38-1. マリアージュ「認知行動療法☆遊戯療法」
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1.「認知行動療法に基づく遊戯療法」研修会について
臨床心理iNEXTでは、「認知行動療法に基づく遊戯療法」の理論と方法を学ぶ研修会を企画しました。講師は、認知行動療法と遊戯療法を発展的に融合し、子どもの心理支援の新しい地平を切り拓いている小倉加奈子先生にお願いしました。
この「認知行動☆遊戯療法」研修会は3回から構成されています。基本から応用についての講義、そしてワークショップと、認知行動的遊戯療法を段階的に学ぶことができるようになっています。第1回が7月2日で、「現場で役立つ遊戯療法の基本-認知行動療法をベースとして―」、第2回が7月16日で、「遊戯療法を使いこなす―認知行動療法を活用して―」、最後の第3回が7月30日で、「遊戯療法を使いこなすためのワークショップ」となっています。
この研修会に向けて、講師の小倉先生に認知行動療法をベースにした遊戯療法とはどのようなものか、そして研修会ではどのようなことを目標としてお話をされるのかを伺いました。
2.遊戯療法だけだと限界がある
[下山]今回は、認知行動療法に基づく遊戯療法という、日本ではまだあまり知られていない子どもの心理支援の理論と方法の研修会をしていただきます。小倉先生がこの研修会を通して参加者の皆様にお伝えしたいことはどのようなことでしょうか。
[小倉]一番お伝えしたいのは、遊戯療法と子どものための認知行動療法はとても相性が良いということです。私は、両者を実践する中でそのことに気づき、実感してきました。なぜ相性が良いかというと、遊戯療法と認知行動療法を組み合わせることで、それぞれの限界を越えることができるからです。
認知行動療法だけを子どもに実施しようとしても、子どもは自分自身で現実と向き合って“こんな風に変わっていきたい”という自我や主体性が育っていないので実施が難しいということがよくあります。問題を自分のこととして捉え、そこから「自分はこれが嫌だから、こういう風になりたいんだ」という自我や主体性と呼べるものが、まだ育ちきっていない、あるいは何らかの理由で発揮できない子どもたちとたくさん会ってきました。
そのような場合、認知行動療法だけでは前進することが難しかった。そのようなことを何度も体験しました。
3. 認知行動療法と遊戯療法は、とても相性が良い!
[小倉]子どもが大人と違うのは、彼らは発達途中であるということです。大人ももちろん障害を通して発達していくのですが、子どもたちの方が日々の経験を吸収し、大人よりもずっと多くの変化を見せます。発達する中で自我や、主体性や、それから自己表現というものが育っていきます。遊戯療法を使うことで、発達を促進し、自我や主体性や自己表現を育てることができます。ですから、遊戯療法で子どもの発達を下支えして自我や主体性を育て、その上で認知行動療法を活用して子どもと一緒に問題に取り組んでいくことができるようになります。
子どもの認知行動療法をする際に遊戯療法が発達の下支えになることに気づいたことが、その後、私が認知行動☆遊戯療法を発展させる重要な着眼点になりました。そのような点で遊戯療法と認知行動療法の相性はとても良いわけです。
[下山]確かに認知行動療法は、本人の自我があることが前提になりますね。自己モニタリングをでき、内省できて自分の考え方を変え、行動を調整できるための主体性や自己コントロール能力が前提になっているわけです。しかし、子どもは、そのような機能は十分に育っていない。むしろ衝動的であり、自分の欲求のまま行動することのほうが子どもにとっては自然です。そのため、認知行動療法を子どもにそのまま適用するのは難しい。
だからこそ、遊戯療法と組み合わせることで子どもに認知行動療法を適用できるようになるということは、なるほど理解できますね。認知行動療法にとって遊戯療法と組むことは、そのような利点がありますね。
4.認知行動療法と遊戯療法を組み合わせると何が良いか?
[下山]では、逆に遊戯療法にとって、認知行動療法と組む利点はどのようなことでしょうか。
[小倉]遊戯療法だけで、丁寧に関わることで変わっていく子どももいます。しかし、遊戯療法を10回、20回、30回とやってもなかなか日常生活での変化が見られないケースも少なからずあります。例えば、チックがあり学校に一人で行けないことを主訴とした事例がありました。お母さんが付き添い、登校していました。プレイルームの中では、その子らしくのびのびと遊べていた。私との信頼関係もできてきた。でも、やっぱり日常生活では、「学校一人で行こうね」とお母さんが言ってもできなかった。
また、別のケースでは、本人の発達障害の特性が強くて、お友達との遊び方がわからなかった。それで手が出てしまったりした。遊戯療法を始めてみたものの、遊びの中だけでは日常生活での変化が見られなかった。親御さんも「これ遊んでいるだけですけど、意味があるんですかね」と、結構はっきりおっしゃいました。
そのような時に認知行動療法では、日常生活における子どものアセスメントに基づき、実際にその子に何が起きているのかについてのケースフォーミュレーションを作り、問題を見立てることができます。その見立てるプロセスの中において、遊戯療法でやるべきところと認知行動療法を使うべきところが見えてきます。子どもが遊戯療法を受けて元気になり日常生活での変化がそろそろできそうだとなった時に認知行動療法を使うと、安心して変化に向けて動き出すことができます。
5.遊戯療法の成果を現実での変化につなぐ
[下山]なるほど。プレイルームは、守られた空間内で自分の好きなように遊び、体を動かすことができる点で、子どもにとっては非常に楽しい所ですよね。そのため、遊戯療法が進んで自分の思うままに遊べるようになればなるほど、現実に出ていくのが嫌になる可能性がある。プレイルーム内での遊びを通して自己実現できるほど、現実を回避することも生じてくるというわけですね。
そこで認知行動療法と組み合わせることで遊戯療法の成果を現実につないでいくことができるという利点があるのですね。認知行動療法は、現実の中でどう動けるかをサポートする方法ですからね。そう考えると遊戯療法と認知行動療法の相性は良いことはとても納得できます。
もう一つは、アセスメントとの関連ですね。遊戯療法には、遊びは子どもの発達を促すという前提がある。ただし、そこでは定型発達における遊びが想定されている。健康な発達の潜在能力が信じられている。しかし、発達障害の子どもの場合、その能力の限界がある。したがって、遊戯療法を実施する場合、発達障害のアセスメントをしなければいけないですね。
それは、遊戯療法をどのように適用するかと関わってきますね。さらには、遊戯療法の成果を現実の中で生かしてくためにはどのようにするかもアセスメントしなければいけない。そのようなアセスメントは、認知行動療法が得意とするところですね。アセスメントをし、ケースフォーミュレーションをして介入の方針を定めていくことができる点で認知行動療法は、遊戯療法の弱点を補うことができるわけですね。
6. 認知行動療法を活用して遊戯療法を構造化する
[小倉]私のやっている認知行動療法をベースとした遊戯療法では、まずお話の時間を一緒に決めます。大体15分とか20分とか決めて、「お話が終わったら遊ぼうね」とします。そのように遊戯療法も構造化します。
お話の時間では、認知行動療法をします。例えば、現実の中で怖いことなどにどう向き合っているのかを話します。その後にしっかり遊んで自分の気持ちを表現できる時間があることは、子どもにとっては安心になります。そのような構造で守られた中で日常生活や、不安などの自分自身の感情と向き合うことを子どもと一緒にします。
[下山]遊戯療法は、一定の時間と空間の枠があって、その枠で守られた中で実施する。そのような枠がある点では構造化されている。しかし、遊びそのものは構造化されていないことが多かったと思います。プレイルームという枠はあるが、その中では「自由に遊んでいいよ」という点で無構造です。
それに対して認知行動療法では、現実と相談場面を区切る外枠は、あまり重視しない。むしろ、現実場面で一緒に行動課題を実施することも少なくない。その点で外枠の構造化はしない。しかし、逆に問題をどのように理解し、どのように介入するかのプロセスは、構造化されている。ケースフォーミュレーションも、問題理解を構造化するものと言えますね。
7. 問題状況に即して遊戯療法を構造化する
[下山]このように構造化の種類が異なる遊戯療法と認知行動療法を組み合わせることで、問題や障害の状態に合わせて構造を調整し、安全で柔軟な対応が可能になりますね。両者の組み合わせには、そのような統合性があるという見方で良いでしょうか。
[小倉]あると思います。例えば、遊戯療法には最低限の制限があるので、その程度の構造度はあります。そのような比較的低い構造度でもよくなっていく子どもはいます。しかし、発達障害がある子どもや感情調整が難しい子どもは、構造度が低い状態だと、遊戯療法の中で迷子になってしまう。自己実現の力の出方が怪しくなる。そのような時は、構造度を少しだけ上げることで動きが良くなる。本人も、それで変化を実感し、それが自信につながったりする。
[下山]それは非常に重要な視点ですね。遊戯療法の持っている力を生かすためには、問題状況に合わせた構造化をしていく必要があるということですね。特にASDの場合は、遊び自体ができなかったりする。むしろ自由にしていいよとなると怖くなってしまうこともある。そのような時構造は彼らに安心感を与える。
ADHDの場合は、多くの刺激があることで気が散ったり衝動が収まらなくなったりする。構造があることは、そのような彼らを守ることになる。そのような点で遊戯療法と認知行動療法のマリアージュは、それぞれの幅を広げ、深みを持たせることになる。それぞれの限界を超えることにもなりますね。
8. 世界における遊戯療法の発展と研修会の目標
[小倉]そうですね。やはり認知行動療法と遊戯療法の相性は良いと思います。現在、世界中で両者を組み合わせたプレイセラピーがかなり発展してきています。
発達障害の子どもの構造化されたプレイセラピー、トラウマにフォーカスを当てたプレイセラピー、虐待を受けた子どものためのプレイセラピーもあります。対象となる子どもに即して構造度を調整している遊戯療法があり、そこから適したものを選べたら良いと思います。
[下山]それは楽しみですね。日本では、そのような発想で遊戯療法が論じられることは少なかったと思います。今回の研修会では、そのような遊戯療法と認知行動療法をどのように組み立てていくかをお話いただけるということですね。
そこで、今回の研修会の狙いを教えていただけますでしょうか。研修会は、第1回、第2回、そして第3回があります。それぞれ研修の目標が異なっていると聞いています。それぞれの研修の目標を教えていただけますでしょうか。
9. 第1回「認知行動療法をベースとする遊戯療法の基本を学ぶ」の目標
[小倉]第1回は、遊戯療法と認知行動療法を学び始めた人、あるいは実際にケースを持ち始めた人が対象です。遊戯療法の“力”は、その場が持っている非日常性にあります。遊戯療法を遊戯療法として最大限にその“力”を活用するためにいくつかの重要ポイントがあります。それはアクスラインの有名な8原則としてまとめられています。例えば、子どもの遊びについていくことや、子どもを受容すること、制限を設けることなどです。まず、そのような遊戯療法の特徴について動画を使いながら参加者の皆様に間接的に体験していただきます。
次に認知行動療法について学びます。遊戯療法は、認知行動療法と組み合わせることで子どもの支援法として、とても有効なものになります。そこで、なぜ認知行動療法と組み合わせることで、遊戯療法単体よりも有効な方法になるのかを説明します。
[下山]大学院でケースを持ち始めた人は、最初は子どもの遊戯療法から担当ということが多いと思います。しかし、遊戯療法の理論と技法をしっかりと教わっていることは、案外少ないのではないかと思います。「子どもと遊べば良いのだから、できるよね」といったノリで担当させられることもあるのではないでしょうか。そうであれば、遊戯療法の基本を、改めてここでしっかりと学ぶ意味はあると思います。
もう一つは、遊戯療法と認知行動療法を組み合わせる理論と方法を学ぶことの重要性です。このような組み合わせの学習は、初学者だけでなく、日本のほとんどの心理職は経験していません。経験者でも、ご自身で工夫して試行錯誤しているのだと思います。その点で初学者や初心者でなくても、遊戯療法のベテランの方も、ぜひご参加いただきたいと思います。
10. 第2回「認知行動療法を活用して遊戯療法を使いこなす」の目標
[下山]さて、第2回研修会は、「認知行動療法を活用して遊戯療法を使いこなす」ことがテーマになっています。第2回の狙いを教えてください。
[小倉]第2回は、参加者が「このような使い方ができる」というイメージがしっかり持てるようになっていただくことが目標となります。例えば、身近にいるクライエントさんや子どもに「認知行動☆遊戯療法をこのように使える」と思っていただけることを目指します。
架空事例に基づいて、このような主訴、このような子どもにどのように関わると、どのような変化があるのかを説明していきます。実際のケースで用いているワークシートやツールを紹介し、その作り方や使い方をお伝えします。研修会での経験を、お土産として現場に持ち帰って使っていただけるようにしたいと考えています。
特に認知行動療法と遊戯療法の組み合わせについて馴染みがない人も多いと思います。ですので、2回目は、技法としての認知行動療法の強みはどのようなもので、それをどのように遊戯療法と合体させ、遊戯療法の“力”を倍増させるのかを具体的に説明します。その時に重要となるのが、ケースフォーミュレーションです。ですので、第2回では、「認知行動☆遊戯療法」の核となるケースフォーミュレーションの役割を中心にお話しをします。
(次号に続く)
■記事制作 by 田嶋志保(臨床心理iNEXT 研究員)
■デザイン by 原田優(公認心理師&臨床心理士)
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