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23-4.解読★第4回公認心理師試験

(特集 秋冬の新着情報)
宮川 純(河合塾KALS)

Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.23
〈11月研修情報〉
講習会1
■子ども認知行動療法スキルアップ講座—見立て編—
【日程】11月7日(日曜日) 9時~12時

講習会2
■子ども認知行動療法スキルアップ講座—介入編—
【日程】11月28日(日曜) 9時~12時
【詳細と申込】
https://note.com/inext/n/n9bf761710aff
〈シンポジウム〉
『会社と社員を元気にする健康経営をデザインする』

【日時】2021年11月19日(金) 14時~17時
【参加費】3,300円(税込み)
【詳細と申込】
https://www.utokyo-ext.co.jp/hms/symposium/hm

1.はじめに

毎年,公認心理師試験が近づくにつれて,「どのような未知の問題に出会えるのだろうか?」という,興奮と緊張の入り混じったアンビバレントな状態になる。そのような中,実際に問題を入手し,解き始める。
早速,2問目で行き詰まる。病院に搬送された自損行為が疑われる患者に関する問題。この患者に対して,どう考えても優先すべき内容が複数ある。「この選択肢から,優先度の高い1つを選ばなければならないのか……?」と,答えを選べず,迷う。

…………。

そして,気づく。問題文をよく見ると,この問題は,「優先度の低いもの」を選ぶ問題だった。ならば,全く迷うことはない。明らかに優先度が低い選択肢がある。深いため息。ああ,緊張している。ふつうの状態じゃない。分かっている。試験とは,こういうものだ。実際に受験している方々は,もっともっともっと緊張していることだろう。改めて気持ちを引き締め直し,問題を解き進めることにする。このように,試験の解きはじめは「いつもの公認心理師試験」だった。

だが,途中から感覚が変わりはじめる。いつもと何かが違う。興奮と緊張というより,どこか安心感に近い感覚。スムーズに解答を選んでいくことができる。もちろん,初めて聞くような用語に出会うこともあるが,例年よりも感情の振れ幅が少ない。第1回追試験も含めれば,公認心理師試験も5回目。ずいぶん試験に慣れてしまったのだろうか。それとも……?

今回の試験分析は,上記で述べたような不思議な感覚の正体を明らかにする所から始まった。第4回公認心理師試験は,どのような試験だったのだろうか。

※本記事は,河合塾KALSが試験直後に発表した「分析速報」をベースに作成しています。(https://www.kals.jp/clinical-psy/pdf/kounin_20210919.pdf

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2.第4回試験の基本情報

■試験時間・問題数・マークシート用紙は,全て第3回までを踏襲。
・午前の部(10時~12時),午後の部(13時半~15時半)各120分の2部構成。
・午前の部・午後の部ともに,問題数は77題。全154題。
・マークシート用紙はAとBのいずれかが渡される。用紙Aは塗りつぶす①~⑤が横にならんでおり,用紙Bは①~⑤が縦にならんでいる。マークシートが用紙Aであっても用紙Bであっても試験問題に違いはない。

■解答形式は,5肢択一(5つの選択肢から1つを選ぶ形式),4肢択一(4つの選択肢から1つを選ぶ形式),5肢択二(5つの選択肢から2つを選ぶ形式)の3種類。5肢択二問題は,選んだ2つの選択肢が両方とも正解していなければ得点にならないため,解くのに時間がかかる上に正解することが難しい。ただ第4回試験は,その5肢択二の出題が大幅に減っていたため,やや取り組みやすくなっていたと思われる。

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■不適切な内容を選ぶ問題が,特定の番号帯に固めて配置されている点も第3回試験までと同様。例えば,第3回試験の午前問題の34番~45番は,すべて不適切な内容の選択肢を選ぶ問題である。さらに「不適切なものを選びなさい」と問題文に下線が引いてある点も第3回試験までと同様。問題数は以下の表2の通り。全体として,不適切を選択させる問題は,増加傾向にある。

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■午前・午後ともに一般問題58題のあとに19題の事例問題という構成。つまり,一般問題は午前と午後合わせて58×2=116題,事例問題は午前と午後合わせて19×2=38題となる。1つ1つの事例の文章の長さは5行~10行程度。

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■第4回試験の配点予想は表4の通り。これまでと同様に一般問題1点・事例問題3点という配点で230点満点,合格ラインは第3回試験までと同様に138点(60%)と予想される。なお,第3回試験まではいずれも,試験の難易度に関係なく合格ラインは60%であったため,問題の難易度差による合格ラインの変動は考えにくい。

(追記)
2021年10月29日に第4回公認心理師試験の合格発表が行われました。
そこで,第4回試験の合格基準点が143点以上と公表されました。
合格基準が138点から変化したのは,今回が初めてです。
今後は,試験問題の難易度などから合格基準点が変動することも,視野に入れる必要があるでしょう。

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3.第4回試験の難易度

次に,第4回試験の各設問の難易度を以下の3段階で判定した。なお,この判定基準および,各設問の難易度の判定は河合塾KALS独自のものであり,日本心理研修センターが発表したものではない。

・難易度A…5つの中から完全にランダムで選ばざるを得ない難問。
・難易度B…正解の選択肢を2つまたは3つまで絞り込むことが出来る問題。
・難易度C…比較的正解を1つに絞り込みやすい問題。

※上記の基準で難易度判定をしているため,キーワードとして難しい内容であったとしても明らかに不正解の選択肢を除外して2択(3択)で勝負できるなら難易度B,選択肢の中に難しい内容があったとしても,明らかに正しいと判断できる選択肢が1つあるならば難易度Cと判定している。

以上の基準で第4回試験全154題の判定を行い,第1回本試験・第2回試験・第3回試験と比較した。それが以下の表5である。

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A問題とB問題の割合が若干減少し,C問題の割合が若干増加した。この点から,第4回試験は従来の試験に対して,比較的取り組みやすかった試験と思われる。

次に,第4回試験の一般問題と事例問題の難易度を以下の表6で比較する。

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第4回試験の事例問題は,C問題が63.2%とかなり多かった。これまでも公認心理師試験は「事例問題で稼ぐことが重要」と言われていたが,第4回試験はそれがより顕著となった。なお,第4回試験は従来の試験よりも,「該当する用語名を答える事例問題」が多かった(38題中16題,全事例問題の42.1%)。これは,事例問題であっても知識を問われる出題が増えた,ということである。そのため,事例問題が従来よりも取り組みやすかった受験生もいれば,取り組みにくかった受験生もいたことであろう。

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(参考)該当する用語名を答える事例問題の例
問67 小学3年生のある学級では…(以下略)。
この現象を説明するものとして,最も適切なものを1つ選べ。
① 学級風土  ② 遂行目標  ③ 期待価値理論
④ ピグマリオン効果  ⑤ アンダーマイニング効果

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4.出題内容を読み解く

第3回公認心理師試験後,臨床心理マガジンiNEXT16号にて,以下のような問題提起をさせて頂いた。

「なぜ,そんなところまで訊くのか?」
これが試験中,また試験直後,また今も感じる正直な感想である。
(……中略……)
・こういうことを知っていて,どんな時に役に立つのだろう?
・多職種連携って,ここまで知っていないと成り立たないの?
・生理学的知識の問題が多いが,医者や看護師の役割と心理師の役割はどう違うの?

この切実な迷いは,多くの第3回試験受験生から寄せられた声でもあります。

公認心理師試験の問題は,「将来,心理専門職として活躍する方に,このような知識や理解・視点を備えていて欲しい」という想いのもと,作られていると言えるのでしょうか?
https://note.com/inext/n/n69284eb9942f

では,第4回試験の出題内容はどうだったであろうか。
まず出題されている内容については,奇をてらったキーワードの出題は減り,ブループリント(下記注)に記載されているキーワードからの出題が多くなった。以下は「一般問題の問題文」のうち,ブループリントのキーワードが直接問題文に明記されていた問題である。

(注)ブループリントとは,日本心理研修センターが発表している「公認心理師試験出題基準」のこと。公認心理師として業務を行うために必要な基本的知識および技能を具体的な項目(キーワード)で示したものであり,この基準に従って出題がなされる。

(参考)令和3年版 公認心理師試験出題基準・ブループリント
http://shinri-kenshu.jp/wp-content/uploads/2017/10/blue_print_201912.pdf


〈ブループリント記載のキーワードの直接的出題(一般問題)〉
◆ 公認心理師法(問1)
◆ 因子分析(問6)
◆ 神経発達症群(問13)
◆ DSM-5(問13,14)
◆ TEACCH(問15)
◆ 関与しながらの観察(問17)
◆ 負の相補性(問18)
◆ 職場復帰支援(問20)
◆ 医療法(問31)
◆ 労働基準法(問33)
◆ スーパービジョン(問34)
◆ アドバンス・ケア・プランニング(問35)
◆ 医療倫理(問39)
◆ 適性処遇交互作用(問42)
◆ 犯罪被害者等基本法(問45)
◆ インフォームド・コンセント(問46)
◆ 心理職のコンピテンシー(問47)
◆ いじめ防止対策推進法(問49)
◆ 男女雇用機会均等法(問52)
◆ アクティブ・ラーニング(問68)
◆ 秘密保持義務(問78)
◆ 認知言語学(問86)
◆ 親密な対人関係(問90)
◆ 道徳性(問91)
◆ サクセスフルエイジング(問92)
◆ 国際生活機能分類<ICF>(問93)
◆ 教育評価(問99)
◆ ストレスチェック制度(問101)
◆ 動機づけ理論(問102)
◆ 抗認知症薬(問106)
◆ 児童福祉法(問107)
◆ 少年法(問108)
◆ 味覚(問112)
◆ アウトリーチ(問114)
◆ 心身症(問115)
◆ 医療観察法(問120)
◆ 倫理的ジレンマ(問123)
◆ 心理学における研究倫理(問125)
◆ アルコール依存症(問126)
◆ 自己効力感(問128)
◆ ケース・フォーミュレーション(問132)

なお,事例問題や選択肢の文中の記載,間接的な出題を含めると,さらにブループリント関連キーワードの出題は多くなる
また,ゲシュタルト心理学(問4),ストレンジ・シチュエーション法(問48),F. Herzbergの2要因理論(問102)など,過去問と類似した問題も多くみられた。そのため,ブループリントと過去問をやりこんで試験に臨んだ受験生は,「見たことがある用語」に多く遭遇したのではないだろうか。そしてそのことは試験に取り組む上で,この上なく心強かったことであろう。

また,学びにつながる問題も多く出題された。例として,以下の問21を挙げたい。

問21 2018年(平成30年)時点において,児童養護施設における入所児童の特徴や傾向として,正しいものを1つ選べ。

① 入所児童は,年々増加している。
② 家族との交流がある入所児童は,半数を超える。
③ 被虐待体験を有する入所児童は,半数に満たない。
④ 幼児期に入所し,18歳まで在所する児童が年々増加している。
⑤ 入所児童の大学・短期大学などへの進学率は,おおむね60%以上である。

この問題の正解は②である。正直私は,児童養護施設における入所児童の半数以上が家族と交流していることに,驚きを隠せなかった(つまり私は,初見で正解できなかった)。児童養護施設やその入所児童に対して,露骨な偏見を持っていたことがわかる。実際に受験した方々も,試験本番でこの問題を正解することは困難だったであろう。しかし,この問題は「児童養護施設に対する偏見を修正して欲しい」という試験委員のメッセージのようにも読み取れるのだ。そしてそのメッセージは,これから受験する方たちにも伝わっていくだろう。同様の出題は,我が国の貧困問題に関する問55でもなされていた。ぜひ今後も,公認心理師試験によって学ばせて頂きたい,という想いを改めて感じることになった。

さらに第4回試験のもう1つの特徴として「時代を反映した事例問題」が多かったことが挙げられる。新型コロナウィルス感染症に関する事例(問149),大規模な地震の被災者の事例(問64)だけでなく,救出活動に従事する支援者側の事例(問143)も出題されている。また教育分野については,生徒がクライエントとなる事例だけでなく,生徒対応に困る教師からの相談事例(問139,問146,問147,問152)が出題されている。さらに,アクティブ・ラーニングを取り入れた授業の実施に関する事例(問68)や,携帯電話や動画の視聴で生活の乱れが見られる大学生の事例(問151),過労から失踪してしまった会社員の事例(問153)など,今の時代を反映した事例問題が多く出題されていた。
また「喪失体験に関連した事例問題」も多かった。娘を交通事故で亡くした母親の事例(問73),いじめが原因と疑われる自殺に関する事例(問74),ゴルフ友達を亡くした中年会社員男性の事例(問142),保護者が所在不明で児童養護施設に入所している中学生の事例(問145)などが挙げられる。

これらの事例問題は,公認心理師として活躍が求められている領域の広さや,支援を要する人々の多様性の理解につながり,やはり今回の受験生だけでなく今後受験する方にとっても,有益なものとなるだろう。

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5.総 評

では,あらためて冒頭の疑問に戻ってみよう。

いつもと何かが違う。興奮と緊張というより,どこか安心感に近い感覚。スムーズに解答を選んでいくことができる。もちろん,初めて聞くような用語に出会うこともあるが,例年よりも感情の振れ幅が少ない。第1回追試験も含めれば,公認心理師試験も5回目。ずいぶん試験に慣れてしまったのだろうか。それとも……?

今回の試験分析は,上記で述べたような不思議な感覚の正体を明らかにする所から始まった。第4回公認心理師試験は,どのような試験だったのだろうか。

試験分析を振り返ってみると,第4回試験は第3回試験までと比較して,取り組みやすかった試験ではないかと思われる。その理由は,以下のようにまとめられる。

① 従来の試験と比較して,難易度C問題が増加。
② 答えやすい形式の増加。(5肢択二の出題減少。用語名を答える事例の増加)
③ ブループリントや過去問の「見たことがある用語」が多数出題。
④ 心理専門職にとって,必要性を感じにくい難問の減少。

本稿では,特に④に注目したい。
第3回試験では,「出題の意図」を感じにくい問題が多く出題され,問題が難しいだけでなく,出題の意図も理解できない……という二重苦が,多くの受験生を苦しめた。もちろん,第4回試験の問題の中に「なぜこの内容?」という問題が全くないわけではないが,その割合は少なくなり,総じて「将来,心理専門職として活躍する方に,このような知識や理解・視点を備えていて欲しい」という想いのもと,作られた試験に変わりつつある,と言えるのではないだろうか。第4回試験に感じた「不思議な安心感」は,上記のようなものだったのかもしれない。

また公認心理師試験は,一見すると「マニアックな知識を収集しなければ太刀打ちできない試験」と思われがちだが,決してそうではないこともより明確になった。奇をてらわず,知識の寄せ集めに走らず,あらゆるキーワードに根差す共通の下地となる「基礎」をおさえる。基礎をおさえた上で,ブループリントと過去問を学び,深めていく。このような「王道の学び」が,合格への道となることへの確信。これが「不思議な安心感」のもう1つの正体と言えるだろう。

なお,基礎を学ぶとはどのようなことか,それをどのようにブループリントや過去問につなげていけば良いのか,より詳しく知りたい方は,河合塾KALSより発表されている第4回試験の分析速報をご覧頂きたい。本稿では語りきれなかった,第4回試験のより詳細な分析と,今後の学びの方針が記されている。ぜひご活用頂きたい。
https://www.kals.jp/clinical-psy/pdf/kounin_20210919.pdf


■デザイン by 原田 優(東京大学 特任研究員)

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Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.23


◇編集長・発行人:下山晴彦
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