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14-1.心理職が繋がるための企画紹介

(特集 “七転八起”の心理職を目指して)
下山晴彦(東京大学教授/臨床心理iNEXT代表)
原田 優(東京大学特任研究員)
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.14

1.“七転八起”の心理職を目指そう

新年明けましておめでとうございます。

昨年4月に発足した心理職の会員組織「臨床心理iNEXT」も,その広報誌である臨床心理マガジンiNEXTも2年目を迎えました。どうぞ,宜しくお願い致します。

臨床心理マガジンは,お正月の松の内が明けるまではお休みをいただいていました。発行再開の準備をはじめた矢先に,緊急事態宣言の発令となり,改めてコロナ禍の厳しい状況を認識しています。厳しい状況といえば,心理職のおかれた状況の厳しさも日々増しています。

公認心理師試験は難問が多く,受験生は苦しんでいます。公認心理師になったとしても,複数の職能団体が並存し,心理職としての統一したモデルやビジョンが見えにくくなっています。多くの心理職は,先行きが見えず,不安定な雇用環境の中で不安を抱えながら日々の臨床活動に取り組んでいます。公認心理師が導入されたことで,専門職としての心理職の現実は,逆に厳しくなっているといえます。

臨床心理iNEXTは,厳しい現実を乗り越えていくために心理職が協力する場を提供することを今年の目標として事業計画を練ってきました。そこで臨床心理マガジンの新春号である14号の全体テーマとして,苦難に負けない縁起物である達磨(だるま)に因んで「“七転八起”の心理職を目指して」と題することとしました。

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そして,今週号の臨床心理マガジン14−1号では,苦難を乗り越えるために「心理職が繋がる」ことを目標として,iNEXTが今年前半に皆様にご提供する事業を紹介することとしました。それとともに心理職が直面している厳しい現実がどのようなものであり,それを打開するために,今何が必要なのかを明らかにします。

なお,本号の執筆者である下山が昨年末に「柴犬とともに新しい動きが起きる」という夢をみたので,柴犬にも特集に参加してもらうことにしました。柴犬の参加を得て,多くの心理職が手を取り合って未来を創っていきことを目指したいと思っています。

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2.2021年前半の臨床心理iNEXT事業

2021年臨床心理iNEXTのテーマは,「心理職のコミュニティ作り」です。
今年前半における臨床心理iNEXTの決定済の事業※を以下に示します。いずれの企画にも臨床心理iNEXT会員には優先特典がついています。
ぜひ,会員になって,一緒に心理職の未来を創っていきましょう。
会員申込⇒https://member.cpnext.pro/inext_regist/memberReception.jsf

下記企画以外にも,「技能研修会」,「対話集会型シンポジウム」,「事例検討会」のそれぞれにおいて新規事業を計画中です。どうぞ,お楽しみに!

※講師や時間,タイトル,募集条件については,今後変更があることをご了解下さい。

【技能研修会】
■3月13日(土)16時~19時【無料・iNEXT会員優先】
国際研修会(同時通訳付き)
コロナ禍における「子どもと若者」の心の健康と支援
──オンライン認知行動療法の活用と可能性──
Paul Stallard(英国Bath大学)/松丸未来(東京認知行動療法センター)

■4月18日(日)13時~17時【一般有料・iNEXT有料会員は無料】
アサーション・トレーニング:ベイシック・コース
平木典子(IPI統合的心理療法研究所)

■4月25日(日)9時~13時【一般有料・iNEXT有料会員は割引特典有】
アサーション・トレーニング:アドバンス・コース
平木典子(IPI統合的心理療法研究所)

■4月25日(日)14時~17時【一般有料・iNEXT有料会員は無料】
Wechsler式知能検査の活用法
──発達障害臨床を中心に
糸井岳史(路地裏発達支援オフィス)/高岡佑壮(東京発達・家族相談センター)

■5月30日(日)13~17時【一般有料・iNEXT有料会員は無料】
思春期の子どもを支援する
──ブリーフ・セラピーを活用して
黒沢幸子(目白大学)


【対話集会型シンポジウム】
■2月28日(日)13時~16時【無料・iNEXT会員優先】

結局,公認心理師とは何なのか?──公認心理師試験から読み解く現状と課題
野島一彦(跡見女子大学)/高坂康雅(和光大学)/宮川 純(河合塾KALS)

■4月11日(日)13時~16時【無料・一部「参加謝礼特典」あり】
心理職としての日々の困り事を見直す
──倫理的視点を切り口として
金沢吉展(明治学院大学)/慶野遥香(筑波大学)

■5月2日(日)13時~16時【無料・iNEXT会員優先】
第4回 公認心理師試験合格に向けて
──難問・奇問・珍問に負けないために
高坂康雅(和光大学)/宮川 純(河合塾KALS)
【事例検討会】
■1月17日/2月21日/3月21日/4月18日/5月16日(いずれも日曜)
【有料・iNEXT会員優先】※現在,メンバーを決定し実施中
iNEXT事例検討会 with 大谷彰先生
大谷 彰(米国Spectrum Behavioral Health)

■6月6(日),6月27日(日),7月11日(日)の13時~16時【有料・iNEXT有料会員優先】
若手心理職のためのケースカンファレンス with 平木典子先生
平木典子(IPI統合的心理療法研究所)

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3.心理職ワールドの“不都合な真実”

昨年は,臨床心理マガジンの企画・編集のために多くの心理職とオンラインで語り合い,インタビューをしてきました。マガジンの反応を感じ,感想を聴き,そこから心理職のおかれた現状を読み取ってきました。

多くの心理職から,言葉にならない「諦めのような,無力感のようなもの」が感じられました。以前からそのことは気にはなっていましたが,当初はコロナ禍の影響かと思っていました。しかし,コロナ禍の第1波が終わって新しい日常が始まっても,その無力感は続いました。さらに,無力感は失望感になってきている印象もありました。

心理職は,ご存知のように1950年代から国家資格化を目指してきました。しかし,それは失敗の歴史でした。「国家資格となったら独立した専門職になれる」と夢見て何回もチャレンジしては挫折してきました。そして,65年間の紆余曲折を経て2015年に悲願が実って公認心理師法が成立しました。

ところが,実際に公認心理師の養成カリキュラムや試験が始まってみると,そこで求められていたのは,独立した専門職としての役割ではありませんでした。医療や行政の下働きをする技術職(実務職)としての役割でした。大学や大学院では,学生も教員も,医師の指示の下で働き,法律や制度を遵守するための知識を学ぶ超詰め込みカリキュラムをこなすので精一杯です。公認心理師試験の問題も,いくら臨床心理学の勉強をしても解けない難問・奇問・珍問が散見されます。(これについては,臨床心理マガジンの次号,次々号で特集します。)

同時に心理職の間では,関連の職能団体や学会の間の分裂や競合が生じています。一般の心理職からみると,仲間割れや派閥争いのようにも感じられ,「どこに所属して良いのかわからず,困惑している」のと声も聴こえてきます。少なくても,心理職にとっては,「専門職として何を目指すのか」という統一した目標は見失われています。むしろ混乱が拡大しています。希望は失われ,無力感や失望感が出てきています。

残念ですが,これが,心理職ワールドの“不都合な真実”なのです。

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4.心理職の未来を建て直すために

臨床心理iNEXTは,昨年4月に「公認心理師の,その先へ」をモットーにスタートしました。公認心理師の資格取得で満足せずに,より専門性の高い心理職を目指すための会員組織として発足しました。

しかし,昨年の活動を通して分かってきたのは,この“不都合な真実”の深刻さです。多くの心理職は,“先がみえない漠然とした不安”を抱えて右往左往しているのです。多くの心理職は,「公認心理師の,その先」を目指す余裕はありません。今大切なのは,“先が見えない”心理職の不安な現実を受け止めることと感じました。そして,皆で協力して心理職の未来を建て直していくことです。そのために臨床心理iNEXTは,“先”を考えるよりも,“今”何をすべきかに取り組まなければいけないのです。

臨床心理iNEXTは,「学ぶ」「磨く」「繋がる」「証す」「働く」という心理職の活動の支援を基本要素としています。昨年は,心理職の専門性向上を目標として“学ぶ”と“磨く”の支援を重視してきました。しかし,“不都合な真実”に直面して専門性の向上を目指すという希望や意欲が失われてきているように感じられます。そこで,今必要なことは,この“不都合な真実”に取り組むために心理職が“繋がる”ことです。

残念ながら,心理職の世界は,職能団体や関連学会が並立し,時には対立することで分断されています。心理職として統一したビジョンと目標を持ち,仲間やリーダーを信じて切磋琢磨することができなくなっています。特に若い心理職は,夢を持てず,不安を抱えながら,目の前の就職や転職に取り組み,安い賃金に甘んじながら,時には非常勤をかけもち,生活のために働くのが精一杯です。

そのような厳しい現実の中で,不安を抱えながらも“志”をもつ心理職が集い,繋がる場(コミュニティ)を提供することが,今何よりも必要です。今年の臨床心理iNEXTは,そのようなコミュニティの場の提供を課題としました。

この課題を達成していくためには,まず心理職の未来が崩れかけている現実から目をそらさないことです。その現実を前提に,心理職として何ができるのかを皆で一緒に考えていくことです。

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5.心理職が“繋がる”ために

失敗を繰り返し,コケてばかりいる心理職ではあります。でも,次に起き上がることができればよいのです。失敗は成功の素です。では,コケている心理職が起き上がるためにはどうしたらよいでしょうか。

私は,少人数でよいので,心理職の厳しい現実から逃げずに「先を目指す(=専門性の向上)」という志を共有する心理職が集う場(コミュニティ)が必要だと考えます。その場の“繋がり”をベースとして,心理職の専門性の発展を目指して,コツコツと切磋琢磨していく。今年の臨床心理iNEXTの事業は,そのような活動を皆様に提供していくことを目指すことにしました。

昨年から引き続いて「技能研修会」を重視しています。研修会も,会員と講師の先生が繋がる場であり,共通のテーマをもつ会員が繋がる場であると位置づけます。そこで,昨年も臨床心理iNEXTの企画にご参加をいただき,本会の“繋がる”趣旨をご理解いただいている先生方に講師をお願いしました。研修会では,講師と参加者,参加者同士のコミュニケーションを大切にしていきます。

■「国際研修会」のPaul Stallard先生には,昨年の臨床心理iNEXTのプレ開設シンポジウムで来日していただく予定でした。しかし,コロナ禍でキャンセルとなりました。今回は,コロナ禍が深刻な英国からオンラインで再チャレンジをしていただきます。

・Stallard先生の邦訳書
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b515056.html
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b515062.html
・松丸未来先生は「2020夏の研修会」で講義をお願いしました。
https://note.com/inext/n/n9643b1ed608c
■「アサーション・トレーニング」研修会と「若手心理職ケースカンファレンス」の平木典子先生には「心理職のライフデザイン」でインタビューしました。
https://note.com/inext/n/n38f082d4b190
■「思春期の子どもの支援」研修会の黒沢幸子先生には,「心理職の技を磨く」でインタビューしました。
https://note.com/inext/n/nff3f31e06539
■「Wechsler式知能検査の活用法」研修会の高岡佑壮先生には,「2020夏の研修会」でご講義いただきました。
https://note.com/inext/n/n27f7cd2d6811

「心理職が繋がる場(コミュニティ)を提供する」ということでは,対話集会型シンポジウムと事例検討会を積極的に企画していくこととしました。専門職としての心理職の夢や未来を打ち砕く先兵となっている公認心理師試験の実情と問題点を分析するシンポジウと,心理職が日々の仕事で直面する困り事を倫理の観点から分析するシンポジウムを開催します。いずれも,参加者との対話を重視する集会とします。

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6.今創りたいと思っている「コミュニティ」企画

上記の企画以外に,新しい試みとして心理職が“繋がる”場として,テーマ別のコミュニティを創って提供したいと思っています。現在,若手心理職である原田優特任研究員と企画案を練っているところです。以下に,その企画案を掲載致します。「このようなコミュニティがあったら良いね」ということで話し合っているところです。

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随分前のことのように感じますが,学会の年次大会や研究会で気心の知れた大学院時代の同期や先輩方との顔を合わせるのは,醍醐味の一つでした。まだまだ慣れない日々の臨床の現場で感じる「心理職あるある」を共有し,時には教えあったり励ましあったりしました。「三人寄れば文殊の知恵」と言いますが,こうした時間は決して独学だけでは得られない多様性と実用性に満ちたアイデアの宝庫です。

地域や領域に差はありますが,心理職は1人職場が多く,心理職同士で話し合う機会が限られているという方も多いのではないでしょうか。特に現場に出て日が浅いほど日々の臨床に追われ,ついつい自分のことは後回しになってしまいがちです。加えてこのコロナ禍の影響で出会い際に「何気なく話す」,そんな機会すら失われています。

そこで本コミュニティでは会員の皆様と「今私たちが気になること」を積極的に取り上げ,情報を共有しあえる繋がりを目指してゆけたらと考えています。今後の取り組みとしては,以下の4つのトピックスを検討しています。

Plan 1:心理職×セルフケア~わたしたちの手当て~
・みんなのオンオフの切り替え方
・自分の不調に気付くには?
・就業時間内でできるリフレッシュ
・先輩たちの工夫
⇒人を癒すためにはまず自分の健康が大切! ベテラン,同年代,様々な立場からアイデアをもらおう。
Plan 2:心理職×他領域~隣の芝生を覗いてみたら~
・ライフイベントを機に転職したいけど,今の職場とどんな違いがあるんだろう?
・他領域での就労を目指す際の勉強方法とは?
・どんなふうに就職したの?
⇒普段は聞けない「実際どうなの?」を他領域心理士で語り合おう。
Plan 3:心理職×お金~心理職のライフプラン~
・心理職として生活するには?
・正社員とパートどっちがいいの?
・個人事業主ってなに?
・税金の支払い方って?
⇒ファイナンシャルプランナー,先輩心理職に聞く生活の実際とライブデザイン
Plan 4:心理職×法律~もしもの時の法律相談~
・いつもの記録,どう残す?
・カウンセリングの情報開示を求められたらどうしたらいいの?
・「訴えてやる!」と言われたら?
⇒いつか来るかもしれない「もしも」のときに備えて,安心して臨床に臨もう。

ぜひ,皆様も「こんなコミュニティがあったら嬉しいな!」という企画案があったら,下記にメールでお寄せ下さい。
shimoyamalab→ shimoyamalab@p.u-tokyo.ac.jp

心理職が皆で協力して厳しい現実に対処しつつ,夢や希望を大切にしていきたいと思っています。皆で一緒にがんばりましょう。

臨床心理iNEXTへの入会は,下記となっています。
https://member.cpnext.pro/inext_regist/memberReception.jsf

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(電子マガジン「臨床心理iNEXT」14号目次に戻る)

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臨床心理マガジン iNEXT 第14号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.14


◇編集長・発行人:下山晴彦
◇編集サポート:株式会社 遠見書房


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