o 10-1.学校の現在
o 10-2.小学校におけるコロナ禍への対応
o 10-3.小学校におけるSCの活用に向けて
o 10-4.コロナ禍に取り組む中学校からSCへの期待
o 10-5.SCから見た学校の困難状況
o 10-6.SCは何ができるか,何をすべきか

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(電子マガジン「臨床心理iNEXT」11号目次に戻る)

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