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24-2.大事例検討会へのお誘い

(特集 脱☆仲間割れ)
下山晴彦(東京大学/臨床心理iNEXT代表)
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.24

1.「オンライン大事例検討会」ご案内

臨床心理iNEXTでは,遠見書房と共催で「オンライン大事例検討会」を下記要領で実施いたします。本企画は,ケースフォーミュレーションをテーマとして,メンタルケアに従事する専門職および院生の専門技能の向上を目的としたものです。多くの方のご参加を期待しております。

みんなで学ぶ大事例検討会
─ベテラン・セラピストのケースフォーミュレーションをめぐって─

【日程】
第1回 2021年12月19日(日)/第2回 2022年1月23日(日)
第1回と第2回ともに13:00~17:30
【事例発表】
〈第1回〉下山晴彦・林直樹/〈第2回〉伊藤絵美・田中ひな子
【討論メンバー】
伊藤絵美・岡野憲一郎・下山晴彦・田中ひな子・津田容子・林直樹・吉村由未(アイウエオ順)
【参加条件】
守秘義務を遵守できるメンタルケア専門職及び専門職養成大学院の院生。
⇒詳しくは,本文記載を参照ください。
【参加費と申込み】
■臨床心理iNEXT有料会員(150名):2回分セットで6,000円
⇒ https://select-type.com/ev/?ev=EH2L_f_yDnQ
■iNEXT有料会員以外の方(150名):2回分セットで8,000円
⇒ https://select-type.com/ev/?ev=fiI5LJi3KwY

本事例検討会は,ベテランのセラピストが,自身の担当した事例のクライエント様にケース発表の了解について書面で同意を得た上で,さらに個人情報や個別情報等について事例の本質が変わらない程度の改変をして事例が特定されないように加工をしたものを発表し,検討します。このような情報保護の手続きに加えて,事例検討会参加においても秘密保持が必須の条件となります。そこで,参加者は,下記の条件を満たす人に限定させていただきます。

【参加条件】
1)秘密保持が義務付けられている専門職
・心理職(公認心理師または臨床心理士)
・医師,看護師,社会福祉士,精神保健福祉士などのメンタルケアに関わる専門職

2)秘密保持を遵守できる上記の各種専門職養成の“大学院”に在籍する院生

3)専門職としての責任をもって参加いただくために実名を参加画面に記載してZoomに参加できる人

4)欠席しても記録映像をオンデマンド配信しないので,そのことを了承できる人


⇒参加申し込みをする際には,上記1)~4)の条件に同意したことを承認したものとして登録をしていただきますので,その点をご了承ください。

2.プログラムの構造化

臨床心理iNEXTは,これまで「大谷彰先生をお迎えしての事例検討会」と「平木典子先生をお迎えしての事例検討会」という2つのオンライン事例検討会を実施してきました。これらの経験を踏まえてオンライン事例検討会のノウハウを蓄積しつつあります※)。

※)オンライン事例検討会に関連する記事
■臨床心理マガジン18-1号
https://note.com/inext/n/na1edbec35ceb
■臨床心理マガジン18-3号
https://note.com/inext/n/n11a10fa9abf5

そこで,「みんなで学ぶオンライン大事例検討会」を企画する際には,有効な議論を発展させるために,これまでの経験を踏まえて下記に示す構造化を施したプログラムとしました。

通常の対面の事例検討会でも,偉い先生や自己主張が強い参加者が意見を朗々と述べて,慎重に物事を考える参加者や控えめな参加者は黙ってご意見を拝聴するという構図になりがちです。さらに,それがオンラインでの議論となれば,参加者はお互いの様子を探りながらの進行となります。その結果,多くの皆さんが発言を控えめとなり,一部のメンバーの発言が多くなりがちです。そこで,参加者の発言を平等に保証するためにPCAGIP法※)を参考として,討論参加者全員に順に質問と意見をお願いする手続きとしました。

※『新しい事例検討法 PCAGIP法入門』(村山正治・中田行重(編著),創元社)
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=3618

さらに本企画は,副題にありますように“ケースフォーミュレーション”をテーマとしています。ケースフォーミュレーションは,学派の理論モデルに基づく推論ではなく,アセスメントで得られたデータに基づいて形成する事例の成り立ちに関する仮説です※)。そのため,ケースフォーミュレーション形成には,事例の問題や進行に関連する事実経過の情報が重視されます。そこで,事実情報についての質疑応答のための「質問タイム」と,参加者の意見を交えて議論する「討論タイム」を分けました。

※『ケースフォーミュレーションと精神療法の展開』(林直樹・下山晴彦(編),金剛出版)
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b515015.html

1事例の検討のためのスケジュール(120分)

①[発表タイム]
 プレゼンメンバー(一人)による事例発表(50分以内)
②[質問タイム]
 プレゼンメンバーが順に質問し,発表者が回答(10分)
③[討論タイム]
 プレゼンメンバーの意見と討議(15分)
④[質問+討論タイム]
 コメントメンバーの質問・意見と討議(15分)
⑤[全体討論タイム]
 プレゼンメンバーとコメントメンバーを含めた討議(25分)
 (時間の余裕があれば,参加者からチャットで質問を受ける)
⑥[発表者の感想タイム](5分)

※参加者の意見:終了後に「質問・意見」を記載するアンケート実施
※1回の事例検討会で2事例を扱う。前半2時間で1事例の検討をし,30分休憩し,後半2時間でもう1事例を検討する。

事例検討のメンバーは,ケース発表に加えて討議に参加する“プレゼンメンバー”とケース発表はせずに討論のみに参加する“コメントメンバー”に分けて,メンバーの役割を明確化しました。事例検討の進行は,プレゼンメンバーによる質疑応答をまず実施します。次にそのプレゼンメンバーの質疑応答を観察していたコメントメンバーによる質疑応答を行います。このように構造化することで,コメントメンバーは,プレゼンメンバーによる討議で抜けていた論点を把握し,議論を深めることができます。その後にプレゼンメンバーとコメントメンバーが合同しての全体討議になります。

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3.なぜ“大事例検討会”なのか?

本企画のタイトルが「みんなで学ぶオンライン大事例検討会」となっています。「なぜ,大検討会なのか?」という疑問をもった方も多いのではないでしょうか。実際には,討議に参加する人数は,司会を入れて7名です。7名というのは,事例検討会としては小規模といえるものです。それなのに,「なぜ?」というのは,確かにその通りです。

日本では,ケースフォーミュレーションが定着しているとはいえません。それは,ケースフォーミュレーションは認知行動療法特有の方法であるといった誤解があるからだと思います。しかし,実際には,ケースフォーミュレーションは,心理療法の個別学派の理論やモデルを超えて「的確な臨床判断に基づいた治療計画」※)を立てるために必要となる手続きです。

※『心理療法におけるケース・フォーミュレーション−的確な臨床判断に基づいた治療計画の基本ガイド−』(Eells T.D.(著),津川律子・岩壁茂(監訳),福村出版)
https://www.fukumura.co.jp/book/b591802.html

近年,メンタルケアの領域では,心理療法に限定されずに幅広くコミュニティに関わっていくさまざまな方法を柔軟に組み合わせて実施するケースマネジメントが求められるようになっています。ケースフォーミュレーションは,そのようなケースマネジメントを実践していくために必須となる手続きです。そこで,本企画では,7名と小規模ですが,多様なメンバーで事例検討会を実施することにしました。

活動のオリエンテーションが異なり,しかも年代の異なる皆様にメンバーとして参加いただくことにしました。広くメンタルケアの専門職の連携や協働の発展ということも目指して精神科医師の先生にもご参加いただくことにしました。このようなバラエティに富んだメンバーで事例検討会を実施することで,ケースフォーミュレーションを幅広く活用するための素地を創りたいという大きな目標を掲げました。つまり,規模に見合わない大風呂敷を広げた(?)検討会という意味で「大事例検討会」と名付けました。

さらに,オンラインを通して多くの皆様にその実験的試みを観察し,共有していただくという構造としました。オンラインの時代の賜物として大勢のメンタルケア専門職や院生が参加できるという意味では,文字通り「みんなで学ぶ大事例検討会」となっているかと思います。

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4.バラエティに富んだ検討会メンバーのご紹介

さて,今回の大事例検討会のメンバーをご紹介させていただきます。この企画は,私,下山が“言い出しっ屁”(発案者)です。さまざまなオリエンテーションの皆様と一緒にケースフォーミュレーションを巡っての自由な事例検討会をしたいと考えました。そこで,松沢病院の精神科部長をされていた頃からお世話になっていた精神科医の林直樹先生にお声をかけて企画の相談をしました。林先生は,帝京大学医学部精神神経科学講座の教授をされていた2020年にパーソナリティ障害を軸とした事例検討の書籍※)を出版されており,事例検討会の方法についてアドバイスをいただきました。

※「心理療法のケースをどう読むか?」(林直樹・野村俊明・青木紀久代(編),福村出版)
https://www.molcom.jp/products/detail/138654/

事例の発表についてはバラエティを重視するということで,私と林先生の他に,洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長として認知行動療法を軸とした統合療法であるスキーマ療法を展開している伊藤絵美先生,そして原宿カウンセリングセンターの所長として虐待やDV,嗜癖などのケースについて家族支援を含めて実践されている田中ひな子先生に加わっていただくことにしました。

討論メンバーとしては,精神科医であり精神分析家でもある京都大学教授の岡野憲一郎先生,精神分析から出発して現在はスキーマ療法を実践しておられる洗足ストレスコーピング・サポートオフィスの吉村由未先生,認知行動療法から出発して現在はコミュニティに根ざした幅広い支援を実践しているよこはま若者サポートステーションの津田容子先生に参加いただくことになりました。臨床現場や方法が異なるというだけでなく,年代的にもベテラン,中堅,若手とバラエティに富んだメンバー構成になっております。

以下に各メンバーの自己紹介の文章を掲載させていただきます。敬称略ということでお許しください。

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5.第1回検討会の事例発表者の紹介

【下山晴彦】

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大学院を中退し,大学内の学生相談機関と保健センターで約13年,常勤の心理相談員として勤務した。その後,大学の臨床心理学教員となった。その間,入院病棟のある精神科クリニックや銀行の相談センターで非常勤心理職として仕事をした後,現在は開業の心理相談センターにて臨床実践をしている。大学院ではクライエント中心療法,学生相談の時代は近藤章久先生に精神分析的心理療法,平木典子先生に家族療法やグループ療法,山本和郎先生にコミュニティ心理学などを学んだ。その後,山上敏子先生に行動療法を学んだことをきっかけとして認知行動療法を軸としてさまざまな技法を用いた心理支援を実施している。臨床テーマは,個人と,その人が生きている生活環境をつないで支援する”つなぎモデル”の実践である。臨床歴は,大学院を中退して臨床現場に出て実践をはじめて38年になります。時間だけが疾く過ぎて行くこと感じる今日この頃です。

【林 直樹】

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医学部を卒業して40余年,ずっと精神科臨床に軸足をおいてやってきました。いろいろ勉強してきたつもりですが,診療に専心したいということで,系統的に特定学派の心理療法の訓練を受けることを怠ってきました。ささやかな例外は,5年間やっていたT‐グループでしょうか。これは日常の診療(多職種協働など)の土台の一つになっていると思います。また,安永浩先生とハインツ・コフート先生には(畏れ多いですが)心の中に居ていただいて(いるつもりで)います。雑多な患者を対象とする一般診療では,心理療法を特定の学派のものに限定していたらやっていけません。そこで私は,なんでも役に立ちそうな方法を使うという意味での統合的立場,そして多様な診療情報を総合して治療プランを作るという意味でのケースフォーミュレーションを診療の柱にしています。

6.第2回検討会の事例発表者の紹介

【伊藤絵美】

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私は慶應義塾大学の心理学専攻卒業で,学部時代は基礎心理学を学び,認知心理学のゼミ(指導教官:小谷津孝明先生)に所属していました。基礎心理学なので徹底的に科学的な心理学の方法論を叩きこまれ,心理学実験のレポートに追われる日々でした。心理学を職業にするには,当時できて間もない「臨床心理士」という資格があることを知り,大学院では同じ慶應ながら臨床系のゼミ(指導教官:山本和郎先生)に移りました。その際,小谷津先生に「学部で学んだ科学的な認知心理学を臨床に活かすには,エビデンスベーストの認知療法・認知行動療法を学ぶとよい」とアドバイスをもらい,これが私のキャリアを決定づけました。修士を終了し,博士課程に進む時期に精神科のクリニックに心理士として入職し,長く個人カウンセリングや家族相談やデイケアの運営に携わっていました。その後,民間企業に勤めた後,2004年に開業し(洗足ストレスコーピング・サポートオフィス),今に至ります。認知療法・認知行動療法を長く実践してきましたが,現在は,その発展型であるスキーマ療法の実践と普及に力を入れています。

【田中ひな子】

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立教大学大学院社会学研究科修了後,教育相談室と嗜癖問題臨床研究所附属CIAP原宿相談室を経て,1995年より原宿カウンセリングセンターに勤務しています。大学院では早坂泰次郎先生から現象学的心理学,佐藤悦子先生から家族療法を学びました。就職してからは信田さよ子先生からアディクション・アプローチ,白木孝二先生から解決志向アプローチのご指導を受けました。現在は「ニードに応える」,「効果的なことを見つける」,「効果的なことを続ける」をモットーに,解決志向アプローチ,ナラティヴ・セラピー,コラボレイティヴ・アプローチなど社会構成主義に基づく心理療法,心理教育やグループを重視するアディクション・アプローチ,EMDRやブレインスポッティングなど身体志向のアプローチを活用しています。

7.コメントメンバーの紹介

【岡野憲一郎】

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私は1987年精神分析家になることを志して渡米し,2004年にその資格を取得して帰国した。しかし伝統的な精神分析の考え方には違和感を覚えることも多く,コフート理論や新しい学際的な流れ(米国における関係精神分析など)により親和性を感じている。また私は精神科医でもあるので,精神分析と精神医学と脳科学との融合を図ろうとする米国のGlenn Gabbardのような姿勢が精神分析や精神療法の将来のあるべき姿を示していると考える。ただし精神分析にこだわるつもりはない。クライエントにとっての利益が最大の優先事項であり,そのニーズに即した治療を提供する多元的,ないし統合的なアプローチについては大枠として賛成であり,よく言えば柔軟で,悪く言えば「何でもあり」な治療スタイルにより心地よさを感じつつ臨床を行っている。

【吉村由未】

学生時代は藤山直樹先生に師事し,フロイトを中心に精神分析全般について学んでいました。今回の事例検討会のテーマにもつながりますが,精神分析理論の持つ「見立てる力」は力強く,今も指針にしているところも大きいです。が,いざ自分が臨床実践を志すにあたって,精神分析は神業というか(藤山先生が,なのかもしれませんが),正直「少なくとも今の私には到底同じことはできない」と思い,他の心理療法を模索し始めました。その後諸事&縁あって,2005年から伊藤絵美先生のオフィスのスタッフとして認知行動療法を学び始め,現在はスキーマ療法の実践にも励んでいます。児童相談所の心理司からキャリアを始め,今はフリーランスとして子ども家庭支援センター,学生相談,医療機関など,様々な世代を対象に心理臨床に携わっています。

【津田容子】

東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コースの修士課程在学中より,公共の就労支援機関(よこはま若者サポートステーション)に勤務し,11年目となる。就労における困難の背景には,不登校やいじめ,中退といった学校での躓き,虐待,非行,家族の問題,経済的困窮,ひきこもり(社会的孤立)など様々な問題が存在する。通院や診断の有無を問わず,障害・疾患を抱える人も少なくない。そうした現場にて,個別相談を軸に,プログラム実施,地域の社会資源との連携など,心理支援に限らず,キャリア,福祉の視点も含む,ケースワークに近い取り組みを行っている。上記と並行して,精神科クリニックでのカウンセリング(約4年),現在は同大学院の博士課程にも在籍し,現場での支援,就労支援サービスの質の向上にむけ,実践と研究の両立を図っている。

8.ベテラン心理職の細やかな願い

本企画では,このようなバラエティに富むメンバーで事例検討会を実施します。今回は,比較的ベテランのセラピストが事例を発表し,若手も含めて自由に討論することを目指しています。これは,若手が発表した事例を上位にいるベテランが指導するという,従来の事例検討会で生じやすい権力構造を変えるという意味合いもあります。

しかし,本音は,ベテランとはいえ,発展途上でもあるので,もっともっと学びたいという気持ちが強いということがあります。少なくとも私は,さまざまな年代の人と意見交換することでお互いに学び合い,同じ専門職として切磋琢磨して発展していきたいという,細やかな願いがあります。自分とは異なるオリエンテーション,あるいは自分とは異なる若手や中堅の世代のセラピストとの質疑応答を通して新しい自分を発見できたらと密かに期待したりしています。

本企画は,多様なメンバーが集まって事例検討をすることを通して新しい“仲間意識”を形成できないかという実験的な試みでもあります。現場の臨床経験の共有を土台として新たに“仲間意識”を形成できればと期待しています。そこから,臨床心理マガジン24-1号で議論した““仲間割れ”を超えて,さまざまな立場の心理職が協働して専門活動を発展させる余地が出てくることを,個人的には願っているところです。

このように本企画は,バラエティに富んだメンバーの事例検討会です。バラエティに富んだ,多くの方の参加を期待しております。

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以下は,現在募集中の企画です。

講習会
『子ども認知行動療法スキルアップ講座—介入編—』
【日程】11月28日(日曜)9時~12時
【詳細・申込】⇒ https://note.com/inext/n/n9bf761710aff

■デザイン by 原田 優(東京大学 特任研究員)

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◇編集長・発行人:下山晴彦
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