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39-1.iNEXT研修会☆秋冬コレクション

(特集:秋だ!心理職のスキルアップの季節だ!)

下山晴彦(臨床心理iNEXT代表/跡見学園女子大学教授/東京大学名誉教授)

Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.39-1

注目本「著者」研修会

◾️コンパッション・フォーカスト・セラピーを学ぶ
−日本の心理職の栄養源となる理論と技能−


【日時】2023年10月9日(月:休日) 19時〜22時(※夜間講座)
【講師】有光興記 関西学院大学 教授
    小寺康博 英国ノッティンガム大学 准教授

【申込み】
[臨床心理iNEXT有料会員](1000円):https://select-type.com/ev/?ev=19ydGYbhNT0
[iNEXT有料会員以外・一般](3000円) :https://select-type.com/ev/?ev=Tqf0fAgBsVg
[オンデマンド視聴のみ](3000円) :https://select-type.com/ev/?ev=NM9AWJCKeUk

1.  涼を呼ぶ「iNEXT秋冬コレクション」

この残暑は、一体いつまで続くのだろうか!!
 
そんな思いをしていた人も多いのではないでしょうか。猛暑続きの毎日の中で右往左往しているうちに、いつの間にか9月になっていました。夏休みは、猛暑と台風到来の慌しさの中で終わり、気づいたら新学期が始まり、忙しい生活が日常となっていました。
 
そこで、臨床心理iNEXTでは、台風一過、秋風が立つことを期待して、ひと足さきに秋の風情をお届けすることにしました。10月から12月にかけての臨床心理iNEXT主催の研修会のラインアップをご案内します。今注目されている新刊書を導きとして、心理職が学ぶべき最新情報と技能向上を応援するスキルアップ研修会です。
 
秋冬は、じっくりと実力をつける季節です。多くの皆様が、公認心理師制度対応で慌ただしい中、少し立ち止まって心理職の専門性の本質を学び、技能向上を進めるために、臨床心理iNEXTが提供する研修会を活用いただければ幸いです。


2.  「心理職スキルアップ&パワーアップ」の新企画

今期秋冬コレクションのテーマは、「心理職としてのスキルアップ&パワーアップ」です。そのために今までになかった「心理職の専門性とは何かをテーマとする」新企画のオンラインの研修会をご提供します。敢えて「心理職の専門性」を取り上げた理由は、猛暑とともに心理職を疲れさせるものとして公認心理師制度があるからです。
 
心理支援の現場では、公認心理師制度の導入が、半ば強引に進んでいます。国家資格試験が3月実施となり、実習演習担当教員や実習指導者の養成講習会が次々に導入されています※)。また、職能団体は、公認心理師の上級資格取得のための研修会を進めています。
現場の心理職も大学教員も学生も、追われるように公認心理師制度で要請される作業をこなしています。
※)https://kouyouren.jp/archives/3386
 
しかも、その導入は、医療や行政の主導で行われています。その結果、「心理職の主体性や専門性が見失われているのでは」との危機感、さらには無力感が広がっています。心理職仲間で自分達の将来や夢を語り合う場や時間が失われています。そこで、臨床心理iNEXTは、「心理職としての原点に戻り、自分たちのアイデンティティを確認し、スキルアップ&パワーアップをする」ことを目標として、以下にご案内する新趣向のオンライン研修会を企画しました。
 
ネガティブな話はしない事にしました。今は、社会に貢献できる心理職の力を信じ、心理職としてのパワーアップとスキルアップをしていけば良いわけです。臨床心理iNEXTの秋冬コレクションは、秋涼とともに「希望」を皆様にお届けするものです。多くの皆様のご参加を期待しております。


3.  「コンパッション・フォーカスト・セラピー」を学ぶ
 ―日本の心理職の栄養源となる理論と技法―

【日時】2023年10月9日(月:休日) 19時〜22時(※夜間講座)
【講師】有光興記 関西学院大学 教授
    小寺康博 英国ノッティンガム大学 准教授

【注目新刊書】『コンパッション・フォーカスト・セラピー入門』(誠信書房)
https://www.seishinshobo.co.jp/book/b10031905.html
 
【概要】コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)は、イギリスのポール・ギルバート博士が開発した、自分や他者にコンパッションを向けるトレーニングを通じて心の中に温かさや安心感を培うことに焦点を当てた心理療法の1つである。
 
CFTは、進化心理学や神経科学から導かれる「怒り・不安・嫌悪」、「動因・興奮・バイタリティ」、「満足・安全・繋がり」の3つの感情制御システムの中でも癒し(soothing)のシステムに注目し、クライアントのコンパッション溢れる心を育てるために様々な技法を実施する。セラピストのコンパッション溢れる態度も涵養し、認知行動療法や精神分析などの心理療法と統合してセラピーを進めることを目指している。
 
また、マインドフルネスに基づく心理療法は仏教の考え方はあまり引用されないが、CFTは仏教の理論や実践方法を取り入れた形で独自のコンパッションの理論と方法を持つことも特徴である。CFTは、自己批判が強く脅威への対応が難しい難治性うつ病や統合失調症へのアプローチから始まり、今や世界中に広まり適用例は広がり続けている。
 
我々日本人は、自己批判が強く恥や罪悪感への取り組みが必要となることが多く、CFTのテーマに馴染みやすい。CFTは、日本の心理支援の発展のための理論的支柱(=栄養源)となることが期待される。
 
本研修会では、まずCFTの理論をわかりやすく紹介し、イギリスの現状を訳者から紹介する。その後、CFTのプログラムを紹介し、その中で実施される初級者向けのワークを体験してもらい理解を深めていただく。参加者の皆さんは、CFT独自の方法を支える理論を知るともに、ワークを通してコンパッションの意味を体験的に学ぶことができる。
 
なお、注目新刊書の訳者である小寺康博が英国から参加するので、臨床心理iNEXTの初めての夜間講座となる。英国の現状、CFTに関する世界の最新情報も知ることができる。CFTの学習を通して、心理支援の新しい動向を知ることで、日本の心理職は、新たな発展に向けて希望を持つことができ、就寝前の時間を豊かにすることができる。


4.  『ふつうの相談』を徹底的に議論する
―心理職の未来のための設計図を語る―

【日時】2023年10月21日(土曜) 19時〜21時(※夜間講座)
【講師】東畑開人 白金高輪カウンセリングルーム主宰
    下山晴彦 跡見学園女子大学/臨床心理iNEXT代表

【注目新刊書】『ふつうの相談』(金剛出版)
https://www.kongoshuppan.co.jp/book/b627609.html
 
【概要】「居るのはつらいよ」(2019 医学書院)の著者が満を持して、日本の心理療法をめぐる思索を世に問う『ふつうの相談』を出版した。同書は、学派的心理療法論が根強い日本の心理臨床学の現状に対して、医療人類学の方法論を駆使し、学派を超える「ふつうの相談」の意義と、その発展可能性を提示している。
 
病院から学校まで、介護施設から子育て支援窓口まで、そして職場での立ち話から友人への打ち明け話までを含む「ふつうの相談」を根拠として、「人が人を支えるとはどういうことか」、「心の回復はいかにして可能になるか」を論じている。それは日本の臨床心理学に対するラディカルな批判であった。
 
本研修会では、著者の東畑開人が自著で示された現在の臨床心理学への批判について解説するとともに、臨床心理iNEXT代表の下山晴彦が同書に触発されて怒涛の討論を行う。それを受けて両者で日本の心理職の未来をテーマとする対談をする。さらに参加者からの討論を募り、議論を発展させたいと思う。


5.  「精神科診断に代わるアプローチPTMF」を学ぶ
−心理職が医学モデルの“くびき”から自由になる道筋を知る−

【日時】2023年11月12日(日曜) 9時〜12時
【講師】石原孝二、白木孝二、辻井弘美、松本葉子
    『精神科診断に代わるアプローチPTMF』訳者

【注目新刊書】『精神科診断に代わるアプローチPTMF』
https://www.kitaohji.com/book/b620327.html

【概要】本研修会のタイトルにある「PTMF」とは、Power, Threat, Meaning, Frameworkの略である。参考書となる注目新刊書の副題は「心理的苦悩をとらえるパワー・脅威・意味のフレームワーク」となっている。
 
PTMFは、心理的苦悩をとられるパワー(≒権力)に関連して「心のケアに医学モデルを適用することの問題は何か」を明らかにし、「精神科診断によらないアプローチとはどのようなものであり、それを実現していくために何が必要なのか」を具体的に示すものである。本研修会は、英国で誕生し、世界的にムーブメントが拡がりつつある、このPTMFの理論と方法を解説する。
 
本研修会のテーマが最も切実に当てはまるのは、紛れもなく日本のメンタルヘルスである。精神病院への患者収容率が世界で最も高く、入院期間も段トツに長いのが日本である。精神科薬物の多剤大量投与も抜きん出て多い。WHOからも勧告を受けたほどである。これは、医師中心の権力構造となっている日本のメンタルヘルスの深刻な問題状況である。
 
そのような状況の中で、2015年に公認心理師法が成立した。案の定、法律には「心理職は主治医の指示の下で活動する」ことが規定されている。世界の趨勢である多種職平等のチーム支援に逆行する事態である。日本の心理職が主体性や専門性を見失っているとするならば、その要因として医学モデルの権力構造がそこにある。
 
心のケアに医学モデルを適用することは、精神科診断のパワーの源泉である。それは、患者をエンパワーするのとは逆な事態を引き起こすこともある。また、医師中心の権力構造は、心理職だけでなく、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、管理栄養士など、さまざまな専門職の主体的な発展の妨げになることもある。そのような事態の問題構造を理解し、新たな心のケアの方向を探ることに関心がある方にはぜひご参加いただきたい。


6.  「ゲーム依存に対するスクールカウンセラーの総合力」を養う
−今の時代に必要な「ケース理解×チーム作り×スキルアップ」−

【日時】2023年11月23日(木曜:休日) 9時〜12時
【講師】益子洋人  北海道教育大学准教授
    花井博   愛知県公立学校SC みよし市教育センター
    松丸未来  東京都公立中学校S C 私立小学校S C

【注目新刊書】『ガイドブック あつまれ!みんなで取り組む教育相談』
(明石書店)
https://www.akashi.co.jp/book/b614338.html

【概要】今の時代の子どもや若者は、半ば現実(real)世界を生き、半ば仮想(virtual)空間を生きている。不登校も、イジメも、引きこもりも、現実と仮想の往来が問題の発生要因となり、維持要因となり、悪化要因となることが多い。その中で最も手強いのが「ゲーム」である。オンラインで現実の他者とも繋がり、現実と仮想の往来が空間を超えて可能となる。
 
ゲームは、子どもたちに豊かな体験をもたらすものであり、とても魅力的なものである。しかし、同時に行動分析や脳科学を参考にして利用者を虜にする刺激を繰り出し、ゲーム依存を作り出す面もある。現代の心理支援は、このゲーム依存に対処できることが必須条件となる。
 
子どもたちがゲームの中で得る豊かな体験にも目をむけつつ、同時に現実世界で当該の子どもや若者と関係を結び、保護者や教員と連携して問題解決の環境を作りつつ心理支援をしていく従来のスキルも必要となる。そのためにデジタルネイティブな若い心理職の経験と知恵が必要となる。若手心理職は、新しい支援法を作っていくのは自分たちだと自覚する。ベテラン心理職は、時代の変化を受け入れ、新たな知識と経験を謙虚に学ぶ。
 
本研修会では、ゲーム依存とは何かを知り、その対処法を学ぶことを通して、スクールカウセラーとして、また心理職として総合的なスキルアップを目指す。そして、現代社会におけるスクールカウンセリングの新しいモデルを提案する。ゲーム依存の問題解決には、ICTの知識とともに心理職のあらゆる心理支援スキルが必要となる。連携し、チームで支援するスキルも必要となる。まさにケース理解×チームづくり×スキルアップのSC総合力が求められる。
 
また、若手心理職と中堅心理職、そしてベテラン心理職が協力して新しい心理支援の方法を創造していくことが課題である。そのために全国のスクールカウンセラーが参加し、助け合い、知恵を出し合って新たなスクールカウンセリングを作っていく場となるiCommunitiyも紹介する。


7. 「ケース・フォーミュレーションの作り方と使い方」を学ぶ
−診断を超えて問題を具体的に理解し、支援方針を立てる−

【日時】2023年12月3日(日曜) 9時〜12時
【講師】下山晴彦  跡見学園女子大学/臨床心理iNEXT代表
    林直樹   西ヶ原病院精神科

【注目新刊書】事例検討会で学ぶケース・フォーミュレーション(遠見書房)
https://tomishobo.com/ca178.html
 
【概要】ケース・フォーミュレーションは、医学的診断の限界を超え、心理職と医療職といった職種の分断も超えて、個別事例に即した問題の理解と支援のサービスを組み立てていくための“装置”として重要な役割を持つ。診断分類ではなく、個別事例の現実に沿った問題理解という点で、生活場面において心理支援のユーザーに寄り添った活動が可能となる。
 
医療における診断は、問題を一般的な疾病分類に嵌め込む。それに対してケース・フォーミュレーションは、あくまでも問題の成り立ちを個別に理解していく。医学的診断では一般的枠組みへの分類が重視されるのに対して、ケース・フォーミュレーションでは、あくまでも事例の現実に即して問題理解を深める。
 
そこではまた、さまざまな見方の導入を検討することも行われる。その点で個別性や具体性、創造性が重視される。オーソドックスな診断分類では把握できない発達障害や複雑性PTSDなどの問題が増加した今ほど、ケース・フォーミュレーションが重要になっている時期はない。
 
そこで本研修会では、新たな心理支援の発展に向けて、心理職の下山と精神科医の林直樹がそれぞれの観点からケース・フォーミュレーションを解説するとともに、それぞれの事例を発表し、事例検討を通してケース・フォーミュレーションの活用の実際を学ぶ。


8. ASDの「過剰適応」がもたらす二次障害とその支援
-自己の構造の視点から考える-

【日時】2023年12月24日(日曜)
【講師】糸井岳史 路地裏発達支援オフィス代表
    岡野憲一郎 本郷の森診療所院長
    下山晴彦 跡見学園女子大学教授/臨床心理iNEXT代表 

【参考書】「恥と自己愛の精神分析」(岩崎学術出版社)
http://www.iwasaki-ap.co.jp/book/b199549.html
 
【概要】過剰適応」とは、外的適応を優先させることで内的適応がないがしろになることを意味する。内的適応がおろそかになることで、結果的に不登校や抑うつなどの状態に至り、精神的健康が損なわれてしまうことも少なくない。「過剰適応」と、それに伴う不適応は、日本社会に特異的という指摘もあり、日本社会のあり様と不可分に結びついた心理社会的現象と言える。
 
「過剰適応」は、近年では発達障害、とりわけ自閉症スペクトラム障害(ASD)との関連性の強さが指摘されている。ASDに伴う「過剰適応」に焦点が当てられ始めた理由は、それが彼らの長期予後を悪化させ、深刻な二次障害を作りあげる要因となるからである。「過剰適応」によるがんばり過ぎの結果、燃え尽きてしまうと、回復には年単位のリハビリテーションが必要になる。ASDの「過剰適応」の要因については、発達特性の視点や、彼らを取り巻く社会的な視点などから、複数の説明仮説が提案されている。
 
ASDの「過剰適応」は、自己の構造という視点から見れば、「理想自己」と「恥ずべき自己」(「現実自己」)という自己の二極化と、その力動として捉えられるかもしれない。ASDでは育ちの過程において、さまざまな外傷体験が累積されることがある。それらを通して、否定的な自己概念(「恥ずべき自己」)が形成されていく。その「恥ずべき自己」が否定的な方向に歪むほど、代償的に極端に肯定的な「理想自己」を必要とする。「恥ずべき自己」を強く意識するほど、「理想自己」の「理想」は、現実離れした「高い理想」(到達すべき人生の目標)として設定されることが少なくない。
 
見逃してはならないことは、ASDの「現実自己」における「現実」は、「障害」という側面もあることから、変えることが難しい「現実」であるということである。一方の「理想自己」の「理想」は、「障害」という制約を考慮すると、到達不可能な目標になりがちである。決して到達しえない「理想」と、変えることが困難な「現実」との間で揺れ動き、「恥ずべき自己」を克服するための努力が、「過剰適応」と相俟って、決して終わることのない自己との闘いとなり燃え尽きていく、という現状がある。
 
このような現状から、成人期のASDの心理臨床では、「過剰適応」への治療的な支援が急務となっている。しかし、心理職や精神科医、特別支援教育関係者の間では、一部を除くと、ASDの「過剰適応」への関心や危機意識は弱く、その対応は十分には行われていない。
 
そこで本研修会では、ASDとの関連で「過剰適応」の問題の理解を深めるとともに対処法を検討する。発達障害の心理支援を専門とする糸井岳史が「過剰適応」におけるASDの発達特性と自己の問題を解説し、下山晴彦が関連事例を発表する。それを受けて岡野憲一郎が「恥と自己愛の精神分析」や「解離性障害」の観点からコメントをして、「過剰適応」の問題の理解と対処法についての議論を深める。

■記事制作 by 田嶋志保(臨床心理iNEXT 研究員)
■デザイン by 原田優(公認心理師&臨床心理士)

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臨床心理マガジン iNEXT 第39号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.39

◇編集長・発行人:下山晴彦

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